39.必然の出会い
「ああ、失敗した……、こんなことになるなんて……」
ベートが机に並べられた野菜料理の山を見て嘆いた。キャロットのトラブルに巻き込まれ新たに入った店。文字が読めなくて適当に選んだのだが、なんとそれは野菜料理専門店であった。ミリザが目を輝かせて言う。
「う~ん、なんて素晴らしいお店なの!! 最高じゃん、最高最高!!」
一応何でも食べるが、基本草食のミリザ。久しぶりに見る野菜尽くしの料理に目を輝かせる。ベートがテーブルに肘をつき無表情で言う。
「こんなもんじゃお腹膨れねえよな……、肉食いてえ……」
ミリザがニンジンの丸焼きを頬張り、恍惚の表情を浮かべて言う。
「あ~ん、もうこれ極楽ぅ~!! 肉? 外道よ外道。ね、モモコちゃん」
そう話を振ったミリザ。だがベート同様に青い顔をして料理を見つめる彼女が答える。
「肉、食べたいですぅ……」
「げっ、意外と肉食!!」
キャラ的には想像がつかないような肉食のモモコ。山盛りの野菜料理に溜息を吐く。モモコが隣に座るキャロットに言う。
「キャロットちゃん、野菜は食べられる?」
「……」
フードをかぶったまま俯き無言のキャロット。朱色のボブカット。繊細で中性的な顔立ちだが、その表情は暗い。ベートが言う。
「おい、キャロット。問いかけには答えろ。モモコが聞いてるだろ?」
ぐう~
「は?」
お腹の鳴る音。ぱっと顔を上げたキャロットが真っ赤な顔をして言う。
「こ、これは違う。違うんだよ!!」
笑い出すベートやミリザ。料理を口にしながら言う。
「いいから食べろ。腹が減っては話もできんだろ? むしゃむしゃ……」
「……」
再び俯き黙り込むキャロット。だが空腹に耐えかねたのか、すぐに目の前にある料理を勢いよく食べ始めた。和やかになる空気。しばらく食べた後、再びベートがキャロットに尋ねる。
「で、そろそろ話してくれないか? お前、何やったんだよ?」
「……」
手にしていたスプーンが止まる。無言のキャロット。モモコが頭を撫でながら言う。
「大丈夫だよ~、私達は仲間。話して欲しいな~」
勝手に仲間認定。呆れ顔になるベートにキャロットが初めて話し出す。
「ボクはフランソワ家に拾われ育ててもらったんだ。だけどお父さんが騙されて、戦争で戦死して……、裏切り者じゃないのに裏切り者って言われて……」
俯きながら涙声になるキャロット。だが涙を拭き顔を上げてベートに言う。
「ベー太、お前達戦いに行くんだろ? ボクも一緒に行く。こう見えてもボクは強いんだ。なあ、連れて行ってくれよ!!」
ベートが思わず吹き出しそうになる。隣で口を押えて笑うミリザ。ベートが言う。
「なあ、色々突っ込みどころがあるが、まず俺はベートだ。いいか? ベーーーート」
「分かってる。分かってるよ、ベー太」
(全然分かってねえじゃねえか!!)
笑いの限界に達するミリザ。ベートが続ける。
「俺達はお前が想像もできないような強い敵と戦っている。だから聞く。お前は何ができるんだ?」
魔獣王との戦いも視野に入れるベート達。こんな子供を連れて行くのは現実じゃない。だがキャロットの言葉に皆が驚いた。
「全属性……」
「は?」
ベートが聞き直す。キャロットが真面目な顔で言う。
「マナの全属性・広域攻撃ができるんだ。条件はあるけど、ボクは強いんだよ!!」
「ぜ、全属性!?」
「広域攻撃!!」
顔を見合わせるベートとモモコ。その言葉が本当なら自分達のパーティに欠けている部分を補って余る超強力な助っ人になる。だがじっとキャロットを見つめていたミリザが抑揚なしに言う。
「それ本当なの?」
「ほ、本当だよ……」
ミリザがキャロットの目を見つめながら言う。
「じゃあどうしてあなたからは極小のマナしか感じられないのかな?」
「そ、それは……」
全属性、しかも広域攻撃のマナ使いとなればそれなりのマナ量を持ち合わせているはず。だが残念ながらキャロットから感じるマナ量は極小。とてもその量で広域攻撃などできない。キャロットが小声で言う。
「ほ、本当なんだ。本当に……」
居た堪れなくなったモモコがキャロットの細い肩に手をかけ優しく言う。
「い、いいじゃない。大丈夫。きっと話したくないこともあるんだよね。心配しなくていいから」
ベートが料理を食べながら言う。
「とりあえず親族が見つかるまでは一緒にいる。約束だからな」
「あ、ありがとうございます、ベート様! ミリザちゃんもいいよね?」
そう言って特大のニンジンパフェを差し出すモモコ。ミリザがよだれを垂らしながら答える。
「ま、まあ、私はいいんだけど。うん、全然いいよ。むしゃむしゃ……」
モモコがキャロットの肩に手をまわしながら言う。
「良かったね、キャロットちゃん」
「う、うん……」
キャロットが下を向き小声で返事をする。小さな肩。モモコはこの時感じたキャロットの肩の小ささの違和感の意味を後日知ることになる。ベートが言う。
「よし、食べたら見に行くか。明日行くフォレスト城」
「え?」
思わず顔を上げるキャロット。そして尋ねる。
「ねえ、ベー太。どうしてお城に行くの?」
ベートが答える。
「用事があるんだよ、『レザ・スリーデル』って奴に」
それを聞いたキャロットの顔が青ざめる。
「レ、レザ・スリーデル……、それって要だよ……」
要に面会をする。一般人じゃ叶わぬこと。何の用事か。ベートが答える。
「ああ、知ってる。ちょっと頼みたいことがあるんだ」
要に頼みごと。体を震わせえるキャロットが言う。
「要に頼み事って、そんなこと絶対に無理で……」
「大丈夫」
ベートが笑顔で言う。
「俺も要だ」
キャロットが持っていたスプーンを落としそうになる。そして思った。これは偶然じゃない。きっとこの出会いは必然だったのだと。
「侯爵様。あれが【根源たるマナ】なんでしょうか?」
食事を終え、店から出てきたベート達一行を離れたカフェから見つめていた二人の男。肌色の悪い紳士がコーヒーを一口飲み、答える。
「そのようですね。あの無垢なマナ。オリジンとみて間違いないでしょう」
顔には大きなアイマスク。正体を隠しているのだろうか。紳士はゆっくりと、上品にコトンと小さな音を立てコーヒー皿にカップを置く。顔の傷のあるもうひとりの男が言う。
「あんな子供がオリジン……、本当にレイ・エレガント様が退却させられた相手なんですかね……?」
アイマスクを付けた肌色の悪い紳士、マーベルト侯爵が答える。
「間違いないでしょ。あれは厄介な相手ですよ。一緒に居る銀髪の少女も魔獣族。それもかなり高位の種族のようですね」
ひしひしと感じるミリザの特別なオーラ。探していた相手に間違いはない。傷のある男が尋ねる。
「やりますか?」
マーベルト侯爵が笑って答える。
「いいえ。こんなところで戦えば皆の迷惑になる。それにそんなに容易い相手じゃないですよ」
「そうですか……」
やや不満そうな男。小さく頷いて再びコーヒーカップを手にしたマーベルト侯爵が、ベート達の後に続いて出てきた白のローブの子を見て固まる。顔に傷のある男が尋ねる。
「どうしました?」
「いえ、何でもありません……」
マーベルト侯爵は再びコーヒーを一口飲むと、丁寧に皿に戻す。
「フォレストのコーヒーは相変わらず美味しいですね。だからやはり許せないです。この体がどうなろうと……」
顔に傷のある男がベートを睨みながらそれに頷く。対照的にマーベルト侯爵は街の郊外に広がる大森林を思い浮かべ、目を閉じる。暫しの間。目を開けたマーベルト侯爵が言う。
「さあ、行きましょうか。やることがたくさんありますからね」
「御意」
二人が立ち上がる。魔獣軍『序列参位』のマーベルト侯爵。その強さと余裕とは裏腹に、顔には一切の笑みはなかった。




