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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第二章「サーマルトを襲う甘い牙」

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27/82

27.伝承となった少年

 サーマルト王国王城にある国王専用政務室。厳重な兵士の警備の元、幾つものセキュリティを超えた先にある特別室。この限られた人しか訪れることの許されない場所に、最近夜な夜な顔を見せる人物がいる。


「やだ~、国王様ったら~」


 眺望もよく広い国王政務室。月明かりが差すロマンティックな部屋に妖艶な甘い声が響く。中央に置かれた年代物のソファー。そこにどっしり座った国王の隣、華奢な彼女がちょうど座れるほどのひじ掛けに腰を下ろし、肩に手を回し、甘い声で囁く。


「そんなに触ったらくすぐったいですわ~」


いやつめ、ほんにいやつめ」


 国王は、目の前に差し出されたルージア・マリンの絹のように柔らかい脚を撫でながら頬ずりする。胸元が大きく開いたタイトドレスに身を包んだマリン。ピンクの髪をかき上げる度に甘く男を誑かす香りが国王を包み込む。


「おイタが過ぎますわよ~、お・ぅ・さ・まぁ」


 そう言いながら国王の白髪をくすぐるようにマリンが撫でる。国王が顔を上げて言う。



「こんなに男をダメにする女は初めてじゃ。グラーノを捨て、今はメルフィンか?」


 最初に取り入ったグラーノ男爵。それを踏み台にして次はメルフィン侯爵。そして今は最高権力者のサーマルト国王。マリンが両手を顔に当て困った表情で言う。


「そんな酷いことしないですわ~、わたくしは単に惚れやすい単純な女。今は国王様の男の魅力にどうかなっちゃいそうなんですぅ~」


 そう言って置いた国王を抱きしめるマリン。彼女の魅了チャームが最大に発せられる。国王が恍惚の表情で言う。


「そうかそうか。わしの男の魅力か」


 まんざらでもない国王。老いた身。それでも国王としてではなく、このような美女に()として褒められればお世辞でも悪い気はしない。マリンが尋ねる。


「ときに国王様ぁ。あちらの方はどうなっていますか~?」


「あちら? ああ、シルバーナイツとの戦いか?」


 マリンが頬を赤く染めて頷く。


「順調だ。お前の貴重な情報のお陰で我が国が先制攻撃を受けずに済んだ。本当に感謝しているぞ」


「マリン嬉しい! でも聡明な判断をしてくれた国王様のお陰なんですよ~」


 国王はマリンの放つ色香に徐々に頭の中が混乱し、ピンク色に染まっていく。出自が不明な謎の美女。そんな彼女の虚言に乗り宣戦布告したサーマルト。国内崩壊はその中枢から始まっていた。


いやつ、いやつ……」


 目の視点も合わない国王。今夜もラブリーキャッツの『甘噛み』によって、快楽の海の中へとどっぷりと浸かっていった。




 サーマルト王国とシルバーナイツ王国国境。

 戦火を交えて数日経つこの戦場は、いつしかその様相が変わり始めていた。


「獣族、獣族出現!! 気をつけろ!!!」


 気が付けばサーマルト側から多くの獣族が咆哮しながら攻め入って来る。低知能な野獣や下獣。まるで何かに操られたかのようにシルバーナイツ領へと侵攻する。


「ぐわああああ!!!」

「くっ、持ち堪えろ!!!」


 サーマルト兵と獣族の相手をする国境警備兵。各地で起こる戦に国防隊の援軍も追いつかない。



「ロックストーム!!!!!」


 絶望的な光景。群れを成して攻めて来る獣族。そんな彼らをその精悍な顔つきの男の攻撃が一掃する。


「サ、サーフェス長官!!」


 国防長官サーフェス・ベルモンテ。怪我から回復した彼は獅子奮迅の勢いで皆の救援を行っていた。サーフェスが叫ぶ。


「怯むな!! 我らは誇り高きシルバーナイツ! 負けることはない!!」


 国防長官の活躍で戦況は一変。見事に獣族達を追い払った。



(この国は私が守る。ベート殿、もっともっと強くなってまた会おう)


 馬を走らせ次の戦場へと駆けるサーフェス。ベートと交わした男の約束が彼をより強くさせていた。






 猛獣キラーパンサー。黄色の毛並みに黒の斑模様。上下に生えた大きな牙が特徴の凶悪な獣族。その黄色の悪魔に【根源たるマナ(オリジン)】シンデレラ・ベートが対峙していた。


(やべえな、なんて圧だよ……)


 向かい合うだけで感じる殺人的な重圧。少しでも無駄な動きをすれば一瞬でかみ殺される恐怖。盛り上がった手足の筋肉が、大きいな体に不釣り合いな俊敏さを与える。手加減はできない。初っ端から全力を出す。



(爆ぜろ!!!)


 ベートが息を止め複数のこぶし大のマナを放出。キラーパンサーの周りで起こる爆発。詠唱もなしに起こった攻撃に唖然とする村人。だが黄色の悪魔はそれを容易くかわし、ベートへと接近する。



「ガルウウウ!!!!」


 シュン!!!


 キラーパンサーの爪の攻撃。ベートはそれを後方に跳躍しながらかわし、同時に息を止め叫ぶ。



(渦巻け、ファイアーストーム!!!)


 ゴオオオオオオオ!!!!!


 白く、火力の強い炎の竜巻がキラーパンサーを中心に巻き起こる。熱くないはずの炎に焼かれるキラーパンサー。堪らず跳躍して退避する。



「すごい……」

「無詠唱で戦っている!?」

「あの子供一体何者なんだ……?」


 村人の中から驚きの声が上がる。圧倒的強さのキラーパンサーに対し、優位に戦いを進めている。使うマナもあまり見たことのないし、しかも無詠唱。人の姿に戻ったミリザが声を上げる。


「治療を! 早く治療できる人を連れて来て!!」


 そこには鮮血に染まったライザ親子。一刻も早い手当てが必要である。村人の中から水マナ使いが現れ治療を開始する。助かるかどうか分からない。ミリザはベートを見つめながら家族の無事を祈る。



「はあ、はあ……」


 速い。見た目以上に相当に速い。マナを使えている内は優位に戦えるが、体力が減り、息が上がって来ると不利になるのは明白。息を止めなきゃいけないと言う条件が想像以上に重くのしかかる。



「オマエ、強いナ……、まさかオリジンか……?」


 キラーパンサーがじっとベートを見つめて問う。時間がない。あまりもたもたしているとやられる。ベートが右手を前に差し出し静かに答える。



「そうだ」


 ギッ!!!


 キラーパンサーの全身の毛が逆立つ。獣族の中でも最強の魔獣王。その魔獣王の唯一の天敵がオリジン。生半可な攻撃では返り討ちに遭う。キラーパンサーが黒きマナを全身から放出した。



「なっ!?」


 黒きマナがベートの頭上で広がり、それが複数、鋭利な牙のような形に変化。一気に下降して襲い掛かる。



「障壁っ!!」


 息を止め、白いドーム状のマナ障壁を形成。



 ドン、ドッドドドドドドオン!!!


 次々と壁にぶつかり砕け散るマナの牙。想定内。キラーパンサーが防戦一方になったベートに向かって跳躍しようとした。だが自分の足元を見て唖然とする。



「こ、コレは!? 氷……」


 いつの間にか自身の周りの地面が足ごと凍り付き、身動きが取れない。詠唱なしのマナ攻撃。見たことのない白銀の氷。動きを封じ込められたキラーパンサーにもはや勝機はなかった。


「キィシャアアアア!!!!」


 キラーパンサーの真の前に迫る大きな白きマナの塊。言わなくても考えなくても分かる。最悪の攻撃。オリジンがオリジンたる所以。ベートが静かに言う。



「くたばれよ、下獣が」


 息を止めぎゅっと拳を握る。



 ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!


 爆発。爆音。どれをとっても誰も経験したことのないような激しい攻撃。村中に広がる閃光。その光の後に、白いマナ煙がもくもくと青空に舞い上がっていく。村人が震えながら口にする。



「すげえ、あれってあれってさ……」

「オリジンだ!! 俺達を救うオリジンが現れた!!!」


 マナを大量消費し、ぐったりと地面に座り込むベート。その彼にミリザを始め、村人が集まって騒ぎ褒め称える。『黄色の厄災』を祓った少年。この話は後世に村の伝承として語り継がれることとなる。






 一方、ボフラ火山に向かったレザリアと騎士団。その前に現れたその毛深い巨躯の男が行く手を遮っていた。男が言う。


「レザリア・マジシャス様でよろしいでしょうか。私はゴルノと申す者。暫し時間と、()()を頂戴いただけませんでしょうか」


 慇懃無礼。まさにそのような言葉が似合う相手。レザリアが面倒そうな顔で答える。



「あー、だるい。ちょーだるい……、なにあのゴリラ……?」


 魔獣族ダンディゴリラ。その真たる力がサーマルトのかなめとぶつかり合う。

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