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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第三章「誇り高き屍が遺したもの」

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44.劣勢のエルフ軍

「総員、突撃ーーーーーっ!!!」


 フォレスト王国軍とエルフ族との全面衝突の幕が上がった。対エルフ用に開発された重鎧。朱色に染まったその鎧は、エルフの放つ弓矢やマナ攻撃を面白いように弾いていく。


 カン、カンカンカン!!!


 重量ゆえ、行進速度はゆっくりだが、確実にエルフ陣営へと踏み込んでいく。



「森羅万象を源にせし風のマナよ。竜巻となりて敵を巻かん! ストーム!!」


 エルフの得意な風のマナ。砦の中より次々と詠唱されるが、その重鎧はびくともしない。その間にも王国軍は壕に丸太を敷き詰め、攻撃を弾きながら突進してくる。



(性能が、上がっている!?)


 ローレンは遠距離攻撃が全く効かない相手に驚愕した。少し前の戦いでは多少のダメージは与えることはできた。風のマナで足止め程度は可能だった。それがどうしたことか。全くと言っていいほど効いていない。ローレンが愛用の大弓を構え、矢を放つ。



 カン!!


 無情に弾かれる矢。ここまで戦力差ができてしまっていたのか。ローレンは前線で戦う歩兵隊のアリシアが劣勢に追い込まれるのを見て、全軍に命令を出す。



「撤退、撤退!! 第二砦へ退避せよ!!!」


 第一砦での戦いを諦めたローレン。悔し涙を浮かべるアリシアが、背を向け撤退を始める。その時だった。



 グサッ……


 アリシアは脇腹が急に熱く燃えるような感覚になり振り返る。


「な、なぜ……」


 それは信頼していた歩兵隊の副隊長。手にした短剣でアリシアの脇を突き刺している。同時に沸き起こる激痛。周りにいた兵士が副隊長に斬りかかる。



 ザン!!!


「ぎゃっ!!」


 倒れる副隊長。だが絶命寸前で小さくつぶやいた言葉が、皆を動揺させることとなる。



「こ、これでいい。これで私の家族は無事……、これでいい……」


 副隊長が息を引き取る。内通。密約。圧倒的軍事力を誇るフォレスト王国軍が攻めて来るのに、森のエルフごときでそれを防げる訳がない。誰もが思い、誰もが口にしなかった言葉。だから王国軍はその()()をしっかりと狙っていた。



「ア、アリシア!!!」


 思わずローレンが駆けつける。水のマナ使いの応急処置で一命は取り留めたが、これ以上の戦闘は不可。いきなり歩兵隊の最高戦力の一翼を失ったエルフ軍。だがそれ以上に彼の動機が皆を動揺させた。



(やはり勝てないんじゃないか……?)

(他にも内通者がいるのか?)

(これからあの『朱色の悪魔』とどうやって戦うんだよ……)


 エルフ達の共通の不安。戦では必ず起こる負の感情。それが思わぬ形で皆に連鎖を始める。ローレンが血を流し倒れるアリシアに言う。


「無理はするな。生きていてくれればそれでいい」


「も、申し訳ありません……」


 アリシアは、このような不甲斐ない形で大切な戦から脱落することを深く恥じた。脇腹の痛みよりも辛い事実。堪えていた涙が溢れ出す。ローレンが言う。


「大丈夫だ。我々は勝つ。必ずこの森を守り、そして皆で笑い合う」


「はい、ローレン様……」


 歩兵隊長アリシアの脱落。第一砦の陥落。内通者。ローレンの言葉とは裏腹に、エルフ軍は劣勢へと追い込まれる。そしてその転機を迎える。




「第三砦、もう限界です!! ローレン様、ご指示を!!」


 最後の砦である第三砦の陥落が迫る。この先はエルフ族の村が広がる非戦闘地帯。この砦の陥落は村の蹂躙を意味する。更に勢いが増す王国軍。エルフ族は被害を最小限に抑えながら後退を続ける。ローレンに最後の決断が強いられる。

 一方、後方で指揮をしていたレザが、まったく何もしないベートに向かって苛立って言う。



「ベート、お前ら何しに来たんだ!?」


 圧倒的優位な戦況。今更自分達が出たところ大差はない。そう思ったベートが答える。


「別に俺達がいなくても勝てんだろ?」


 キャロットのことを思えば辛いセリフ。だが今はこの『何もしない状況』が精一杯できること。レザが大剣を地面に叩きつけて怒鳴る。



「ふざけんなよ!! てめえ、それでも要か!? 働けよ、働けってんだ!!」


 周りの側近達が顔を青くする中、ベートが静かに答える。


「必要な時に必要に動く。俺はお前の傘下に入った覚えはねえ」


「ちっ、クソが……」


 レザは意のままに動かぬベートに愛想をつかし、他の部下に命じる。



「突撃だ、突撃!! 抵抗する者は斬り捨てよ、降伏する者は生け捕りにしろ!!!」


「はっ!!」


 側近達が頭を下げ散っていく。

 怒りに震えるモモコ。悲しみで涙を流すキャロット。静かなベート。その中でも一番冷静なミリザが言う。



「……変ねえ」


「何がだ?」


 ベートの問いかけにミリザが答える。



「なんと言うか、()()()後退しているように見えるの」


「わざと? どういう意味だ?」


「分からないわ。でも何か作戦があるのかもしれない」


「ふーん……」


 ベートは破竹の勢いで突き進む国王軍を見つめた。





「後退後退後退!! 全軍速やかに後退せよ!!!」


 エルフ軍は全軍の後退を強いられていた。敗色濃厚。下がる士気。だが目の輝きを失わない司令官ローレンが後方を見て叫ぶ。



「侯爵、お願いします!!!!」


 その言葉に応じて現れた肌色の悪い紳士。顔には大きなアイマスクを付け、誰だか分からない。


(人族? 誰だ、あれ?)


 その様子を見ていたレザが首をかしげる。そしてそれは起こった。



「いでよ、我が同志!! 既死体復活アンデッド・リボーン!!!」


 ゴゴゴゴゴ……


 王国軍が立つ大地が揺らめき始める。



「な、なんだこれ!?」

「ア、アンデッド!!!」


 揺らぐ地面から湧き出る屍の悪魔『アンデッド』。スケルトンにグール。それが群れを成して地中から現れ、動き始める。仮面の男が言う。



「失意の中、私と共に散った同志よ。今こそその無念を晴らさん!!!」


 魔獣国『序列参位』マーベルト侯爵。彼は自分の想いに応えてくれる死者を操る能力を持っていた。

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