43.決戦の日
エルフ族より『朱色の悪魔』と呼ばれ恐れられているフォレスト王国・重歩兵軍団。エルフ族討伐の為に王城を埋め尽くすように集まったその真っ赤な集団は、異様ともいえる風景を作り出していた。
目的はひとつ。エルフ族の一掃。不当に森を占有し、いずれ人族に害をなす存在として長年争いを続けてきた。その決着がこの遠征でつく。
「お前達、よく聞け!!」
真っ赤な鎧の海の前に立った、眼光鋭き黒髪のオールバックの男レザ・スリーデルが皆に叫ぶ。
「ついにこの日がやって来た!! 俺達フォレストの民が忌むべくエルフ共を一掃する日が!!」
「うおおおおお!!!!」
「レザ様ーーーーっ!!!」
フォレストの要であり、強気な性格で兵士からの支持が高いレザ。その呼びかけに皆が興奮気味に応える。
「俺達を勝利に導く『赤き鎧』、そしてお前達の熱い心があればこの遠征ですべてに決着がつく!! 気合い入れろよ!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
カンカンカンカン!!!!
兵士達が朱色の鎧を叩き指導者の熱弁に応える。それほどフォレスト軍が開発したこの朱色の鎧はエルフにとって有効であった。弓はもちろん、遠距離マナ攻撃も防いでくれる。
歓声沸き起こる兵士達。その様子をレザ達幹部の脇からベート達が複雑な表情で見つめる。
「そして吉報だ!! 俺達フォレストの援軍に、なんとシルバーナイツの要が加わることになった!! これで勝利は間違いねえ!! だよな? ベート!!!」
(げっ!?)
まさか名前を呼ばれると思っていなかったベートがビクンとして体を震わす。拍手。大歓声。司令官レザから紹介されたベートが顔を引きつらせながら立ち上がり、兵士達に向かって手を振る。モモコが言う。
「ベート様、やっぱりすごいです!!」
「本当だ! ベー太は要なんだもんな!!」
感激するモモコとキャロットの言葉を聞いたミリザが苦笑しながら言う。
「よく見てごらんなさいよ。左手、お尻を押さえているでしょ? 緊張でお腹壊しているのよ。ぷぷっ……」
ベートの顔には大量の脂汗。人前に出ることが苦手な彼にはこの大声援は地獄のようなもの。早くトイレに行きたいに違いない。レザが叫ぶ。
「ではこれより進軍を開始する!! フォレストに光あれ!!!!」
「「フォレストに光あれ!!!」」
士気高く、統率の取れた『朱色の悪魔』の群れが、次々とフォレスト大森林へと向かっていく。その光景は異様なものであり、エルフ族からしたら生きた心地のしないものであろう。
白のフードを深くかぶったキャロットは、何もできない悔しさでひとり体を震わせた。
「ローレン様!! 王国軍の進行を確認!! 森林街道を真っ直ぐこちらに向かっております!!!」
フォレスト大森林を貫く大動脈、通称『森林街道』。王国の物流の大動脈であり、戦の時は進軍ルートとなる。当然エルフ族はここに幾つもの軍事拠点を築き、敵に対処する。
第一砦の高台に立った若き頭領ローレン・エグファイヤーは全身から噴き出す汗を感じながら、はるか遠くに見える朱色の集団を見て皆に命じる。
「我々の生死が決まる戦だ!! 全員生きてこの森を守るぞ!!!」
「おおーーーっ!!!」
砦の前に掘られた壕。木で組まれた防御壁。その後ろに並ぶ弓隊、マナ隊。『朱色の悪魔』相手にどこまで戦えるのか分からない。緊張の消えない顔をした司令官に、白髪のポニーテールの女戦士が声をかける。
「ローレン様、我々は勝ちます。必ず勝ちます!!」
エルフ族でも数少ない歩兵隊。その隊長を務めるのが白髪のポニーテールのアリシア・マッケンライア。両手剣の使い手で、その華奢な体からは想像もできないほど強力な剣撃を放つ。ローレンがアリシアの肩に手を置きそれに答える。
「ありがとう。だが無理はするな。生きてまた会おう。それが命令だ」
「はっ」
アリシアが頭を下げ、前線へと向かう。数、質ともに圧倒的に不利な状況。地の利だけでは決して勝つことのできない相手。だがローレンにはあの男の言葉がずっと頭に響いていた。
――必ず勝ちます
具体的な作戦は分からない。指示された戦術通りに戦うのみ。ローレンは背にある大きな弓を手に取り、これから始まる戦を見据えた。




