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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第二章「サーマルトを襲う甘い牙」

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35/82

35.聖女と王子様

 モモコは無我夢中で暗い森の中を駆けていた。

 感じる。温かく無垢で純粋なマナ。間違いなく王子様ベートのマナ。だがマナ量はまだ豊富にあるが、マナ自体が弱っている。危機。命の炎が消えかけている。



(大丈夫。大丈夫だから!!!)


 モモコは走りながら詠唱を始める。


「森羅万象を源にせし水のマナよ。癒しとなりて傷を治癒せん……」


 辛くはなかった。やっと会える。もう少し出会える。そしてその瞬間がやって来た。




(ベート様っ!!!)


 想像通り、いやその怪我はモモコが思っていたよりも酷いものだった。だけど大丈夫。自分のすべてのマナを注ぎ込めば、絶対治る。



「ハイヒール!!!」


 ベートに会いときめきを感じたモモコ。無我夢中で上級スキルを唱えた。世界でも一握りの者しか使えないと言うハイヒール。モモコはこれまでの想いをすべてぶつけるかの如く、全力でマナを注ぎ込んだ。



「うおおおお!! 体が、回復する!!!」


 モモコは元気になるベートを見て涙が出て来た。

 こんなにも全力の自分を受け入れてくれる。人の役に立つ。相手が喜んでくれる。モモコは嬉しさで体が震え始めた。ベートがモモコの存在に気付き大声で言う。



「あっ、お前は!? 聖女様!! ありがと!!!!」



 キュンキュン!!!


 胸がときめく。モモコの抑えていたマナが一気に解放される。



(私のすべてを、受け入れてーーーーーっ!!!!)


 爆発するモモコのマナ。その全てがベートに注ぎ込まれる。



「あぁ、ああ……、なんだこれ。体が、軽い。痛みが消えて、力が漲る……」


 ベートから溢れる活力。迸るマナ。先ほどまでの死にそうだった彼からは想像もできないほどの生命力。ミリザが突然現れたモモコに気付き思い出す。


(あれって、確か国境の森に居た女の子……)



 レザリアも事態の変化に驚く。


(水のマナ使い? だが何だ、あの馬鹿げたマナ量は……)


 ベートには遠く及ばないものの、人を治療するには常識外れの膨大なマナを使っている。完治までは行かなくとも、ほぼほぼ体力と怪我が治ったベートがモモコに手を上げ言う。



「ありがとう!! 本当にありがとう!!!」


「は、はい!!」


 モモコは嬉しくて嬉しくて身震いが止まらない。憧れの王子様の役に立った。やはり彼は唯一、自分のすべてを受け入れてくれる存在。快感。初めて感じる自分の居場所。認めて貰える。感謝してくれる。モモコは溢れ出る涙が止まらなくなっていた。




「な、なんなの~!? あのマナ使い……!?」


 対照的にマリンは急激な展開に動揺していた。追いつめたはずのオリジン。死臭すら発していた茶髪の少年。あと一息で抹殺できたはずなのに、突如嘘のように回復した。そしてマナを使うその水色の髪の少女を見て思い出した。



(ああ、あれは確か国境近くの村に住む水のマナ使い!! そう、抹殺にしくじったんだっけ~!?)


 けしかけたオークキングが討伐された。まさかオリジンと繋がっていたとは。初期に犯したマリンのミス。それが彼女の命取りとなる。マリンが言う。



「ふん! 回復したところで結果は同じよ!! 死期が伸びただけ。私に勝てない以上、皆殺しは変わらないの~!! シャァアアー!!!!」


 四つん這いになってある意味本気を出したラブリーキャッツ。これまで以上の素早さでベートに接近。鋭い爪を振り上げる。



(障壁っ!!)


 ガン!! バリン!!!!


「くっ!!!」


 障壁を張り攻撃を凌ぐも、やはり相手の方がスピード、力共に上。後方に跳躍してかわせたのは体力があるお陰。だがこのままではやはりジリ貧だ。戦うべきか、それともここは一旦退くべきか。

 そんなことを考えていたベートの耳に、再びモモコの声が響く。



「大丈夫です、ベート様!! モモコが、モモコが居ますから!!!」


 後方から聞こえる声。この時ベートにはまだその言葉の意味が分からなかったのだが、すぐに理解することとなる。



「森羅万象を源にせし水のマナよ。力となりてかの者を助力せよ。流水装甲アクアフィード!!」



(……え?)


 ベートの体の周りに薄く張り付くような水色のマナ。半透明で、まるで薄い水の鎧のように体に密着し、すっと消える。だが同時にベートに異変が起こる。


「ちょ、ちょっと待て!? なんだこれ……」


 軽い。体が重さを感じないほど軽くなる。力も沸いて来る。何をされたのか? その問いにモモコが答えるように叫ぶ。



「ベート様、水の戦闘強化(バフ)を掛けました!! これでもっと強く、強く……、あれ!?」


 モモコが眩暈を起こし、その場に座り込む。初めて全力で使った流水装甲アクアフィード。その負担は彼女に想定外の重荷となって圧し掛かっていた。



(でも大丈夫。私の、モモコの全力の強化バフ。こんなことできる人がいたなんて……、モモコ、幸せです……)


 胸のときめきが止まらない。モモコは今自分の持てるすべてを出し切って相手に尽くした。ベートが全身に漲るマナを感じ言う。



「勝てる。これなら『序列四位』にも勝てる……」


 それを見ていたマリンが鋭い爪を出し、威嚇するように言う。


「私には勝てないのよ!! 絶対に私には……」


 跳躍。最速の魔獣ラブリーキャッツの速攻。だが流水装甲アクアフィードにて全運動能力が向上したベートの目には、その移動の軌跡がはっきりと映っていた。


(見える!! そこっ!!!!)


 マリンの爪の攻撃。それを紙一重でかわすと、隙のできた胴体に右拳を打ち込む。



 ドン!!!!


「きゃああ!!!」


 反撃。初めての攻撃がマリンにヒットする。



「痛った~い……」


 思わず飛び跳ねて距離を取るマリン。紙防御。獣族最速を手に入れる為に、彼女は防御能力を捨てていた。マリンは混乱した。理解が追い付かない。



(どうしてかわされたの!? なんで? えっ、どうして……??)


 スピードで負けたことはない。自分より強い幹部は他にもいるが、単純な速さ勝負ではあの魔獣王ですら圧倒できる。魅了チャームとスピード。その二つが効かない相手がいるとすれば、それは即ち、



(……敗ける)


 マリンは自分が敗北する可能性について初めて考えた。そしてその愚行を首を振って消し去る。



(私は魔獣軍幹部『序列四位』のルシア・マリン。あんな子供に、負けないわ!!!)


 偶然だったのかもしれない。本当に偶然、神の悪戯で攻撃がかわされ反撃を受けた。マリンはそれを信じる為にも再度全速でオリジンに突撃する。



 シュン!!!


(え?)


 再び空を切る自慢の爪。そして腹部に感じる強烈な痛み。



 ドフッ!!!


「きゃあ!!」


 偶然ではなかった。神の悪戯でもなかった。見切られている。自分の最も自慢だった素早さが、この相手には通じない。

 マリンが撤退を決断する。決断の速さが彼女の聡明さの証。だが馬鹿にしてきた少年の方が一枚上手であった。



「逃がさねえぞ」


(え? なに……!!)


 マリンはようやく気付いた。殴られた自分の腹部に真っ白で無垢なマナの塊が付けられていることを。



「い、嫌……」



(爆ぜよ)



 ドオオオオオオン!!!!


 爆発。こぶし大ほどのマナが爆発しマリンを襲う。



「ぁあ、がっ、ああ……」


 これで十分だった。紙防御の彼女にはこの程度の攻撃で十分戦闘不能に追い込めた。ベートが倒れたマリンに駆け寄り、右手を向けて大声で尋ねる。



「ジジイは、シンデレラ・ヴォルトは無事なのか!!!」


 獣化が解け、人の姿に戻ったマリン。白く美しい肌は血に染まり、来ていた服もビリビリに破れてしまっているがその美しさ、魅力は全く変わりはない。マリンが思う。


(言えない……、全部は絶対に言えない。でも何か言わなきゃ、殺される……)


 マリンが甘いネコのような声でゆっくり答える。



「ぶ、無事よ……、魔獣王様と、一緒に居たわ……」


「魔獣王と一緒に居た!? おい、それはどういう意味だよ!!」


 倒れたマリンの肩を掴み揺さぶりながら尋ねるベート。マリンは涙を流しながら首を振って答える。


「わ、分からないわ。それ以上は、私にも知らされてなくて……」


 嘘ではない。魔獣国にいる時に噂は幾つか聞いたが、正式な通知はまだ来ていない。マリンが涙を流しながら命乞いする。



「殺さないで……、お願い。もう何もしないから……」


 ベートは大きく息を吐き、マリンに言う。



「この国に掛けた魅了チャームを解け。そしたらお前の身柄はサーマルトに預ける」


「わ、分かったわ……」


 マリンが大きく頷く。




「ベートーーーーーっ!!!」


 ミリザが茂みから勢い良く駆け出し、ベートに抱き着く。

 怪我をしたレザリア、そして涙を流し顔を真っ赤にしたモモコもベートの元へと集まる。ベートが言う。


「ありがとう、聖女様」


 お礼を言われたモモコがあたふたしながら答える。


「わ、私は、その、聖女なんかじゃなくて、モモコ。モモコと言います。王子様……」



(王子様?)


 思わず顔を見合わせるミリザとレザリア。ベートがはにかみながらそれに答える。



「じゃあ、俺も王子様じゃないな。ベートだ。改めてありがとう、モモコ」


「は、はい!!」


 キュンキュンキュンキュン!!!


 モモコは自分の手を何度も服で拭いてからベートの手を握る。ときめきが止まらない。いや、それ以上に嬉しさと涙が止まらなくなっていた。

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