33.国家反逆罪
ボフラ火山の戦いでベートが敗北した翌日、サーマルト王国内に驚くべき告知がされた。
【元要であるレザリア・マジシャスを国家反逆罪にて死罪の刑に処する】
国中が驚愕した。
先日新たな要となったばかりの若き英雄。それが突然国を陥れる最も重い罪に問われている。その裏には王都に戻ったルシア・マリンの暗躍があった。
「王様ぁ~、聞いてください~! マリン、酷い目に遭いましたぁ……」
サーマルト王の私室。王国の元にやって来たマリン。その腕には痛々しい傷跡がついている。絹のような美しい肌。あり得ない出来事に国王がマリンの元にやって来て尋ねる。
「ど、どうしたのだ!? これは酷い……」
生々しい怪我。マリンはあえて完治させずにその怪我を国王に見せた。マリンが言う。
「実は用事があって地方に行っていたのですが、そこで要のレザリア・マジシャス様にお会いしたんです。でも……、あぁなんてことでしょう。獣族討伐に来ていた彼女は、気でもお違えたのか従事していた騎士団の皆様を、突然次々と攻撃し……、ううっ……」
「マ、マリン……」
マリンの話では何があったのか知らないが要の彼女が王国騎士団を不意打ちにて攻撃。命乞いをする団員を皆殺しにしたとのことであった。止めに入ったマリンも従者と共に攻撃され、命からがら逃げて来たとのこと。
それを聞いた国王の顔が真っ赤になり激怒。レザリアの要の職を解き、国家反逆罪で死罪とすることを決めた。
「マリン、怖かったですぅ……、もうダメかと思って、ううっ……」
マリンが甘えた声で国王の腕の中で震える。
「おお、なんて可哀そうに。怖かっただろう。もう大丈夫だ。このわしがいる限りお前にもう怖い目には遭わせない」
「ほんとぉ?」
「ああ、約束する」
マリンが甘い香りを発しながら言う。
「じゃあレザリア様と、あと彼女と一緒にいる者達も捕まえてください。お願い、王様……」
「ああ、無論だ。皆、死罪だ」
マリンが笑う。そしてすぐに国内に向けてレザリアとその一味の指名手配が行われた。
「残念だが、この村にも居られなくなった。今夜ここを発つ……」
レザリアが悲痛の表情でベッドに横になるベート達に告げた。
マリンに敗北した後火鳥に救われたベートは、近くの村へと搬送された。応急手当てを受け一命は取り留めたが、何せ怪我の具合が酷い。近くの街へと移動し治療師によって手当てを受けるも田舎の術師では回復が遅い。
そんな中、レザリア一行の指名手配のニュースが舞い込んだ。
「すまない、みんな……」
そう答えるベートにミリザが泣きそうな顔で言う。
「いいの、いいんだよ。生きていてくれれば……」
そう生きていてくれさえいれば良かった。最悪の事態だけは避けられた。
だが状況は悪化の一途をたどっている。頼りにしていた仲間の獣族もマリンの魅了によって壊滅。サーマルトの要に接触できたのだが、知らぬ間に指名手配犯にされてしまった。このままでは人のいる場所に滞在もできない。四面楚歌。まさに周りは敵だらけになってしまった。
「敵ながら見事ね。強いし、頭良いし、ほんと抜かりないわ……」
さすがのミリザもマリンの謀略に脱帽する。魅了はマリンを倒せば解除されるが、肝心のマリン自体が恐ろしいほど強い。
「すまない、俺が不甲斐ないばかりに……」
ベッドに横たわるベートが謝る。その目に涙。またしても不甲斐なく負けてしまった。ミリザが言う。
「いいの。気にしないで。また頑張れば……」
頑張ったところで勝てる見込みはない。今のベートの戦い方では相性が悪い。力で押すエレファント・ゾウやゴルノなどには強いが、マリンのような戦術を取られると手も足も出ない。
「俺、もっと強くなるから……、ごめん……」
ベートが涙を拭いながら謝る。レザリアが暗くなった窓の外を見て言う。
「ベート、動けるか? そろそろここを出なきゃならない」
「ああ、大丈夫だ」
驚異的な回復を見せるベート。何とか歩けるほどに回復している。レザリアの肩を借りながらベートとミリザは休憩していた宿を出て森へと向かった。
その少し後。同じ宿屋を訪れた水色の髪のおさげの少女があることに気付く。
(あれ? ここに残る温かなマナ……、これって……)
宿屋に微かに残るその透明無垢なマナを感じ取った少女が、カウンターに居た女将に尋ねる。
「す、すみません!! ここに茶髪の男の子が来ませんでしたか??」
怪訝な顔をした女将が尋ねる。
「あんた誰だい? 客の情報は言えないなけど」
「い、妹なんです!! 家出した兄を探してきたんです!! 名前はシンデレラ・ベート。私のお兄さんで……」
その言葉を聞いた女将の顔が一瞬で憐みの顔となる。
「そうかい、それは大変だったわね。まだ幼いのに……、そうだね……、あっ、いたよ。さっきまでうちで休憩していたわ。そう茶髪の少年。怪我していたようだけど、どうしたのかしら?」
「ほ、本当ですか!?」
水髪の少女、モモコの顔が一気に明るくなる。
「ええ。女性ふたりに支えられながら出て行ったわ」
「ど、どこに行きましたか!?」
「多分……、森の方かしら? でもこの時間は危なくて……」
「ありがとうございます!!!」
モモコは全力で街を出て夜の森へと走る。近くにいる。感じる、温かなマナを。ずっと探していた王子様のマナを。モモコは無我夢中で森の中を駆けた。




