42.協力要請
「わ、私は反対ですぅ。そんな酷いこと、できません……」
フォレスト王城でレザ・スリーデルとの会談を終え、宿屋に戻ったベート達。早速作戦会議が開かれていた。涙目で討伐参加に反対するモモコ。だが不参加となればフォレストの要の協力は得られない。ミリザが言う。
「どうするの? ベート。討伐は二日後だよ」
先ほどから腕組みをして黙ったままのベート。青い顔をして下を向くキャロットを見てから言う。
「エルフ族討伐、人身売買、レザっていういけすかねえ奴。とにかく色々ありすぎて混乱する。ただ一つ言えることは情報がまだ少ないってことだ」
「そうね。今一番知りたいことは……」
そう口にするミリザの後に続いてベートが言う。
「人身売買の有無、だ」
レザ・スリーデルらが本当にエルフの人身売買を行っているならば問答無用で協力などできない。ただ証拠がない。キャロットが言う。
「スリーデル公爵の別館が郊外の森にあるんだ。あそこで時々、オークションをやっているって噂がある」
「オークション? 酷えな……」
想像もしたくない。露骨に嫌そうな顔をするベートにミリザが言う。
「とりあえずさ、今日の夕方にフォレストにいる私の同志に会う約束ができたの。そこで聞いてみない?」
「そうか。じゃあそうするか。よし、話がまとまったところで、そろそろ飯に行こう。腹減った」
そう口にするベートにモモコが遠慮気味に言う。
「あ、あの、今日はお肉が食べたいですぅ……」
ベートが頷いて答える。
「当然だ。あんな葉っぱばかり食べていたら動けなくなる」
それを聞いたミリザが立ち上がって反論する。
「はあ!? 何言ってるの、二人とも!! 野菜は健康にいいのよ。ほら見てよ、私の肌。ここに来てからつるつるよ!!」
そう言って前髪を上げ皆に見せつけるミリザ。ベートが興味なさそうな顔で答える。
「ああ、分かった。お前は野菜食っとけ。さ、行くぞ」
「ちょ、ちょっと! ちゃんと見てよ!! 本当に綺麗になったんだから!!」
ミリザは不満そうな顔で皆の後に続いて部屋を出た。
「こんにちは。魔獣族のミリザと言います。よろしくお願いします」
その日の夕方。約束通り森の一角にある待ち合わせ場所に向かったベート達一行。そこに現れた獣族の男にミリザが挨拶をする。
「ああ、よろしく。さ、ついて来て」
男は淡々とした調子で皆を森の奥へと連れていく。徐々に暗くなる空。森はその空よりもずっと早く闇が訪れ、案内なしでは歩けないほど暗い。獣の鳴く声だけが響く夜の森。重い空気に感じられるのは、サーマルトでの件があったこともその理由だろう。
やや警戒しながら歩くベート達の前に、森の中で大きな口を開く洞窟が現れた。男が言う。
「この中だ。さあ、入ってくれ」
松明が灯る洞窟内。普段は使わないが、ベート達人族の為に用意してくれたのだと後で知る。深い洞窟。随分歩いた先にあった大広間で、この集団のリーダーらしき老人が待っていた。ミリザが頭を下げ挨拶する。
「こんにちは。今日はありがとうございます」
「気にしなくてもいいですぞ。我々はミリザ様の為、いかなる協力も惜しみません」
彼らはミリザがシルバーペガサスだと知っているようだった。知っていて協力する。シルバーペガサスは貴重種。その保護のため、この大陸に協力ネットワークが構築されている。ミリザが言う。
「本当に嬉しいわ。それで今日ここに来た目的だけど……」
ミリザはフォレストで行われているという人身売買について尋ねた。話を聞きながら徐々に表情が曇る獣族達。そしてミリザに答えた。
「噂は聞いております。人族が行っていると」
「やっぱりそうなの!? 何か証拠とかはあるのかしら?」
その問いに黙り込む獣族。リーダーの老人がやや困った顔で言う。
「あくまで噂です。我々には関係のないことですし、深入りするとこちらの身に危険が及びます」
つまり噂は聞いたがそれについて何もするべきではないと。『君子危うきに近寄らず』、人族とエルフ族との問題に他種族が首を出すべきではないという姿勢だ。それを悔しそうな顔で黙って聞くキャロット。ミリザが老人に言う。
「調べて欲しいの。危険があることは知っていてお願いするわ」
「……」
平和な森の生活。それをあえて壊すような真似はしたくない。彼らの沈黙がそう告げている。ミリザが言う。
「フォレスト王国はエルフ族を一掃してこの森の支配権を取るつもりよ。そうなれば私たち獣族だってきっと討伐されるわ。あなた達に彼らと戦うことができるの?」
フォレスト王国軍は重歩兵隊を擁する軍事強国。森には獣族も多く暮らしているが、色々なグループができており結束して対抗することはほぼ不可能。近い将来、王国軍に蹂躙される可能性は十分考えられる。しばし考えた老人がミリザに尋ねる。
「分かりました。ただ人身売買を調べる理由を教えて頂けませんでしょうか」
当然だ。それを掴んだところで何の解決になるのか。取り締まるのも王国側。簡単に解決できる問題ではない。ずっと黙っていたベートが立ち上がり老人に言う。
「それが本当なら、俺がレザ・スリーデルを討つ」
黙り込む獣族達。老人が尋ねる。
「あの、失礼ですがあなたはどなたでしょうか……?」
ミリザの護衛だと思っていた茶髪の少年。ベートが答える。
「シルバーナイツの要であり、シンデレラ・ヴォルトの後を継ぐ【根源たるマナ】だ」
「な、なんと!!」
一瞬で場の空気が変わった。要であり、オリジン。この世界に安寧をもたらすことができる唯一の存在。老人が深く頭を下げ言う。
「先ほどから感じていた不思議なマナ。そういう訳でしたか。オリジン様とは知らず失礼な態度を。謝罪致します」
獣族にとってオリジンは畏怖すべき存在。そのオリジンから頼まれれば断る理由などない。老人が言う。
「分かりました。ミリザ様の為、オリジン様の為、我々は全力でご協力致します。ただ、何せ経験のない仕事。しばしお時間を頂けませんでしょうか」
人身売買の証拠を掴む。森で暮らしていた獣族にとって慣れない仕事。ミリザが答える。
「もちろん、いいわ。助かります。本当にありがとう」
「恐縮です」
無事、訪問を終え王都に帰るベート達。森を歩きながら、興奮気味のキャロットが皆に言う。
「ほ、ほんとにベー太達ってすごいんだね!! 驚いたよ!!」
「あ、ああ。まあ、まだ何もしてないが……」
謙遜するベート。いい加減名前を覚えろって思いながらキャロットに言う。
「なあ、キャロット」
「なに?」
暗い夜の森の道。ベートの声がキャロットの耳に静かに響く。
「証拠がない以上、俺達は討伐作戦を断ることはできない。明後日の作戦には参加するつもりだ」
「ベ、ベート様……」
キャロットと同じく驚いたモモコが思わずベートを見つめる。
「ただ勘違いしないでくれ。参加はするが、本当に参加するだけだ。極力戦いは避ける。消極的参加だ」
「そうね。現状それが一番よね」
ミリザも同意する。今の状態でレザ・スリーデルからの要請を無碍にする訳にはいかない。キャロットが小さな声でそれに答える。
「わ、分かった。仕方ないよね。それは……」
同じエルフ族として辛い立場。だが自分の都合だけで皆を巻き込めない。キャロットが顔を上げて言う。
「だけど、ボクも遠征には連れて行ってね」
ベートが驚いた顔で言う。
「はあ? お前みたいなガキが来ても危ないだけだろ!!」
キャロットが答える。
「ボクは強いって。ベー太と一緒なら絶対大丈夫。なあ、いいだろ?」
ミリザが言う。
「いいんじゃない。守るだけの戦いならひとりぐらい増えても」
「あー、やっぱりボクのこと信用してない!! ボクは全属性マナ使いで、広域攻撃が……」
「分かった分かった。連れて行くからもういいって」
面倒臭そうにそう話すベートのお尻をキャロットが蹴り上げて言う。
「ボクはやれるんだ!!」
ドン!!
「痛っ!! こら!! このクソガキ!!!」
「しーらない!!!」
逃げるキャロット。それをベートが追いかける。笑い。周りの闇夜より暗かった空気が、一瞬で明るい笑いへと変わった。




