34.絶望の先の光
「今日はここで野宿だ。すまない、私のせいで……」
国中に指名手配されたレザリア。もはや人のいる街や村に滞在はできない。弟達は火鳥に任せたので安心だが、時間と共に周りを取り巻く状況は悪化している。怪我をしたベートの顔が痛みで歪む。碌な治療もできない状況に思わず首を振る。
「気にすんな。俺が負けたのが悪い。俺が弱いせいだ」
「お前は弱くない。私なんて……」
あれだけ鍛えて来たのに全然足りない。これで要を名乗っていたとは笑い話にもならない。ミリザが言う。
「とりあえず今日はもう休みましょ。もうくたくただよ……。明日、あの女をどうするかまた考えればいいよ」
ベートが頷いて答える。
「そうだな。今日はさすがに疲れた。ここで休んで……!!」
そこまで言ったベートの五感がビシビシと反応する。この感覚。絶望の一歩手前の感覚。森の暗闇をじっと見つめたベートが大声で言う。
「誰だ!! そこにいるのは!!!」
皆の視線が暗闇に集まる。そしてそこからゆっくりと現れた人物を見て驚愕した。
「み~つけた。こんな所に居たのね~、やだぁ、私のこと、噂していた~??」
「ル、ルシア・マリン……」
魔獣国幹部にして『序列四位』の獣族ラブリーキャッツ。昨日大敗した相手が再び目の前に現れた。激痛を我慢して身構えるベート。ミリザが言う。
「ど、どうしてここが分かったの!?」
「どうしてって~、あなた達指名手配されているのよ~。幾らでも情報は入るわ~」
「くっ……」
誰かからの密告があったのか。自分達が思う以上に窮地に追い込まれていたようだ。ベートが前に出て言う。
「俺が相手をする。お前らは逃げろ……」
ミリザが涙目で言う。
「嫌、もう嫌!! ベート、死んじゃうよ!!」
分かっている。だが自分がやらなきゃ誰がやる。レザリアがベートの隣に立って言う。
「微力ながら私も戦う。除籍されたようだがこれでも元要。この国の為に一矢報いる」
「弟が悲しむぞ」
ベートの言葉にレザリアが笑って答える。
「敵前逃亡するよりマシだ。あいつのため、姉は正々堂々戦ったと胸を張りたい」
「分かった。そう言うことだ、ミリザ。お前は後ろで見てろ」
「ベートぉ……」
非力なミリザ。残ったところで戦力にはならない。自慢の脚力も二人を乗せてあのラブリーキャッツから逃げることは不可能。ミリザが茂みに入り、木の影からじっと二人を見つめる。
「行くぞ」
「ああ」
ベートが息を止める。レザリアもマナの詠唱を開始する。
ドオオオオオオオン!!!
「ぎゃああ!!」
戦いは熾烈を極めた。いや、手負いのベートはもうまともに戦えることすら叶わなかった。レザリアが増えた事により攻撃対象は分散されたが、防戦一方の戦いに敗北はもう時間の問題だった。
「はあ、はあはあ……」
出血。激痛。息を止めながらの戦いが、更にベートの体に負荷をかける。流れ出る鮮血。目の前の光景すらもうぼんやりとして焦点が合わない。
(マナを使いたいが、息が止められない……)
著しく減った体力。この状態で呼吸を止めることは自殺行為に等しかった。呼吸をしなければ体が動かないし、マナを発動しても途中で息をすれば技そのものが消え去る。呼吸停止と言う発動条件は、このように追い込まれた際想像以上に厳しい条件となる。万策尽きた。そしてベートがある覚悟を決める。
「レザリア、お前も逃げろ……」
「ば、馬鹿なことを言うな……」
同じく立っているだけでも精一杯のレザリア。ベートの言葉に強く怒りを示す。ベートが言う。
「俺があいつに突っ込む。デカい爆発ぶち込んでやるよ……、だからお前は……」
「まさか自爆!? 自棄になるな!! お前はオリジン、世界を救う……、ぎゃあ!!」
そう話していたレザリアが血を吹きながら倒れていく。
「お、おい!! どうし……!!!」
その後ろ。レザリアが倒れた後ろに立つマリン。彼女の鋭い爪。そこにたっぷり付いた血を舐めながら言う。
「死んじゃったかな~? じゃあ、オリジン。あなたもそろそろ死のうかぁ~??」
腹部を一突きされたレザリア。大量の血を流しながら倒れる。
「くそくそくそ……」
ベートの息が止まる。無意識に集まるマナ。圧縮された無垢なマナ。それを感じ取ったマリンが後方へ逃げるように跳躍する。
「あ~、またその攻撃。それってちょー危険だよ~、マリン、こわ~い!!」
(あっ……)
何かが切れた。我に返ったベートの中で何かが音を立てて切れた。
(やべ、もう力が……)
立つこともできない。意識もなくなりかけている。死ぬ。殺される。もう勝てない。ほんの一瞬、勝利を諦めた弱気なベートが顔を出す。
皆を襲う絶望。そして「私が行かなきゃ!」とミリザが死を覚悟してベートの救出に向かおうとしたその時、奇跡が起きた。
「……森羅万象を源にせし水のマナよ。癒しとなりて傷を治癒せん。ヒール」
温かく、優しい感覚がベートの中に生まれる。癒し。湧き上がる力。ベートの意識が徐々に鮮明になっていく。
(これって、前にどこかで……)
経験したことがある。この身を包むような感覚。癒しの力。
「ハイヒール!!」
(これは!!!)
溢れる力。湧き上がるマナ。ベートが立ち上がりその声の方を振り返る。
「ベート様、もう大丈夫です!! モモコが、モモコが来ました!!!!」
モモコ・フォールラブ。水のマナ使い。後に『恋する聖女様』と呼ばれる彼女の、本当の力がこれより発揮される。




