38.森の国に巣食う闇
フォレスト王国。シルバーナイツ王国の北に位置し、サーマルト王国の東にある森の国。東に聳えるダガレスト山脈を挟んで魔獣国と対峙する位置関係はシルバーナイツと同じだ。
違うのはこの国がエルフ族と言う人族以外の種族が半数近くを占めている点。国の大半を占める『フォレスト大森林』。そこに古代よりひっそり暮らすエルフ族は、極力人族との関わりを避けて生きてきた。
だがここ数十年、とある理由の為エルフ族と人族の争いが激しくなっている。それは現国王フォレスト八世の時に最高潮を迎える。
「ありがとう、ここでいいよ」
サーマルト王国から馬車でフォレスト王国に入ったベート達。王城を擁する王都フォレストに到着し、ここまで乗せて来てくれた御者にお礼を言う。
「どうかご武運を」
御者はそう言うと馬車と共にサーマルトへ帰還する。ミリザが背伸びしながら言う。
「う~ん、いいところね~。空気がおいしい」
フォレスト王国の大半は森林。道中も幾つもの森や山を抜けここまで来た。樹齢数百年以上の大木が連なる森や、見たことのない植物、多種多様な動物達。自然の果実なども豊富に実っており、まさに森林大国。獣族であるミリザにはとても居心地が良い場所のようだ。
「本当にいい場所ですね。眠くなっちゃいます~」
そう話すモモコは、その言葉通り馬車での大半の時間を寝て過ごした。天然と言うより最早大物感すら感じさせる。ベートが街の中央に聳える木製の王城を見上げて言う。
「明日はあそこに行くんだろ? すげえな。ま、とりあえずご飯にするか」
街のほとんどの建物、住宅や店舗などが木で作られている。国のシンボルである王城ですら木製だ。ベートが街中にある食堂を指さして言う。
「あそこで食べるか」
大きな食堂。店の外にもテーブルが並べられ、たくさんの人が何やら食べている。歩きながらモモコが言う。
「街に全然エルフさんはいないんですね」
初めて来る国ではあるが、昔学校でエルフが多く住む国だと習った。そう話すモモコにミリザが言う。
「もう何年も前から人族とエルフ族で争いが続いているの。時間ができたらここにいる私の仲間にも会ってみるわ」
そう話すミリザの表情が一瞬曇る。サーマルトで失った同志のことを思い出しているようだ。
店内に入る一行。昼時で人も多く活気がある。空いたテーブルを探している皆の耳に、突如その大きな声が響いた。
「裏切り者のことを裏切り者って言って何が悪い!? 没落貴族め。よくそのツラ下げて歩けるな!!」
店内の端、数名の男達に囲まれる中、そのフードのついた白のローブの子供が言い返す。
「と、取り消せ!! その言葉を取り消せ!! 侯爵は裏切り者じゃない!!」
甲高い声。店内にいた皆が首を振ってくすくすと笑い出す。男が言う。
「取り消すかよ! この国じゃお前達の味方をする奴なんざ誰もいねえよ!! 死罪にならなかっただけ有り難く思えよ!!」
白のローブの子が目に涙を溜めて言う。
「い、いるよ、味方はいるよ!!!」
そして店内を見回し、真っ直ぐベートの元へ駆けて来て言う。
「ボ、ボクの仲間だ!! パーティメンバーだ!!」
「え?」
きょとんとするベート。その服の端を掴み、白のローブの子が男達に言う。
「つ、強いんだぞ!! お前達なんかに負けない。絶対に!!」
「お、おい、ちょっと……」
そう言いかけたベートより先に男達が笑って言う。
「ガハハハッ!!! マナも使えねえお前が仲間だと!? こりゃ傑作だ!!」
「つ、使えるよ!! ボクはマナを使える!!!」
そう言い張る白のローブの子を無視して男達がベートに言う。
「お前ら見かけねえ顔だが、本当にキャロットの仲間なんか?」
一瞬黙るベート。だがぎゅっと自分の服を掴むその手を見て思わず言葉を濁す。
「ま、まあ、なんと言うか、そんなとこと言うか……」
小さくため息をつき俯くミリザとは対照的に、モモコは目を輝かせ何度も頷く。男のひとりがベートに歩み寄り、その襟首を掴んで言う。
「ああ、そうかい。じゃあ、てめえも裏切り者のフランソワ家の一味なんだな!? 誰だか知らねえが、この街を無事に歩けると思うなよ??」
「ちょ、ちょっとあなた!!」
堪らずミリザが間に入ろうとした時、店の奥から恰幅の良い女将が現れ、大声で言う。
「あんたら!! 揉め事はご法度だよ!! 外でやりな!!!」
「ちっ、運が良いな。てめえ……」
男達はぶつぶつ言いながら自分達のテーブルへと戻って行く。ミリザがベートの手を引っ張りすぐに店の外へと連れ出す。
「何なのあいつら一体!! それよりベート、勝手なことを言わない……」
そう口にしたミリザが一緒に外に出てきた白のローブの子を見て言葉を飲み込む。ベートが服を掴んだままのその小さな手を放し、やや困った顔で尋ねる。
「おい、お前なんで絡まれてんだ? 飯を食い損なったじゃねえか」
「……」
俯き黙り何も言わない。モモコがしゃがみ込み、優しく声をかける。
「キャロット君だっけ。どうしたのかな? 話せるかな??」
「……」
やはり無言。愛想が尽きたベートが背を向けて言う。
「じゃあな。もう絡むなよ」
歩き始めたベートに白のローブの子が言う。
「な、仲間なんだろ!!」
「はあ? お前、何言ってんだ??」
振り返り腕を組み言い返すベート。さすがに開いた口が塞がらない。
「お前、ボクのこと仲間って言ったろ。男なら言葉に責任を持てよ!!」
「お前な……」
額に青筋を立て、怒りを表すベート。モモコが慌ててキャロットを抱きしめベートに言う。
「ベ、ベート様。この子、訳ありみたいですし、ご両親が見つかるまで一緒に居てあげちゃだめですか……??」
心優しいモモコ。その目は必死であり真剣。断れない雰囲気になったベートとミリザ。ベートが言う。
「仕方ねえな。だけど俺達は時間がない。危険なところには連れてけないし、親が見つかるまでだぞ」
モモコが目を輝かせて言う。
「あ、ありがとうございます!! 良かったね、キャロット君」
モモコがキャロットの頭をフード越しに撫でる。ミリザが小声で言う。
「本当にあなたはすぐトラブルに巻き込まれる……」
「知らねえよ。俺は何もしてねえ。それより飯食いに行くぞ」
ベートが別の店を探しに歩き出す。モモコがキャロットの白く小さな手を握り笑顔で言う。
「さ、ご飯食べに行こ」
「……」
無言のキャロット。だがモモコに手を引かれながら誰にも聞かれない小さな声で言う。
「……親なんていないよ。全部殺された」
フードを深くかぶり直し、目に涙を溜めるキャロット。フォレスト王国に巣食う闇。その一端にベート達は知らぬ間に足を踏み入れていた。




