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第二十六話 唸れ、綱引き大勝負


「バウム先生、トロ達は?」


 次の綱引きに出ようとしていたデルが、ふと8組の女子達がいないことに気づいた。


「あぁ、他の子にはちょっと頼み事をしてあってね。デル、オルト、ラウザ、ステレ。この綱引き、4人とも頑張れよ」


「野郎ばかりか。まぁ力仕事は男の出番だからな」

「オルトはもやしっ子だから頼りにならないだろ」

「ぐぬぬ……」


 クールに決めようとしたオルトに、デルの鋭いツッコミが入る。魔法学校は、何度もいうように魔法使いばかりなのでパワータイプの人間は少ない。ここにいる魔法剣士を目指すデルや、もともと力自慢のリザード族であるラウザが特別だ。


「デルとラウザがいるとはいえ、相手はやっぱり強化魔法や妨害魔法を使ってくるだろう。こっちは強化魔法が使える奴がいないからイーブンってとこかな。それと、この綱引きはただの綱を使っているわけじゃない」

「ただの綱じゃない?」

「あちらをご覧ください」


 私が指差した校庭に置かれた綱のようなものは、普通の綱ではなかった。太陽の光を反射して黒光りするそれは、よく見るとウナギだ。アレはウナギに近い生き物で、ウネルギという。


 アーシャが覚えてくれたこの世界の生物事典にはこうある。それはヘビのようだが水棲生物であり、淡水魚である。電気を体内に溜め込み、文字通り伸び縮みする筋肉を持ち、最長25mにもなることが記録されている。校庭にいるのは8mサイズのものであるから、いったいどんな生態をしているのか。

 その汗は粘性があり、掴もうとすればヌルリと滑ってしまう。それは普通の魚でもそうだが、今年はこのウネルギを競技の綱代わりに使うのだという。


 動物虐待だ!という声があがるかもしれないが、ウネルギは人間の手によって引き伸ばされて身体を伸ばした個体が繁殖活動においても有利なため、自ら人のいるところにやって来る習性がある。そのうえ陸地でも呼吸ができる。実にエネルギッシュ、いや、ウネルギッシュと言うべきか。ウネルギのやつがこちらにドヤ顔を向けてきた気がした。あいつ、笑ってやがる。


「ウネルギじゃねーか!」

「先生、冗談だろう?あれで綱引きなどと、正気の沙汰じゃないぞ!」

「残念ながら冗談じゃありません。ほら、いったいった」


 ウネルギ綱引きは綱がただの綱じゃなければ、競技もただの綱引きではない。そのヌメヌメするウネルギを引っ張り合い、ウネルギの体の真ん中に巻いたリボンが自分達の側にある組が勝利となる。

 だが、ウネルギは伸びるので、この勝負で勝つためにはウネルギだけでなく、相手チームを全員手繰り寄せる工夫も必要だ。そのパワーが8組にはあると言いたいところなのだが……。


「単純に」

「見た目が」

「なんかイヤ」


 と、デルとオルト、ラウザは言う。まぁ確かに何十メートルも伸びる生き物は見た目はよろしくない。そんなのがウネウネと地面を這い動いているのだ。爬虫類の仲間であるラウザでさえその巨躯には引くのだろう。

 あと黒光りしてヌルヌルしてるのがイヤなのは、それはわからないでもない。私は幼少から魚を掴み取りしたりしているので平気だが、日本人以外はそんなに得意ではないのではないか?見たところ、他の組も「うへぇ」というような顔をしていた。


「何を情けないことを言ってますの、あなた達」


 フィール王女が王族の家族会議から戻ってきて、呆れたような顔で言う。


「大の男が揃って情けない、ステレを御覧なさい?まったく動じていませんのよ?」

「うん、ウネルギはうまいからな」


 褒められたステレは胸を張る。ゴブリン達にとってはウネルギはよく食べるものだそうだ。


「王女様はこの競技出ないからそんなこと言えるんですよ〜。ウネルギ触ったことあります?めっちゃヌルヌルしてるんですよ?」

「もちろん存じてますわ。だから、ハイこれ」


 抗議の声をあげるデルに、フィール王女が小瓶を渡す。


「……なんスか、これ」

「ウネルギの油には保湿の成分がありますの。この瓶いっぱい分取っておいてもらえます?」

「「王女様!?」」


 フィール王女はマイペースだった。デル達はずっこけた。もちろん私もだ。小瓶はデルが受け取ったが、試合中に採取するんじゃないぞ。


「それはそうと……他の女子達はどうしましたの?姿が見えませんけれど」

「あぁ、そのうち来るよ。とりあえず座って応援してて」


 首をかしげる王女。本当は彼女の分も用意はしておいたが、親御さんと話し込んでいて残念ながら時間がなかった。そういうわけで競技が始まる。


 この第6種目、綱引きは一対一のトーナメント形式で行われる。3回勝てば優勝だ。8組の対戦カードは、第2回戦で対戦相手は6組。ここまで下位の組は特別目立っていなかったが、ちゃんと生徒がいれば担任もいる。

 もはや他の組は逆転の可能性がほとんど無いが、それでも自分達より下の組に一矢報いようとその目にはまだ闘志が宿っている。


「一生このまま、負けたままでいられるか!」

「お前達に勝つ!」


 これだけ元気なら、まだボコボコにしても良さそうだ。

 その怒りの眼差しを受けつつも、私は第1回戦の様子を観戦することにした。1回戦は3組対4組。そういえば3組はパティ先生が担任だったか。あの後フィール王女と一緒に謝りに来たつもりが、先に和解していたことを知ったときの彼女の顔は、そんな顔が出来たのかというくらい柔らかなものだった。

 そんな魔法バーサーカーであるパティ先生の生徒達は、先生に似ず冷静なものだった。彼女の暴走を止めるために特化したのだろう。これを反面教師という。


 そんな彼らの戦いは静かで、しかし流れるように決まった。ウネルギの表面を潤滑性のものから粘着性のあるものに変換して、そのまま力勝ちした。

 そこからまた潤滑性に戻すこともできるらしい。例えるなら、ローションと接着剤の性質を自由自在に変えられる魔法……こんな場面以外で使い道のなさそうな魔法が出たものだ。


「それじゃ、先に1勝貰います。次の試合……8組と当たりますから、そこではうちが勝ちますからね」


 パティ先生がこちらに向かってそう言う。3組も中々の好成績だ。1組、2組とは実力が拮抗している。確かにここまでは8組の不意打ちの形での勝利が多いから、こういう場面で勝てるかどうかはわからない。だが、私は私の生徒を信じる。


「さて、それじゃあお前達も頑張ってこい。なんか策は思いついたか?」

「ん〜……なんにも」

「性質変化の魔法か……フッ、我は知らんな」

「まぁ力でなんとか」


 そんなことだろうと思った。残念ながら性質変化については教えていないし、水魔法が得意な男子もいない。いや、いないことはないのだが……。


 そういうわけで始まる第2回戦。外野は6組応援ムードに包まれている。


「いけー!」

「やれー!!」

「ぶちのめせー!!!」


 ひどい言われようだが、他の組としても8組には負けてもらわないと困るのだろう。確かにここまで生徒の力に任せてきたが、ここは本当に無策なのだ。


「強化魔法も使えない連中に、負けるわけがないんだ!」

「俺達は強い!俺達は強い!」

「8組なんかに負けるかよ!」


「おう、やれるもんならやってみろォ!」

「我らとの力の差を見せてやろう!」

「やらいでかー!」


 8組と6組の生徒達の間で火花が散る。ウネルギはその熱気にいい汗をかき始めた。余計に滑るようになったようだが、大丈夫だろうか?

 そして、戦いの火蓋が幕を切った。


「フリーズ!」


 6組はウネルギの持つところを凍らせる作戦に出た。ウネルギの下半身にあたる部分がカチカチに凍る。だが……


「う、うぉぉぉっ!滑る!!」

「滑る液体を凍らせても……氷も滑るか!」

「今からでも3組みたいに粘着性に……ダメだ!固まってて性質を変えられねぇ!」


 と、散々な有様だった。対する8組もツルツルの表面に手が滑っているようだ。だが、ラウザは滑らずに引っ張れている。トカゲと似た種族だからか、彼らの手にはファンデルワールス力が働いている、とアーシャは分析していた。そうか、あれはそういうのか。だがここで予想外のことが起きる。


「……!?リボンの位置が……」

「動いていない……!?」


 ウネルギの体は伸びる。引っ張れば引っ張るほど。そのおかげか、ほぼラウザによってうにょ〜んと引き伸ばされたウネルギの胴体は伸びに伸びて、代わりにウネルギ全体を動かすに至っていなかった。


「ま、まずい!引っ張っても引っ張っても……」

「全然こっち側に……来ない〜〜〜!!」

「「すべる〜〜〜〜っ!!!」」


 6組はウネルギを凍らせたために身体は伸びないが、そっちも滑って引っ張るどころではなかった。それどころか持ち手が冷たくなってロクに持てなくなっていた。なんとまぁ情けない構図である。観客からは笑いが上がる。ウネルギも笑っていた。下半身が凍っているが、寒くないのだろうか。


「しょうがない……お〜い、みんな出番だぞー!」


 仕方がないので、彼らにやる気を入れることにした。そう、今まで隠していた応援団の出番である。私の掛け声とともに、チアガール衣装の4人がやってきた。アーシャがデザインを描き、私が発注したものだ。流石はアーシャ、生徒達の体格にぴったりなサイズまで出せるとは驚いた。

 普段はシスターをしているトロに、有翼人としてワイルドめな服装だったエスケのギャップ、そして普通にチアガールが似合うサランにイノーラが、その手にポンポンを持ち、練習もしてないのにそれを振り始める。


「み、みなさーん、がんばってー!」

「ラウザー!負けたら承知しないわよー!」

「なんであたしまでこんな格好……」

「似合ってますよ、サラン姉さん。ほらほら、一緒にフレ、フレ!」


「な……なんなんですの彼女達は……」


 フィール王女は、いや、会場がポカンとした。応援団などという文化はこの世界には無いし、チアガールという概念すら無いだろう。大衆と8組の視線は彼女達に釘付けだ。


「私たち、8組応援団でーす!」

「さ、サランにイノーラも……いないと思ったらそんなことしてたのか?」

「赤お兄ちゃん、遊んでないでさっさと決めなさーい!」

「それに、もう一人いるんですよ?ほら、モノラ兄さんも♪」


 最後に遅れてやってきた、青ゴブリンのモノラ。彼は性別的にはオスだが、やや細身でポニーテールが似合う。その彼までもがチアガール衣装を着ていた。やはり、私の目に狂いは無かった。


「お……お兄ちゃん達、がんばれー……」


 顔を紅く染めて、ポンポンを不慣れそうに振ってそう言った。チアガールズにも劣らず破壊力は抜群だ。と思った次の瞬間。


「どぉぉぉぉぉりゃっっっっさああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 と、ステレが唸りをあげる。一本釣りのようにウネルギが物凄い勢いで引っ張り上げられ、6組全員ごと吹き飛ぶように釣り上げた。



■第二十六話 終了

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