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2:魔王と欠点

魔王とその部下の魔物達の顔に生気はない。

なぜならば、彼らは結局朝まで隣のおばちゃんの説教を食らい、更に変な臭いのする手料理を振舞われたからだ。

当然彼らに朝にあった生き生きとした気力など残っているはずもなく、コンビニの中に引きこもっていた。

そんな彼らの顔を入店したお客は見るだけで逃げていき、更に売れ行きが悪くなる。

こんな悪循環に魔王は頭を悩ませながら、奥の部屋へと戻って、机に向かい書類を書いてゆく。


「………魔王様、少しよろしいでしょうか。」


「………何だ。」


1人の魔物が魔王に話しかけるが、その二人の声は当然生気など微塵も感じさせない無機質な声だった。


「生きるって何でしょう。」


魔物の言葉に魔王は書類を書く手を止める。

そして、ゆっくりと顔を上げて魔物の顔を見据える。


「今回のおばちゃん騒動で思いました。世の中は理不尽です。」


魔物の言葉は淡々としており、ただの愚痴の様にしか聞こえなかった。

そんな愚痴に対しても魔王は配下の言葉に的確な相槌を打ちながら、きちんと話を聞く。

そして、魔物が一通り愚痴り終わると、先程と同じ事を魔王に聞いた。


「それで魔王様…生きるって何でしょう。」


魔王は考える。

この質問に答えなど存在しないだろう。

あったとしても、そこに1つの答えなどない。

いくつもの答えがあると共にいくつもの答えがないとも言える。

そんな難しい質問に対し、魔王は簡単に答えた。


「生きるというのは、考える時間だ。」


魔王の言葉に魔物はえ? と答える。

しかし魔王は気にせずに続ける。


「確かに今回、我々は勇者どもに勝つためにお買い物に行こうとした。そして浮かれすぎておった。あれではおばちゃんが怒るのも無理はなかろう。」


「………わかりますが…それでもあれはあまりに酷くありませんか!? あんな拷問みたいな説教を何時間も同じ姿勢で聞かされ、仕舞いには酷いご飯を食べさせる…人間ではありません。悪魔のする事です!!」


魔物は今思い出しただけでも相当クルものがあるのか、身震いしながら魔王に恐れもなく反論する。

それに対して、魔王は更に言葉を続ける。


「確かにあの説教と飯には我もここが我が死に場所かと思った…しかし、我々にも非がある。仕方のない事だ。」


「………ですが…!!」


魔物はまだ何かを言おうとするが、魔王は片手で制する。

そして、言葉をもっと続ける。


「いいか? 話を戻すと生きるというものは考える時間でイコールが結べるのだ。自分の幸せについて考える時間でもあり、自分の最後の死に方を考える時間でもある。そして、今の様に貴様が抱く問題について考える時間でもある。つまりだ。」


魔王は一拍置いてから話す。


「我々の生きる意味とは考える事にある。そして、今の我らは勇者の売り上げを超えるにはどうするかを考える事だ。これが我らの今の生きる意味だ。」


「………」


魔物はいつの間にか魔王の言葉に聞き入っていた。

まさか現魔王からこの様な言葉が出てくるとは思ってもみなかったからである。

どうせ自分の言葉など適当に流されるのがオチだと思っていたからである。


「…生き生きしてますね。」


「そうか?」


「そうですよ。」


魔物は戦闘ばかりでなくこういう日常もいいかもしれないと密かに心の中で呟いた。

ふと、魔物は窓から外を眺める。

窓からは人間達が朝の通気ラッシュの時間帯のせいか人通りが半端ない。

そして、不思議と勝手にこう呟いていた。


「この目の前を忙しく通っていく人間どもも生きる意味を考えながら生きているんでしょうかね。」


「………この中にはそう言った事を考えずにほとんど流されるままに生きておる人間もおるやもしれぬ。…我は流されるままの人間は嫌いだな。」


「そうですか。」


魔物は少し魔王が何故世界を征服したいのかという理由を少し知った様な気分になった。


φ~зーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いらっしゃいませー」


客が来る。

時間が少ないのか適当なコンビニ弁当を引っ掴むと、早歩きでレジに向かい、会計をしようとする。


「356円です。」


魔物が値段を言う。

客は500円玉を出して、お釣りを貰うと今度は走って出て行った。


「ありがとうございましたー」


客が去っていった出口を眺めながら、魔物は言う。

正確には魔物ではなく、魔王だが。

魔王はふぅ…とため息を吐くと、ふと真っ黒な天井を見上げた。

そして、呟く。


「我はどうもこの喋り方に慣れぬ…他の者にやらせたいのだがな…」


しかし、魔王の配下にまともなレジ打ちができる魔物はいない。

せめてレジに立たせて、店番させるくらい…

客が来れば直ぐに魔王が対応しているのだ。


「そろそろ本気でレジを撃てる魔物を補充したい所だな…」


しかしそうは言っても、魔物は戦いばかりが頭にあり、実際にできると言えば掃除くらいのものである。

おかげで掃除の人手だけはありえない程に余裕があるので、コンビニ内はいつも綺麗なのだが…それでもお客が二人連続で来られると片方を待たせることになってしまう。

そういう所が今直ぐに解決しなければならないこのファミリーマオウの欠点だ。

と言っても、欠点はこれだけではない。

挙げればいくらでも出てくる例えば…


「おい、お前の方はどうだ?」


「………駄目だな。今週のこの雑誌には貧乳や幼女がいねえ。」


「ちげえよロリコン。熟女だ。熟女はいねえのか!!」


「キモ。年増好きかよ。」


「あ? てめえ今なんつった?」


「おばちゃん好きとかきめえwwww」


「………」ブチブチ


魔王の視界の隅にはエロ本コーナーで立ち読みする魔物2匹。

現在は店内という事も忘れて戦闘中だ。

その2匹は毎週、本を更新する度にお客すらも蹴り飛ばし、エロ雑誌の中身を我先にと確認していた。

普通ならば、即刻クビで更に消し炭にしたい所なのだが、この2匹は魔王の重臣だ。

怒りで勝手に消し炭にすると、後で後悔する事になると思った魔王は仕方なく我慢しているのだが、それでもあの2匹が売り上げ向上の邪魔をしているのは目に見て明らかだ。

そのため魔王はため息を吐いて、レジから出て、2匹にゆっくりと近づいていく。

そして、最初は魔物2匹は気づかなかったが、自分達に物凄い怒気と殺気を感じた2匹は何もない空間からそれぞれの武器を召喚すると、それを気のする方へと向ける。

そこには


「貴様ら……我の野望の邪魔をするという事は消し炭…いや、人間界の土に還りたいという事か…?」


コメカミをひくひくとさせながらも、笑顔を作るという器用な顔をした魔王が立っていた。


(こやつらは後少しでレジ打ちを覚えそうなのだ…殺しては駄目だ…殺しては…)


必死にそう考えるが魔王の考えとは逆に魔王の右手にはどんどん力が凝縮されていく。

魔王の手に手の防御を上げるための黒いグローブをつけているが、魔王の圧倒的な力により、赤く変色していく。

この圧倒的な力は小動物や子供と言った小さな生き物ならば、今の魔王の前に立つだけで無に還りそうな程の圧力まで出していた。

魔物2匹はそんな魔王の圧倒的な力の前に考える。

どうすれば、自分達は助かるのか。

それだけを必死に考えると、2匹は同時に同じ答えに辿り着く。

そして、お互いにアイコンタクトを交わすと、1匹の魔物がこう言った。


「あーーーー!!!! 魔王様!! お客様がレジに並んでいます!! 放っておくのはまずいです!!」


魔王はその言葉に反射的にバっと振り返ると、お客がいるのかも確認せずに風の様にレジ内へ飛び込むと、営業スマイルを浮かべてこう言う。


「いらっしゃいませ!!」


しかし、魔王の目の前には人がいない。

おや? と思い、周りを見渡すがそれでもお客はいない。

これはどういう事だと魔物2匹がいた所を見るが、既に2匹の姿はない。

そう。魔王はまんまと2匹の嘘に引っかかってしまったのだ。

その事実を魔王が考え至ると、口から微量の炎を出しながら無言でレジから出る。

そして、出口を見据える。


「………あのバカ者どもめ…クビだああああああああああああああああ!!!!!!!」


魔王の声は空しく店内に響く。

店内の奥から他の配下の魔物達が魔王の叫び声に慌てふためいているのだろう。

一体何をしているのやら。

とにかく魔王はあのバカ2匹をクビと言わずに殺すかどうかを考えていると、お客が来たのでレジに戻り、営業スマイルをお客へと向ける。


「いらっしゃいませ!!」

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