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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第二章「サーマルトを襲う甘い牙」

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32.マリンの実力

 魔獣国幹部『序列四位』ルシア・マリン。

 この地方の守り神と崇められた火鳥の上に乗り、血の付いた鋭い爪をぺろぺろ舐めている。余裕。貫禄。ラブリーキャッツと呼ばれるその可愛らしい姿からは想像もつかないような実力の持ち主。マリンが言う。


「この子達は、あんまりマリンの魅了チャームも効かないし~、ちょうどいい機会だったわ」


 白くうぶ毛が生えたような肢体。可憐な尻尾。可愛らしいネコ耳。そのすべてが反比例するような悍ましい存在を感じベートが皆に言う。



「逃げろ……、とにかくここから離れてくれ!!」


 シルバーナイツで戦った幹部エレファント・ゾウ以来の恐怖。やはり序列を持つ魔獣族は桁が違う。ミリザが退避しながら言う。


「ベート、ベート。死なないで!! お願い!!!」


「……ああ、分かってる」


 それはまるで自分自身に言い聞かせるような言葉。火鳥達も人族の子供達を咥え、次々と羽ばたいていく。



「わ、私は……」


 黒髪のレザリア。最愛の弟マークを抱きしめながら立ち尽くす。かなめ。サーマルトの要。ここで戦わなきゃならないと思う一方、桁違いの敵のレベルを感じ足がすくむ。ベートが言う。


「行け、ここは大丈夫……」


 救われた。その言葉にレザリアはすべてが救われた気持ちになった。マークの手を引き駆け出して言う。


「すまない!!!」



(……ああ)


 これでいい。守るべきものがある奴は命をかけて守る。自分の守るべきものはその先にある。目の前の『序列四位』を超えた先にある。ベートが呼吸を整えてマリンと対峙する。



「ねえ、あなたってさあ~」


 マリンが甘いネコのような声で尋ねる。


「やっぱりオリジンだったりするわけ~??」


「……ああ、そうだ」


 ベートは感じている。マリンから発せられる甘い理性を狂わせるようなマナ。魅了チャーム。くねくねと体をくねらせながらも確実に魔の手を伸ばして来ている。マリンがつまらなそうな顔で言う。



「あー、やっぱり無理みたいだね~。さすが根源たるマナ。マリンのこんな派生マナじゃ全然太刀打ちできないよ~」


 全ての根源であるオリジン。その根源を派生マナが揺るがすことなど不可能。ベートにはオリジン発現して以来、各種耐性が備わっている。ただ当のベートは自身の心臓の鼓動を抑えきれないでいた。



(どうする……、勝てるか、今の俺に……?)


 エレファント・ゾウですらひとりでは勝てなかった。あれから鍛錬を積み強くなった。だが敵は『序列四位』、恐らくゾウ以上の猛者。間違いなく見た目からは想像もつかない強さを秘めている。



(だが!!)


 やらねば殺される。ここで負ければ魔獣王に辿り着くことすら不可能。ジジイのように強くなる。強くなって会いに行く。頭を下げてあの言葉を取り消す。ベートが息を止める。



(爆ぜよ!!!!)


 ドン、ドドッドドドオオオンン!!!!


 マリンに放ったマナの塊。次々と爆発を起こすが、もうすでに彼女の姿はない。



「おっ、そ~い!!」


 グサッ……


「ぐがっ!!!」


 脇腹が熱くなる。同時に感じる絶望的な激痛。



「がっ、ぐぐっ……」


 マリンの鋭い爪が脇腹を貫いている。瞬時に身をかわして急所は避けたが、障壁を張る時間すらなかった。マリンが言う。


「無詠唱ってすご~い! しかもオリジンでしょ~??」



(は、爆ぜろ……)


 ドン!!!


 呼吸を止め、自身の傍で小爆発を起こす。



「わぉ、あぶな~い」


 マリンがネコのようにぴょんと跳躍。今度はベートの血で染まった爪をぺろりと舐める。



(速えぇ、なんて速さだ……)


 目で追うのが精一杯。とてもあの素早い個体にマナを当てられる気がしない。ベートが息を止め心で叫ぶ。



(障壁っ!!!)


 ドクドクと流れる鮮血を感じながらのマナ防御。息を止める。そして更に周囲にマナを撒き散らす。一面に仕掛けたマナ。この数なら避け切れないはず。マリンが四つん這いになって言う。



「無駄だよ~、マリンってさぁ素早さだけは断トツなの~」


 シュン……


 消えた。そう言い残してマリンの姿がベートの視界から消える。



(爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ!!!!!)


 一斉に爆破を命じるベート。だが既に遅し。マリンはベートの目前にまで迫り、その鋭利な爪を振り上げて言う。



「マリンちゃん、力は弱いけどぉ~」


 ガン!! ……バリン!!!!


「すっごく速いんだよ〜」



「ぎゃああ!!!」


 防御用に張った障壁を破壊しながらベートを攻撃。咄嗟に後ろにかわしたものの、ベートは腕に深い傷を負ってしまった。



「はあ、はあ……」


 ぽたぽたと血を流し息をするベート。速いし、強い。想像を遥かに超えるレベル。マリンが言う。



「君さあ~、ゾウちゃん殺したんだよね~?」


「……」


 脇腹がどくどくと痛みを訴える。斬られた腕からも出血が止まらない。


「ゾウちゃんってさあ~、おっきくて無口で、何考えてるのか分からないとこあったけどぉ~」


 ベートが呼吸を止め腕を下に向け叫ぶ。



(凍てつけ!! 大地)


 初めてのスキル。一瞬で辺り一面がツルツルの白銀の大地へと変化する。動きを、俊敏さを封じる作戦。

 息を止めたままベートが次の攻撃を繰り出そうとした時、マリンは両手足の爪をギィッと氷に突き刺し、こちらを睨んで言う。



「ゾウちゃん、大好きだったんだよ、私……」


 シュン!!!



(なっ!?)


 爪を持つ獣族ラブリーキャッツ。凍った地面など彼女にとって何の意味もなさなかった。



 ザン!!!


「ぐはっ!!」


 マナの障壁。瞬時に張ったマナの障壁のお陰で直撃は避けられた。だが胸に爪の攻撃を受けたベートが吹き飛ばされ、倒れる。



(やべぇ、こんなのどうすりゃいいんだ……)


 仰向けになって体を震わせるベート。素早さだけでなく力も十分強い。これが幹部。『序列四位』のラブリーキャッツの実力。マリンが凍結の解除された地面をゆっくり、猫のように音を立てずに歩く。


「無詠唱は凄いけどぉ、まだまだ弱いわね~。魔獣王様に怪我を負わせた、あのおじいちゃんとは全然違う~」



(ジジイ……)


 ベートの目に涙が溢れる。

 ジジイは皆を守る為に命を懸けた。相手がどれだけ強大だろうと怯まずに戦った。ジジイに会いに行く。憧れで、目標だったジジイにこんな無様な姿は見せられない。



「はあ、はあ……」


 真っ赤な血に染まったベートがよろよろと立ち上がる。意外な反応にマリンが驚いて言う。


「あれ~、まだやるの~? これだけ実力の差を知っても、まだやるんだ~。ま、いいけどぉ~」


 意識が朦朧とする。勝てるのか。あんな化け物みたいな奴に勝てるのか。ベートはずっと息を止めたままひたすら自身のマナを凝縮していた。無意識に。



「魔獣王様のため、死んであげてね~、弱いオリジンちゃん……」



 ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


「きゃっ!!」


 不意の超爆発。

 純粋で無色。凝縮された無垢なマナの塊が、ベートの真ん前で爆音を伴って爆発した。



「ぐっ、ぐぐっ……」


 無防備だったマリン。この戦いで初めて傷を負った。だがそれは攻撃を放ったベートも同じだった。



「ぁあ、がっ、ぁああ……」


 立ったまま意識を失いかけるベート。無意識で放った爆撃に、自身も巻き込まれてしまっていた。マリンが流れ出る鮮血を舐めながら言う。


「ゆ、許さない。殺してあげる……」


 初めての負傷に激怒するマリン。両手の爪を出し動けなくなったベートへ焦点を合わせる。そしてとどめを刺そうとした跳躍した時、その黄金こがね色の光が目の前に舞った。



 シュン……


 ガン!!!!


 マリンの爪がベートのいた地面に突き刺さる。マリンが顔を上げ、ベートを咥えて空を飛ぶ火鳥に向かって叫ぶ。


「邪魔しないでよ!!! 何よ!!!!」


 火鳥はベートを咥えたまま空の向こうへと飛び去る。逃げられた。さすがに空までは追えないマリン。獣化を解き、人の姿に戻って言う。



「やだぁ~、痛い~。マリン怪我しちゃった~、もう、許さないから~!!」


 その可愛げな言葉とは裏腹に、彼女から発せられた強い殺気がその怒りを表していた。




(負けた。俺、また負けたんだ……)


 火鳥に咥えられながら空を行くベート。敗北。完全な敗北の前に段々意識が遠のいていった。

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