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第二十五話 魔法の価値


 周囲の視線が私に集まる。しまった。ナイショにしておけばよかった。


「はぁ〜〜〜?あんた何言ってんだ?うちの卒業生から直に教えてもらった超級魔法だっつってんだろうが」

「オリジナルを主張するなんて、何か証拠あるんですかね?」


 これはやらかしのバウム。困ったことに反論の余地が無い。別に自分がオリジナルを主張したかったわけではないが、明らかに空気が読めていなかった。


「あ、いやね、別に不服ってわけじゃ」

「そうよそうよ、あたしが作って在学生に伝授した魔法にケチつけるつも……り……」


 そして出てくる張本人。転移術師のコアだった。


「コア先輩、何か言ってやってくださいよ!」

「……やぁ。”元”超級魔法使いさん?おひさ」

「……」

「せ、先輩〜〜っ!?」


 顔を真っ赤にしたのち、何事も無かったかのように転移魔法で逃げやがった。あいつ、ここの卒業生だったのか。たぶん1組が頼った情報元はコアで、そのコアが逃げてしまったので……会場はまたしても気まずい静寂に包まれた。


「えー、まぁそういうわけで、続けてください」


 居た堪れなくなって、私は進行を促す。


「……コホン。誰がオリジナルかはさておき……それをこうして形に出来たこと、賞賛に値する。これはワシは高得点を付けたいのぅ」

「ですね、何より範囲内で対象を決められるのも素晴らしい。これは使い勝手が良さそうです」

「そうですねぇ……ところで、既存のテレポートの杖に比べたら、これにはいくらの値がつくのですか?」


 女王様が1組の生徒に尋ねた。尋ねられた彼は三人目の賢者席で、名前をロキシーというらしい。長身で金髪の優男で、見た目から貴族ではなさそうだが、いい生活をしていそうな()()だった。


「はい、この杖は我々のような移動魔法に長ける者でなければ作れませんし、大量生産するには人手が足りず、とても貴重なものになりますから……100メガトークンほど貰えなくては」


 トークン。先程うちの組が宣伝しているときにも聞こえたが、この世界における共通通貨はトークンと呼ばれる。レグルス王国での1トークンは日本円の1円と大差がない銀貨だ。これが10000トークンになるとメガトークンという金貨になる。つまり、百万円相当ということだ。

 そういえばトークンって言葉はAIを使う上で見た言葉だ。どんなものだったか、後でアーシャに聞いてみようか。


「ひゃ、100メガトークン!」

「魔法の効果を考えれば妥当……いえ、それで超級魔法が使えるのですから、まだ安い方ではありますね。私も点を付けておきましょう」


 王家からすれば安い買い物かもしれないが、冒険者や一般人にとっては高すぎる買い物だ。そもそもこの学校で私の時給は500トークン。2000時間休まず、一銭も使わずにやっと貯められる金額だ。もちろん、学生が買えるような額じゃない。


「なるほどなるほど……では、最後に8組の魔道具に移りましょうか。空気清浄石……だったかしら」


 頷いた女王様は、最後に8組の魔道具の評価に移る。


「効果は説明の通りじゃが、なかなかユニークな代物じゃな」

「姉上がこんな発想を持っていたなんて驚きです。人気のほどは……見ての通りですね」


 空気清浄石は飛ぶような売れ行きを示している。その場で作られた完成品はもちろん、予約すればさらに安く手に入るということで、王家による選考中も予約は受け付けられていた。


「空気中の毒素や花粉、砂埃から悪臭まで吸収するとは素晴らしい。浄化の魔道具はいくつかあれど、こういう使い方が出来るものはワシは初めて見たのぅ」

「ダンジョンにはもちろん、家庭でも使えて、使った後のことまで考えているのは好印象ですね」

「そのうえ、魔道具としてはたった5000トークンという破格の値段……杖が普通5メガトークンほどするのを考えれば、あまりに安すぎていくつでも買えてしまいます。姉上、本当にこんな値段でいいんですか?」


 フェール王子がフィール王女に直接尋ねた。


「作成過程は見ていたでしょう?土、水、風の魔法が使える人間がいれば作るのは簡単ですわ」


 フィール王女は得意げに言う。周りは「簡単って何だ」って顔をしているが。


「それに……この空気清浄石は、多くの人の手に渡ってもらいたいと思っていますの。私が作ったものが、皆さんの役に立てばこれ幸いですの」

「姉上……変わりましたね。傍若無人に振る舞っていた先月までとは大違いだ」

「相変わらず一言多いのではなくって?」


 確かにフィール王女は変わった。本当の意味で魔法が使えるようになって、そして大衆に向けられる彼女の笑顔には、かつての邪気はもう無い。


「テレポートの杖の強力さも捨て難いけど、困ったな。私はこれを減点できるところは見当たらないです」

「うむ、杖の方は魔法自体は凄いのじゃが……」

「普段遣いなら、通常の転移魔法と脱出魔法で十分ですし……」


「な……我々の努力を否定されるのですか!」


 ロキシーが食って掛かる。確かにあの魔法は見えない相手も対象に取れるという点で強力だ。だが、それは私が「範囲内の敵対的な相手」を指定したからであり、その対象を決めるのは魔法側(星の記憶)に任せて実現したことである。あの杖はいったい、対象をどうやって指定しているのだろう?


「いいえ、あなた達の杖は傑作であることは認めます。ただ、その杖を使いどころが見出せない、ということなのです」


 その通り。あれは屋内にも人質が取られていて、盗賊が何人いるか?どこにいるか?そういったところが不明確だからこそ、そうした魔法を使わざるを得なかっただけで平時は使う必要がない魔法なのだ。そんな魔法のために100万という大金を出せるだろうか。


「とはいえ、有事の備えにはあって困るものではないですね。以前、エーカでその魔法が役に立ったという話は私も聞いています。この杖、国が買いましょう。後ほど同じ物を納品するように」


 女王様はそういって、1組の杖を買い取ることにしたそうだ。100メガトークンをポンと出せるのは流石王族。ロキシーもこれには大人しくなったようだ。


「さて……この魔法クラフトでの全ての作品の評価が付け終わったところで、順位の発表といこうかの」


 順位が付けられていく。やはりというか、順位はほとんど組の昇順だ。1組に近いほど優秀な人間がいるのだから、出来レースなのは当たり前。だが、今年それを破ったのが……。


「1位は……8組!空気清浄石じゃ!」


 どっ、と会場が沸く。空気清浄石の予約受付の列はいまだに多くの人が並んでおり、その中には他の組の生徒もいた。それでいいのか。

 だが、この空気清浄石の汎用性は馬鹿にならない。生活の中で、ダンジョンの中でと場所を選ばず、毒素や悪臭を除去できるという優れもの。元の世界でもこれがあれば……。いや、言うまい。


「娘贔屓をしたわけではないが、手軽さ、安さ、使いやすさなど、ひとつ持っておきたいというのはわからんでもないのぉ!」

「姉上を嫁に出したかったのですが、残念ながら最優秀賞です。いつの間に純度の高いクリスタルを作れるようになっていたんですか?」

「他の作品に比べて派手さには劣っても、これには叡智の結晶を感じます。よく考えましたね、フィール」


「お父様、お母様……フェール、城に帰ったら覚えておきなさいな」


 いい話、でいいのだろうか。会場からは拍手が上がる。とにもかくにも、フィール王女の活躍を王国中に見せるという目的は果たした。ここまで1位続き、もはや手を抜いても他の組の逆転は怪しいが、うちの組のやる気はさらに上がっている。


「トロ、モノラ、サランもよくやったな。一緒に作り方、考えたんだろう?水のドリルも上手いもんだ」


 私は頑張った生徒達の傑作を褒めた。水圧で物体を削るなんてどこで覚えたんだろう。


「はい、肝心の毒素や悪臭を吸収するところをどうしようか悩んでいたんですが、サランちゃんが頑張ってくれました」

「使うときに空気が凄い勢いで吸い込まれるんだ。これがなかったら、ただの内側の空っぽなクリスタルにしかならなかったよ。一番頑張ったのはサランなんだよ」

「ちょ、ちょっと、トロにモノラお兄ちゃん!……別に、大したことしてないわよ。ちょっと内側に、小さな竜巻を作って風の通りをよくしただけ、誰にだってできるんだから。はい、先生にも1個あげる」


 サランは照れ臭そうにそう言い、私に空気清浄石をくれた。それを覗き込んでみると、確かに小さな渦が物凄い勢いで回転しているのがわかった。


(これ、本当に誰にでもできるのか……?)


 小さいながらも、ギュルギュルという擬音がしてきそうだ。私は教え子達の成長に驚きつつも、周りに合わせて次の種目の準備をしなければならなかった。

 ちょうどその頃、イノーラが大きな袋を抱えて戻ってきた。私が頼んでおいたものだ。


「バウム先生、持ってきましたよ〜」

「でかした!よ〜し、次の綱引きは野郎どもが頑張る番だ。そして、トロ達にもちょっとだけ頑張ってもらうよ」


 私はその袋の中身を取り出すと、トロ、サラン、イノーラ、エスケ、モノラへと手渡していく。


「……本当にこれ着るの?」

「先生、これは、その……」


 トロとサランは顔を赤くしている。何を恥じる必要があるだろう。こういう競技に応援団は付き物だというのに。

フィール王女を除く女子達は、そそくさと更衣室へと向かっていった。


■第二十五話 終了

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