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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第三章「誇り高き屍が遺したもの」

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40.レザ・スリーデルの要求

 その日の夜、王都フォレストの宿に部屋を取ったベート達。明日の王城訪問を控え早めに休もうとしたベートに、同室になったキャロットが尋ねる。


「ボ、ボクはベー太と同じ部屋なの??」


「そうだよ。何か問題あるか?」


 白いフードをかぶったままのキャロットがやや慌てて答える。


「い、いや大丈夫。別に大丈夫……」


 朱色のボブカットの隙間から見える白い肌が気のせいか赤く染まっている。ベートが言う。


「あ、それから俺、ベートな。ベー太じゃなくて……」



「なあ、ボク、みんなにちょっと話したいことがあるんだ。いいかな……?」


(全然人の話を聞いていないぞ)


 そう思いつつも、ふうと息を吐いてからベートが答える。



「……分かった。ちょっと呼んでくる」


 そう言って部屋を出るベート。すぐに隣室の部屋にいるミリザとモモコを連れて戻って来た。キャロットが皆の顔を見てから言う。



「ま、まず今日は助けてくれてありがとう。それから色々ごめんなさい……」


 キャロットがゆっくり頭を下げる。モモコが隣に座り頭を撫でながら言う。


「全然~、大丈夫よ」


 ミリザが尋ねる。


「それで? 話って何かしら」


 キャロットが頭を上げ答える。



「うん。みんなに、協力して欲しいんだ……」


「協力?」


 そう口にする皆の前でキャロットが続ける。


「まずボクのことを話すね」


 そう言ってずっとかぶっていたフードをゆっくりと外す。綺麗な朱色のボブカット。だがその髪の間から少しだけ出た()を見てモモコが驚く。



「え? その耳って……」


 キャロットが手で髪をかき上げ、そして尖がった耳に手を当てて言う。


「そう。ボクはエルフ。人族とずっと争っているエルフ族なんだ」


 驚くベートが答える。



「こんなところに居て大丈夫なのか? バレたら捕まったりしないのか?」


 キャロットがフードを再びかぶり答える。


「バレたら捕まっちゃうよ。でもボクはこの街が好きなんだ。お父さんが愛したこの街を離れたくないんだ」


「お父さんって、フランソワって家のこと?」


 そう尋ねるミリザにキャロットが答える。


「そう。ボクは戦争孤児で家族はみんな殺されて、ひとりぼっちだった時に軍人だったお父さんに拾われたんだ」


「そうか……」


 ベートは自分と似た境遇のキャロットを見て小さく頷く。



「お父さんはすごく強かったんだけど、スリーデル公爵に騙されて、裏切り者にされて、そして戦場で殺されたんだ……。フランソワ家も反逆の罪で取り潰しにされて……」


 そして家を失ったキャロットは街のすぐ近くの森で暮らすようになったとのこと。モモコが涙を袖で拭うキャロットを抱きかかえる。ミリザが尋ねる。


「話は大体分かったわ。で、キャロット。私達に協力して欲しいのはどんなこと?」


 冷静なミリザ。決して一時的な感情に流されない。キャロットが言う。



「要のレザ・スリーデルを倒して欲しいんだ」



 少しの静寂。レザ・スリーデルはスリーデル家の嫡男。すぐにベートが答える。


「気持ちは分かる。だが俺達はその要に協力をしてもらいたくて明日会いに行くんだ」


 願いを聞いたら対立することになる。それだけは避けたい。キャロットが言う。



「あいつらは、あいつらは捕虜として捕まえたエルフを売っているんだ……」


「!!」


 人身売買。敵の捕虜とはいえ決して行ってはいけない犯罪行為。だが闇市に奴隷が蔓延るこの時代。裏社会で人身売買は確実に行われている。特に長寿のエルフはその体が様々な薬になると噂されている。ミリザが尋ねる。



「証拠はあるの?」


 キャロットが小さく首を左右に振って答える。


「ない……、でもそれを知ったからお父さんもきっと殺されたんだ。だから……、ううっ」


 小さな体を震わせて泣き出すキャロットをモモコが優しく抱きしめる。ミリザがベートに言う。



「どうする?」


「どうするって、それが本当なら要であろうと放って置く訳にはいかないけど……」


 そうなると要の協力は得られなくなるし、無駄な時間を過ごすこととなる。もし仮にそれが本当ならばフォレストでの協力は諦めて、このまま北にあるバルッサ帝国へ行くべきだろう。



「大丈夫だよ、キャロットちゃん! 私も手伝うし、ベート様ってすごく強いんだよ!!」


「ありがと、お姉ちゃん。ここでシルバーナイツの要に会うなんて、ボクも運命だと思ったんだ!」


(何の運命だよ……)


 黙って聞くベート。きっと自分が断ってもモモコが絶対に譲らないだろう。それに来たばかりの国の事情をキャロットの話だけで判断するのも早計だ。ベートが言う。



「とりあえず明日要のレザ・スリーデルに会って色々決めるよ。それからだな」


「ありがとう、ベー太!!」



(いや、だからベー太じゃないってば……)


 少しだけ笑顔になったキャロット。夜も深まったので今日はここで解散し就寝。そして王城に行く朝を迎えた。






「よし、じゃあ行くか!」


 宿屋の前に集まった一行。キャロットも青い顔をしてやって来ている。モモコが言う。


「キャロットちゃん、無理しなくていいんだよ。部屋で待ってても……」


「大丈夫。ボク、ずっと逃げていたから。これじゃお父さんに叱られる。ベー太と()()ならボク、戦えるから!!」


「いい加減俺の名前を覚えろよ」


 再び突っ込むベート。くすくすと笑うミリザ。だがこの時のキャロットの言葉の『本当の意味』を、ベート達は後で思い知ることとなる。


 ベートを先頭に王城へ向かう一行。木造の美しい建屋が並ぶ街を歩きながら、その最高傑作とも呼べる木造の王城へと辿り着いた。



「すごく綺麗……」


 モモコが思わず見上げて声を出す。それほどフォレスト王城は気品があり美しかった。細かな装飾に圧倒的存在感。国のシンボルであり森の民の誇りでもある。

 ミリザがサーマルト王から渡された書状を門兵に手渡す。珍しい書簡に驚いた門兵がすぐに上官に報告。国の支えである要への面会が許可された。キャロットが思う。



(すごい。やっぱりベー太はすごい!!)


 庶民では入ることすら叶わない王城内。レザ・スリーデルと同格であるシルバーナイツの要だからこそ成せる業。キャロットは何だか自分が少しだけ偉くなった気持ちになった。

 香しい木の香りが漂う城内を兵士に案内され皆が歩く。窓からは美しい王都フォレストの景色、高い天井は開放感に溢れている。


「どうぞ、こちらへ」


 細かな木の装飾が施された観音開きの扉を開けると、そこにはやはりそれに相応しい美しい部屋が広がっていた。格調高い家具。新鮮な花々。品のある絨毯。中央には大きなソファーが対になって置かれ、そこにオールバックで黒髪で、眼光鋭い若い男が足を組んでどっかりと座っている。

 ベートに気づいた男が先に声をかける。



「お前がシルバーナイツの要か? ずいぶん子供だな」


 足を組んだままそう話す男。ベートが尋ねる。


「あんたがフォレストの要、レザ・スリーデルか?」


 レザが額に手をやり苦笑しながら言う。



「おいおい、初対面の年上に向かってその態度、なんか勘違いしてない?」


 むっとするベート。レザが言う。


「まあいい。座れよ。俺に用があるんだろ?」


 ベートが無言でレザの前に座る。ミリザやモモコ達は立ったまま後ろで待機。キャロットだけはソファーに座る男をぎっと睨みながら思う。



(レザ・スリーデル……、憎きスリーデル公爵の息子!!)


 育ての父を欺き、死に追いやったスリーデル公爵。その息子で人身売買を行っている『敵』が目の前にいる。ベートが挨拶がてら言う。



「俺はシンデレラ・ヴォルトの弟子でベートだ。魔獣王に捕まったジジイを助けに行く。協力して欲しい」


(え! ベー太ってオリジンの弟子だったの!? すごい……)


 怒りに震えていたキャロットがベートを見つめる。要でありオリジンの弟子。偶然とは言え一体どれだけすごい人と行動を共にしているのかと改めて思う。

 ベートの問いかけに、レザが少し考えてからが答える。


「オリジンの弟子? あまりに言っていることが荒唐無稽すぎてよく分からんが、魔獣王と戦うのか?」


「そうなるかもしれない。その覚悟はできている」


 レザが足を組みなおして言う。



「お前そんなに強いのか? あの魔獣王と戦うぐらい?」


「いや、今のままじゃ負ける。だからこうやって仲間を集めてるんだ」


「……なんだそれ」


 呆れた顔をするレザにベートの後ろに立つミリザが言う。



「魔獣王は人族の殲滅を目論んでいます。要同士、ここは手を取り合って結束することが大切ではないでしょうか」


 レザがミリザをじっと見つめてから目を閉じ答える。



「まあ、それも確かにそうなんだけどな……」


 フォレスト王国も魔獣国の影響を受けた下獣や野獣などが暴れ問題になっている。いずれその元を断ち、解決しなければならない問題。少し考えたレザがベートに言う。



「じゃあその前に俺の要望を聞いて欲しい」


「要望? 何だよ」


 そう答えるベートにレザは身を乗り出して言う。



「間もなくエルフ族の一掃作戦を行う。ベート、お前もそれに参加してエルフ討伐を手伝え。それが条件だ」


 想定していなかったレザからの要求。同時にそこにいたキャロットは激しい怒りで体を震わせた。

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