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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第三章「誇り高き屍が遺したもの」

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41.エルフ族の意外な助っ人

 国の大半を森が占めるフォレスト王国。その王都に対峙するように広がる『フォレスト大森林』。その一角、大木の上に作られた木製の政務室の中で、金色の髪の美しい若きエルフは苦悩の表情を浮かべた。


「それは本当なのか……」


「はい、ローレン様。残念ながら確かな情報筋からのものです」



 ローレン・エグファイヤー。フォレスト大森林に住まうエルフを束ねる若き頭領。トレードマークの金髪を後ろで縛り、背には大きな弓、腰には鋭いレイピア、そしてマナも使いこなすというオールラウンダー。人望とその実力からエルフ族のリーダーを務める。ローレンが言う。


「全面戦争は避けられぬか……、だが相手は重歩兵隊。どうしたものか」


 レザ・スリーデル率いるフォレスト王国軍は、強固な鎧で身を固めた『重歩兵隊』を中心に編成されている。対エルフ用に開発されたその重鎧は、遠距離攻撃の得意なエルフ達の弓やマナを弾いてくれる優れもの。まさにエルフの天敵集団と言える。側近が言う。


「森にいる獣族に協力を求めるのはいかがでしょう。森の危機だと伝えて……」


 フォレスト大森林には獣族も多く住んでいる。だが同じ獣を狩り、果物など森の恩恵を共有する彼らとはいざこざが絶えない。縄張りや捕獲量、どれをとっても折り合いがつかないでいる。ローレンが答える。


「彼らが純粋に協力してくれればいいのだが、逆に人族に味方して我らに攻め入る可能性すらある」


 獣族からすればエルフ族がいなくなればその分森での勢力が拡大する。エルフの味方をしてくれると考えるのは早計だ。別の側近が提言する。



「守りましょう。堀を作り陣を築く。我らは守りながら応戦する。夜になれば奇襲もできましょう。森は我々の土地。よそ者が大きな顔をしていられるほど甘い場所ではございません!」


 夜の森は危険。森に住む者の共通認識。ローレンが頷いて答える。


「うむ。そうだな。地の利を生かして戦うべきだ。そこに少しでも我らの勝機を見出せれば……」


「と、頭領!! 頭領に会いたいという者が来ておりまして……」


 重要な戦略会議中。それを中断してまで来客の訪問を告げに来た兵士に、ローレンがやや驚いて尋ねる。


「誰が来たというのだ?」


「は、はい、実は……」


 兵士が答えると同時に会議室のドアが開かれ、そこに肌色の悪い紳士が現れた。顔には大きなアイマスク。兵士の制止を振り切って部屋にやって来たようだ。ローレンの護衛が抜刀し叫ぶ。



「何奴っ!!」

「誰の許可を得てやって来た!!!」


 護衛の声にも一切動じることなくそのスマートな紳士は小さく頭を下げ、ローレンに言う。


「少し急ぎでしてね。このような無粋な訪問、謝罪致します。だが久しぶりの()()、大目に見てもらえると嬉しいのですがね。ローレン」


 そう言ってゆっくりとアイマスクを外す紳士。その顔を見たローレンが目に涙を浮かべ体を震わせる。



「マ、マーベルト侯爵……、本当に侯爵なのですか……」


「ええ、色々と変わってしまいましたがね」


「侯爵!!」


 ローレンがマーベルトに駆け寄り、その手を握り涙を流す。


「あの時は、あの時は本当にありがとうございました! 我々がこうしていられるのも侯爵のおかげで……」


 元サーマルト軍所属のマーベルト。彼はその王国軍所属時代、エルフ討伐に参加したのだが途中反旗を翻し、王国軍との停戦調停に奔走した。人身売買の証拠を掴み彼なりの正義の為であったが、結果として軍を指揮していたスリーデル公爵の逆鱗に触れ謀反者として処罰を受けることとなった。

 その後、無謀な獣族討伐を命じられ従者達と共に命を落とすこととなる。マーベルトが答える。


「いえ、気にすることはないですよ。私の信念で行っただけのこと。それよりちょっと二人で話をできませんか?」


 ローレンが頷いて答える。


「是非。私も色々とお聞きしたいことがあります」


 ローレンはそう言うと会議を終え、マーベルトとふたり森の散歩道へと向かった。




「いい所ですね、フォレストは。やはり私の故郷です」


 森の散歩道。小鳥や、風で揺らめく木々の音が聞こえるゆっくりとした時間の流れる場所。国を育み、生きとし生ける者に安らぎを与える森。ここを汚されるのは誰一人望んでいないはず。

 真剣な顔で歩くローレン。意を決してその質問をぶつける。


「侯爵。お聞きしてもよろしいでしょうか」


「構わないですよ」


「侯爵は戦で()()したと聞いています。その話は本当なのか、そうではないのか。私は生きていて欲しいと願っています。ただ……」


 ローレンが握りしめたこぶしに力を込めて続ける。


「先ほど握った手が、()()()()()のは、一体どうしてでしょうか……」


 我慢していた涙が溢れ出す。一度過去に流した涙。だが再びそれがローレンを襲う。マーベルトが笑みを浮かべなら答える。



「お話ししましょう。あなたに隠すつもりはありません。そう、私はあの戦で命を落としました。魔獣軍との戦いに敗れて」


 ローレンが顔を上げマーベルトを見つめる。


「だが生き返ったのです。いえ、生き返らされたと言うべきでしょう。『祝福の血清』ってご存じですか?」


「ま、まさか……」


 マーベルトが青黒い肌を撫で、自嘲気味に言う。


「そう、私は魔獣王の血を大量に飲まされ、『生きる屍』として蘇ったのです」


「そんな……」


 衝撃の事実に体を震わせるローレン。マーベルトが言う。


「ご心配なく。私の血に命じられたのは【人族殲滅】。エルフ族には危害を加えることはありません」


 黙って聞くローレン。


「そして今は『序列参位』マーベルト侯爵として魔獣軍の幹部をしています。滑稽なことですよね」


「そ、そんなこと! 侯爵の強さならそれも当然かと……」


 ローレンは整理のつかない頭を振り絞り答える。マーベルトが笑って答える。



「恐縮ですよ。それよりここに来た私の目的ですが……」


「はい」


 真剣な表情のローレンが頷いて聞く。



「間もなくフォレスト王国軍がここに攻めて来ましょう。そこで僭越ながらこの私、マーベルト・フランソワがエルフ軍の味方となり参戦致します。よろしいでしょうか、頭領殿?」


 ローレンが涙を流し、冷たくなったマーベルトの手を握って答える。


「有難い、有難い。本当に有り難い……」


 流れる涙が止まらないローレン。マーベルトが言う。



「お気になさらずに。私は大好きなんですよ、このフォレストが。ここに住む全ての者達が。だからそれを汚す者は許せないだけなんです」


「はい……」


 涙を拭うローレンにマーベルトが尋ねる。



()()()()()も元気そうで、安心しました」


 はっとした表情になったローレンが早口で言う。


「も、申し訳ないです!! 何度も森に来て住むよう説得をしたのですが、街が好きだと言って来て貰えず……」


 ローレン達エルフ族もキャロットの身を案じ、何度も森へ来るように説得した。だがキャロットは「侯爵の愛した街にいる」と言ってそれを拒否。ずっとそのままとなっていた。マーベルトが笑って答える。


「あの子らしいですね。私に似て頑固と言うべきか。血は繋がっていませんが」


「はい……」


 ローレンも頷いて答える。マーベルトが言う。



「さあ、戦いの準備をしましょう。時間はありませんよ」


「はい、でも、本当にいいのですか? 侯爵は人族と戦うことになりますが……」


 マーベルトが今日一番の真剣な表情となり答える。



「問題ありません。私も貴族の出、政局で失脚させられることは常に覚悟しております。ただ彼らは人の道に外れました。犯してはならない領域に土足で踏み入りました。だから躊躇はありません」


「ありがとうございます。本当に嬉しい。どんな形であれ再び侯爵と肩を並べ戦えることが!!」


 目を輝かせそう話すローレンにマーベルトが言う。



「微力ながら魔獣軍『序列参位』の力、しかと見せてあげましょう」


 長年劣勢だったエルフ族。そこに意外な形で大きな助っ人が加わることとなった。

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