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2.若気の至り

「では、マナの測定試験を始める!!」


 王立シルバーシャイン学園はマナ教育に特化した学校であった。定期的に全生徒を対象にマナの成長を測る試験を実施している。試験は至ってシンプルで、魔力を付与された魔鉱石をマナで攻撃するだけだ。

 魔鉱石はマナの属性によって色が変化し、更に強さによって大きくなる。風属性なら緑、水属性なら青色。石ころサイズの魔鉱石だが、使用者によっては大人ぐらい大きくなる。



「森羅万象を源にせし土のマナよ。石となりて敵を撃たん!!」

「森羅万象を源にせし闇のマナよ。黒弾となりて敵を撃たん!!!」


 生徒達それぞれが得意のマナによって攻撃を行う。マナの衝撃を受けた魔鉱石があちらこちらで鮮やかな色を放ち変化していく。マナ測定試験、これはある意味生徒達にとって、自分の実力を皆に示すアピールの場でもあった。



「森羅万象を源にせし火のマナよ。火球となりて敵を撃たん! ファイヤーボール!!」


 ゴオオオオオオ……


 赤髪の生徒クレイスが轟音と共に火球を放つ。真っ赤に染まる魔鉱石。その大きさも自分の頭ぐらいのサイズへと変化する。それを見ていた同級生が感嘆の声を上げる。


「さすがクレイス。お前、天才だな!!」


「ふっ、大したことないよ。まだまだこれから。俺の目標は最強のかなめヴォルトさん。もっともっと強くなりてえ!!」


「クレイスならなれるよ!」


「まあな。それより……」


 クレイスらの視線の先には、ひとり手を前に差し出しびっしょり汗をかきながら苦しむ茶髪の少年の姿。クレイスが言う。



「おい、クソ雑魚。お前何やってんだ!?」


「……」


 周りからクスクスと笑いが起こる。皆が規模は違うにせよ、何らかの魔鉱石の反応を見せる中、その彼ベートの石だけは何の変化も起きていなかった。同級生がベートの周り集まって言う。



「無理だよ、お前みたいな無能者にはな!!」

「いい加減、辞めろよ学園。名が汚れるだろ?」


 馬鹿にした笑いの中、ベートはひとり必死に魔鉱石に向かい合う。



(俺は絶対にできる。絶対に……)


 自分を信じていた。絶対にできると。



「おい、なにシカトしてんだよ!?」


 クレイスが目で同級生に合図する。それを受けた仲間達が教師の視界を遮るようにベートの周りに立つ。クレイスが言う。



「無能者がイキがってんじゃねえよ!!」


 ドフッ……


「ぎゃっ!!」


 小声での高速詠唱。ベートの腹部に小さな火球が撃ち込まれる。蹲るベート。クレイスが吐き捨てるように言う。



「能力もない。才能もない。実力も、地位も金もないお前が何を勘違いしている? どんな手口を使って入学したか知らねえけど、いい加減その汚ねえ面を見せんじゃねえよ!!」


 ボフッ……


「ぐっ……」


 クレイスの膝蹴りがベートの顔に打ち込まれる。鼻から流れる血。溢れ出る涙。ベートは四つん這いになりながら思う。



(俺はやれる。絶対やれる。ジジイと約束したんだ……)


 ベートの頭に遠い幼き頃の記憶が蘇る。






 ベートは戦争孤児であった。

 世界中を恐怖に陥れていた魔獣王。圧倒的な強さと残忍さで魔獣族、猛獣族を率い、人族殲滅を号令に幾つもの街や村を壊滅させてきた。ベートの両親もその戦禍に飲まれ命を落とした。


「この子はワシが引き取る」


 そんな戦争孤児となった彼を引き取ったのが、国で最高位の勲章『かなめ』の称号を持つシンデレラ・ヴォルトであった。各国にひとりだけ認定される『要』という国を護る守護職。文字通り国家の要であり、人々の心のよりどころであった。




「じいちゃん! じいちゃんってかなめなの?? すごいや!!」


 成長するベート。ヴォルトから『シンデレラ』の姓を貰いすくすくと成長していた。そして自分の家族であるヴォルトが、国で最強である証の要であることに強い誇りを持っていた。


「すごくはない。ワシなどまだまだじゃ」


 ヴォルトは謙遜した。マナ使いの中でも最強と称えられる【根源たるマナ(オリジン)】の発現者。他のマナを圧倒するほどの強さだが、それでも彼の中ではまだまだ納得のいくものではなかった。


「そんなことないよ! 俺もじいちゃんみたいに強くなって、かなめになりたい!!」


「本気か? ベート」


「本気だよ!!」


 その日よりベートの鍛錬が開始された。

 強くなれる。自分もヴォルトみたいにきっと強くなれる。幼いベートは根拠のない自信に溢れ、厳しい鍛錬に音を上げることなく付いて行った。

 実際、彼の戦闘センスは抜群で、剣術、体術、柔術などありとあらゆる戦いを水につけた乾いた綿のように吸収した。だが大きな壁にぶつかる。




(なんでマナが発現しないんだよ!!)


 どれだけ鍛錬しようが、ベートにマナが発現することはなかった。

 マナの発現条件は人によって異なる。自然に発現する者もいれば、厳しい鍛錬によって得るも者もいる。固有の条件下のみで使える者もいれば、永遠に発現しない者もいる。だが要を目指す者にとってマナは絶対不可欠なもの。


「もっと鍛錬を積め。そうすれば発現する!」


 髪が真っ白になった老将ヴォルト。彼は彼なりに苦しみ、ベートと向き合っていた。だが若いベートにとってもうその我慢は限界に達しようとしていた。



「もうこんな方法じゃ無理だ!! 俺は学園に行ってマナを勉強する。シルバーシャイン学園。ジジイも知ってるだろ? あそこに行けばきっと俺だって……」


 王都シルバーナイツにあるエリート養成校『シルバーシャイン学園』。マナ研究も盛んで全国より選りすぐりの人材が集まる。


「無理じゃ! お前は黙ってワシに……」


「ふざけんな、ジジイ!!」


 ベートは興奮していた。焦っていた。強くはなったものの、一向に開花しない自分のマナに。



「こんなやり方じゃ無理なんだよ!! 毎日毎日厳しい鍛錬ばかりで、全然マナが発現しないじゃないか!!」


「ベート、お前はワシの鍛錬を……」


「だから俺は学園でマナを学ぶんだ!! もうジジイなんていい!! 俺だって普通に学校通いたいし、本当はもっと普通の家庭、美人の母親とか優しい父親とかに拾われたかった。こんな苦しい鍛錬ばかりもううんざりだ!!」


 ベートは強い口調でそう言い放つと、自分の部屋に走って行った。



(ベート……)


 国を守る大黒柱のヴォルト。絶対的な強さを誇る最強の男が、初めてその目に涙を溜めた。




 それから一週間、ベートは嫌々鍛錬を行い、ヴォルトとは一切口を利こうとはしなかった。そしてその朝。ある覚悟を決めたヴォルトがベートに言う。


「ベート、明日から王都へ行け。入学手続きは済ませて置いた」


 そう言って差し出された入学許可証。憧れの、ベートが心から願ったシルバーシャイン学園への入学証であった。要であるヴォルトにはこの程度の手配容易なこと。だがお互いに笑顔はなかった。

 翌朝、出立するベートにヴォルトが声を掛ける。



「ベート、お前は強くなる。自分を信じ、鍛錬を忘れるな」


「……分かった」


 それがベートとヴォルトが交わした最後の会話となった。





【要であるシンデレラ・ヴォルトが魔獣王に敗北!! 更にその配下『序列壱位レイ・エレガント』が学園に向かって進軍中!!】


 だからその一報、育ての親、絶対に負けるはずのないヴォルト敗北の報を聞いてベートは震えた。



(ジジイ、なにやってんだよ。なに負けてんだよ、死ぬんじゃねえぞ。絶対に生きてろよ。だって、俺はあんたに……)



 ――まだ謝ってねえんだ


 ヴォルトに放った心無い言葉。

 いつか彼に認められるぐらい強くなって謝りたい。ベートにとってそれが唯一の、ただひとつの願いであった。

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