第二十七話 対 転移魔法
一本釣り。あえて形容するなら、その言葉が当てはまる。
ステレが思いきり引っ張ったウネルギは弧を描き、反対側で引っ張っていた6組の生徒4人ごと引っこ抜いた。華奢なゴブリンの身体から想像も出来ないパワーだ。
「お兄ちゃんやればできるじゃん!」
「兄さんカッコいい〜♪」
「やったね、お兄ちゃん!」
「おれは!長男だからな!」
応援団の弟妹の声援を受けたステレが、グッとガッツポーズを決めてみせた。身長こそ小さいが、あれで第1種目のようにとんでもないパワーを秘めているのを私達は知っている。強化魔法なしにあれだけの力を出せたのは私も想定外だったが。
勝った8組達が戻って来る。ちなみに、競技の終わったウネルギは後でアスール湖へと返されるらしい。半身ほど凍ったウネルギだが、まったく問題なさそうな顔をしていた。タフな生き物だ。
「で、ちなみに誰のチアが一番似合うと思う?」
戻ってきた男子どもに小声で聞いてみた。
「モ……トロ、かな」
「モ……我もトロだろうか」
「え、エスケ!エスケだ!」
「うちの弟妹達は全員似合ってたぞ!」
だそうだ。ラウザがあまりにも大声を出すので、後ろでエスケが顔を赤くしていた。一応リザード族もゴブリンはストライクゾーンに入ると見ていいようだ。野郎ども、男の娘はいいぞ。
そんなわけで、次の試合も順調に進んでいった。ウネルギの滑りには苦戦しながらも、綱引きしている全員ごとテレポートして引きずり込んだり、手にトゲを作る魔法で滑らないようにしようとするなど、いろんな手段があった。ただ、後者はさすがのウネルギも痛がり、電気が流れてさぁ大変という感じだった。このように動物の綱であるので、綱自体を傷つけることは許されないのだ。
そういうわけでトーナメントは次の試合に進むわけだが、次の試合は3組。パティ先生が受け持つ組との試合となった。彼らは前の試合で、潤滑液を接着剤へと変質させるというファインプレーを見せた技巧派だ。
啖呵を切るだけのことはある、こちらも苦戦を覚悟した。……のだが。
まるでステレの相手はいなかった。ウネルギを引っ張るのではなく、まず下から胴体を掌で叩く。そうすると手が滑るのに関係なく、ウネルギの体が波打って曲がる。
このとき曲がった部分は引っ張ってもウネルギ自身が伸びることはない。その曲がった部分を勢いよく振り上げることで、一本釣りの要領でウネルギの半身を手繰り寄せられる。
ウネルギを掴む相手生徒4人の体重がそこに含まれるはずなのだが、応援団の声援を受けるステレにはカツオ一匹ほどにも感じないのだろう。ステレの顔が物語る。
「そ、そんな……私の生徒達がこんな手も足も出ないなんて……!」
あまりの呆気なさにパティ先生が膝から崩れ落ちる。ちょっとやる気になればと思って用意した応援団ガールズは、どうやら特効薬になりすぎたようだった。滑らずに引っ張れるようになっても、力の差は埋まらなかったのだ。
ちなみに私もウネルギを手に持ち、ステレと同じことができるか試してみたが、無理だった。
一方で、1組はテレポート戦術で綱引きどころではない勝利を重ねていた。勝負が始まった瞬間に決まっているが、これは八魔大祭。ただの運動会ではなく、魔法の使い方が決め手なので誰も文句をつけない。決勝戦は、やはり1組対8組になった。
「今度ばかりは、この勝負もらった!」
「パワーには自信があるようだが、そんなことは関係ないのだからな!」
などと、1組があくどい笑みを浮かべている。確かに転移魔法で自分たちごと相手側へと引きずり込まれてはたまらない。8組の4人と、1組の4人がウネルギを持って準備する。
「……あんなのが通るなら、最初からみんなテレポートを使えばいいじゃない?」
観戦に徹していたフィール王女が不意にそう言った。ごもっともである。
「フィール王女、では試しに聞いてみるけど君は転移魔法が使えるかい?」
「私は……無理ですわね。だって先生に教わってませんもの」
そう。私は転移魔法を8組に教えていない。というより、教えられないのだ。それには理由がある。
「アーシャ、1組はどうして全員転移魔法が使えるんだろう?」
「転移属性の魔力を1組の全生徒から感じます。推測ですが、転移魔法使いのコアさんによる干渉があったのではないかと。魔力の譲渡および、専用の訓練などが考えられます」
この世界における魔法のルールとして、まず魔法を使うには魔力が必要だ。それも、その系統に応じた属性の魔力であることが求められる。
炎の魔法を使うなら炎の属性、氷の魔法を使うなら水か氷の属性、雷の魔法を使うなら水、風、雷の属性といった、属性の種類がある。
例えば炎属性しか持たない魔法使いは対極の水魔法が苦手で、威力が最低か使えないかのレベルに落ちる。雷や土、風などに対しては得意とは言えずとも訓練すればある程度は使えるようになるという。
だが、それらの基本の属性とは異なる系統の属性がある。転移属性がまずそれだ。転移魔法を使うには転移属性の魔力が必要になるが、これは先天的に持って生まれ出るもので、そうでない人間は自然と使えるようになるものではない。
1組の生徒が前の種目では、コアに知恵を借りたと言っていた。転移魔法に関してはハイレベルなコアによる干渉があって、なんらかの形で使えるようになったのだろう。
魔力の譲渡。そんな手段があるとすれば、それは学校では教えてくれない類のものだ。現に、アーシャには図書室の書物のすべてを記憶してもらったが、その中に魔力の譲渡に関する記述はなかったのだ。教師であるテクト先生はこのことを知っているのだろうか?
「冒険者だったら、そういうことのひとつやふたつ知っててもおかしくないか。アーシャ、ありがとう」
この間わずかコンマ秒。アーシャと話している間は時間が永く感じられるから良い。私は理由をフィール王女に解説した。
「つまり、転移属性の魔力が無いから、教わったとしても使えないのですわね。とはいえ……このままでは、負けてしまいますわよ?」
それが問題だ。転移魔法が使える1組にはこのままじゃ一瞬で勝負をつけられてしまう。その解決策を持っている人物が、うちのクラスには1人いる。
・
・
・
「勝負は……やってみなければわからないだろう?」
バチィッ、と何かが弾ける音がする。ウネルギの電気の音ではない。これこそ、我が暗黒魔法。魔法はただ受けるものではない。かわす術があれば、防ぐ術もある。それをお見せしよう。
「何ィ!?」
「なぜ転移魔法が発動しない!?」
1組の連中が慌てふためく。そうだろう。ご自慢の転移魔法が発動できなかったのだからな。
「オルト!?」
「テレポート妨害……自分自身が転移できなくなるというデメリットを抱えるが、我を対象とする転移魔法はすべて……不発になる!」
原理は簡単だ。暗黒魔法は黒が示す通り、他の魔法と交わらない。やろうと思えばすべての魔法を遮断できる。
「やるじゃねぇかオルト!見直したぜ!」
「他に使える魔法は?」
「ククク……我が使えるのはこれと影法師のふたつ」
「きょ、局所的だなオイ!」
仕方あるまい。暗黒魔法は今のところ自力で覚えるほかにない。バウム先生は影法師だけ教えてくれたが、暗黒魔法や闇魔法は禁忌だからと教えてくれなかった。
だが、我は思う。そもそも暗黒や闇の力とは何か。闇の炎とは、普通の炎と何が違う。あらゆる文献にその知識が載っていないのは、禁忌だからではなく、イメージが出来ないことからの使用者が居なかっただけではないのか、と。
それならば。暗黒の力、闇の力とはすなわち未知の力である。未知であるからこそ、我の探究心は……抑えられない!
「そのうち使えるようになるのだよ!今だ、ステレ!」
「どっっせぇぇぇぇぇい!!!」
我の掛け声と共に、ステレがお得意の怪力を発揮して、1組の面々はウネルギに引かれて飛ばされていった。我は思う。彼ら小さき者が発揮するこの馬鹿力の方が、暗黒魔法より恐ろしいのではないか、と。
”ちあがーる”という衣装を着てくれたトロには申し訳ないが、この種目はステレの完全勝利だ。
・
・
・
「やったな、みんな!応援組もお疲れ様、はっきりと力を見せつけてやれたな。この後の試合も消化試合じゃなく、フィール王女を一番の高みへと連れて行くつもりでやってくれ!」
「「はい!!」」
8組、またしても1位を取る。次の試合は飛行リレー。マラソンと同じく王都外周を飛ぶ競技だが、スタート地点のあとは地面に足が付いたら失格となる。
そのリレーには、8組からは2人だけの参加となった。空を飛ぶ魔法を教え忘れていたせいで、飛ぶことができる子から選ぶことになったからだ。
エスケは有翼人だからもともと飛べるとして……もう一人は、とても意外な子がその役を買って出たのだった。
■第二十七話 終了




