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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第二章「サーマルトを襲う甘い牙」

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23.レザリア・マジシャス

「グヘヘヘ、ベアードさんよお。シルバーペガサスは俺達の奴隷にすればいいじゃね?」

「そうだそうだ。マリン様にはあのガキの首だけで十分だ!!」


 ゴレッタ村外れにある家。その中で獣化した魔獣族がベートとミリザを取り囲み、笑いながら言う。ベアードが答える。


「確かにな。こいつは阿婆擦れだが、()()()を産める。オスを喜ばせ、獣族繫栄が約束される希少種。楽しむだけでもありか。クククっ……」


 魔獣族の卑猥な視線がミリザに向けられる。震えるミリザ。ベートに抱き着くように身を寄せ目に涙を浮かべる。ブラックベアーに獣化したベアードが鋭い爪を見せて言う。



「さあ、降参しろ。クソガキ。お前がオリジンだと? 嘘言うんじゃねえ。この俺が本気を出せばお前みたいな小さな奴、一瞬で首と胴がおさらばするぜ」


 ベアードの言葉に周りの仲間達がゲラゲラと笑出だす。ただベートは冷静だった。



(多分こいつは大したことない。ただこの人数と狭さは不利だな……)


 先程ベアードの攻撃をマナの障壁で受けた時の感覚。今、相手から感じる圧。どれをとっても先日戦ったオークキングの方が上。しかしこの狭い部屋の中でミリザを庇いながら複数体を相手にするのはリスクがある。



(ならば!!)


 ベートが息を止め、右手をドアの方へと突き出して内心叫ぶ。



(爆ぜよ!!!)


 ドオオオオオオオン!!!



「グワアアア!!!」

「ギャア!!」


 ベアード達は突然の爆発に咄嗟に身を屈めた。何が起こったのか分からない。外部からの攻撃か。だが砂埃が薄れていく中で、その爆発の意味を理解した。



「い、いねえぞ!? あいつらがいねえ!!!」


 取り囲んでいたはずのベートとミリザが消えている。仲間の一人が叫ぶ。


「あ、外にいるぞ!!」


 皆の視線が家の外へと向けられる。突然の爆発で集まって来た村人達。遠巻きに心配そうに眺める彼らの前に、茶髪の少年ベートと銀髪の少女ミリザが寄り添い立っている。


「逃げたか、クソっ!!」


 ベアード達魔獣族が次々と崩壊しかけた家から出て来る。驚いたのは村人。爆発で不安そうだった顔が、溢れ出る獣族の姿を見て絶望へと変わる。



「じゅ、獣族だ!!」

「きゃあああああ!!!」


 平和な村に響く村人の声。温厚で優しかったベアードが獣族だった。村の人達はそれだけで十分衝撃であった。ベートが言う。



「ミリザ、離れ……」


 ベートは気付いた。ミリザが体を震わせて泣いているのを。今は敵。だが彼らはミリザがずっと連絡し合ってきた仲間。何があったのか分からないが、本当に戦っていいのだろうか。ベアード達がゆっくり歩みを進めながら言う。



「ああ、バレちゃったな。じゃあ、村人全員、皆殺しだ」


「ひ、ひえー!!!」

「殺される!!」


 集まっていた村人が恐怖し、逃げ始める。平和な村に起きた突然の悲劇。だが天は見放さなかった。



「何ごと~?」


 そんな村人の中から物々しい集団が現れる。サーマルト王奥を象徴する青色の鎧。均整の取れた馬。精悍顔つきの一団を率いる黒髪の女性。村人が叫ぶ。


「き、騎士団だ!!」

「レザリア様!!」


 レザリアと呼ばれた女性。黒髪にタイトなドレス風戦闘着。やや面倒臭そうな表情で尋ねる。



「何これ、どういうこと? 騒いでいるから寄ってみたんだけど、獣族出たの? あー、めんど……」


 側近の騎士が馬を寄せてレザリアに言う。


「野良の獣族の様です。討伐しましょう」


「しんど……」


 一層やる気のない表情となるレザリア。村人、そしてベート達も距離を取る様に後方へ移動する。ベートが村人に尋ねる。



「なあ、あれ誰なの?」


 村人が来たる。


「誰って、レザリア様だろ。レザリア・マジシャス様」


「レザリア? 俺達旅の者だからよく知らないけど……」


 村人が誇らしい顔で言う。


「そうか。ならばお前ら運がいい。あれはサーマルトのかなめだ」


(え?)



 ベートが騎乗の黒髪の女性を見つめる。あれが要。探していたサーマルト王国の要。だが腑に落ちない点もある。


(確かに弱くはないマナだが……、実力を隠しているのか?)


 それほど強そうには思えない。圧倒的な強さが感じられない。だがそれもこれから始まる獣族との戦いを見れば分かる。ベートはレザリアの戦いを注視した。レザリアが側近に言う。



「仕方ないからあのブラックベアーは私がやる。雑魚はお前達で頼む……」


「はっ!」


 騎士団の男がそう答えると部下達に命を伝える。レザリアが馬から降り、ブラックベアーのベアードの前に立って言う。



「始めるぞ、面倒だが」


 ベアードが鼻息荒く興奮しながら叫ぶ。


「邪魔をするな!! 貴様ゴトキ小娘、俺の敵じゃねえ!!!!」


 ベアードは素早くその太い腕を上げ、突進しながら振り下ろす。



「……森羅万象を源にせし氷のマナよ。氷壁となりて我を守らん。アイスウォール」



 バリバリバリ……


 レザリアの前に現れる氷の壁。氷のマナ使い。レザリアはサーマルト有数の氷使いであった。だがベートが()()()()を危惧する。



 バリン!!!


 ベアードの強烈な一撃。爆音と共に氷壁が一瞬で破壊される。



(あれじゃ弱いだろ……)


 見ていたベートが首を傾げる。ベアードの力に対して張った氷の壁。薄いしマナ量も不足。一撃で破壊されるのは明白だった。



「くっ……」


 レザリアは後方に移動しながら新たに詠唱を開始。



「森羅万象を源にせし氷のマナよ。槍となりて敵を貫かん! 氷槍アイスピア!!」


 ドドドドドォ……


 ベアードの地面から現れる氷の槍。その冷たき槍がブラックベアーの巨漢に突き刺さる。



「ギャオオオオオ!!!」


 浅い。レザリア渾身の攻撃もブラックベアーの急所を外し、血を流しながら突進してくる。



「ひょ、氷壁っ!!!」


 咄嗟の防御壁。だが詠唱が端折られたせいで不完全な氷の壁が出現。



(危ねえ!!)


 バリ、バリン!!!


「きゃああああ!!!!」


 ブラックベアーの爪の餌食となったレザリアが回転しながら吹き飛ばされる。幸い戦闘用衣装を着ていたお陰で大きな怪我には至っていないが、滴る鮮血が痛々しい。



「レザリア様が、かなめでも勝てないのか……」


 村人から不安の声が漏れ始める。全幅の信頼を寄せる国の支えである要。それが野良の獣族に押されている。レザリアが側近に言う。



「時間を、稼げ!!」


「はっ!!」


 命じられた側近が土のマナを詠唱、土壁が現れる。弱々しいが手負いのブラックベアーを短時間足止めするには十分であった。



「森羅万象を源にせし氷のマナよ。塊となりて敵を潰さん! 氷塊アイスロック!!」


 十分な詠唱。マナも彼女が持っている最大級のもの。ブラックベアーの頭上に現れる巨大な氷の塊。マナを含み、殺傷能力を強化した氷塊。ミリアが小声で言う。



「あれを落とされたら……」


 死。数体の獣族に対し、国を護る騎士団と要。善戦したが結果は分かっていた。レザリアが叫ぶ。



「潰れろーーーーーっ!!!!」


 ドオオオオオオオオオオオオオン!!!


 ベートも目を背けた。

 レザリアの氷塊に触れたベアードが一瞬で凍り付き、そして氷塊の重圧で粉々になって砕けた。




「ああ、めんど。ああ、めんど……」


 両膝に手をつき、肩で息をするレザリア。野良とは言え強力な個体であった。騎士団の回復役が彼女に近付き応急手当。顔を上げたレザリアに側近が言う。


「取り巻きも一掃しました。お疲れ様です」


「面倒の極みだな……」


 側近が苦笑して答える。


「そう仰らずに。これが要の仕事。さすがです」


「分かってる。それで()()()はどっちの方向だ?」


 側近が頷いてから、遠巻きにいる村人に尋ねる。



「ボフラ火山はどっちの方向だ?」


 村人のひとりが遠くの高山を指差す。側近が言う。



「あちらの方です。目指す()()がいるのは」


「あー、分かった。じゃ、行くぞ」


「はっ!」


 再び隊をなして移動を始めるレザリアと騎士団。ベートが慌てて駆け寄るが、それより先に村人数名がレザリアの前に土下座して懇願する。



「か、要様っ!! どうか我らをお救い下さい!! 近くに獣族が現れて生贄を要求……」


 レザリアの前に側近が現れて村人に言う。


「悪いが我々は国家厳命で動いている。今、そのような余分な時間はない。さっきの野良を倒しただけでもありがたく思え」


「そ、そんな……」


 騎士団はそう言うと再び馬を走らせ去って行った。




「ミリザ……」


 ベートはじっとベアード達の亡骸を見つめるミリザに気付き黙り込んだ。何があったか知らないが、それを知る間もなく討伐されてしまった。涙を拭きながらミリザが言う。


「大丈夫。私は大丈夫だよ、ベート」


「ああ……」


 ミリザがドンとベートの背中を叩いて言う。



「それより話を聞こ。みんなの」


 そう言ってミリザは途方に暮れる村人達を見つめた。



「了解」


 ベートは小さく頷き、それに応えた。

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