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第二十四話 空気って読める?


「バウム様。怪しい人物を数名確認しました。黒い魔力を帯び、潜むような位置で構えているようです」


 アーシャは私にそう教えてくれた。アーシャは私の後頭部の位置から、360度を見渡すことができ、そして人や物の魔力を検知する能力がある。私は不審な人物がいないか、アーシャに見てもらっていた。


「さっきの7組の件と関係ありそうかな?」

「あると断言は出来ません。ですが衛兵を避けるような行動をしており、非常に不自然です」


 確かに怪しい。私はさらに怪しい動きが無いか、逐一アーシャに確認してもらうように依頼した。何か行動をしようものなら、すぐに動けるようにしておこうと。

 午後の部。何も起こらなければいいのだが……。



 第5種目、魔法クラフト。

 一時間という制限時間の中で素材を集め、魔道具を製作する競技。魔道具の実用性やデザイン、製品化に伴うコストや労力その他を外部の人間に品評してもらう。今回の審査員は……


「どうしてあなた達なんですの!?」

「フィール、今回はお前がこの種目をやるのだな」

「母はあなたが魔法が使えるようになって嬉しいですよ」

「姉上、頑張ってくださいね〜」


「はい、今回の審査員にはレグルス王族ご一家を招いておりま〜す!フィール王女がこの種目に参加するようになっていたとはなんという偶然!それでは、ご家族の皆様からひとことずついただきたいと思います」


 トコル先生がノリノリで司会を務めている。現国王ファイル陛下、その妻の女王フォルダ、そしてフィール王女の弟、第一王子のフェール殿下がここに集まったということだった。国王はだいたい50歳くらいだろうか。随分と深いヒゲを蓄えていらっしゃる。


「ではまずワシから……。うぉっほん!魔法学校の生徒諸君、ワシがレグルス国王、ファイル・グラ・レグルスである!フィールが王族だからといって他の者達が加減する必要は無いぞよ。この種目で1位を取った者には、そこのバカ娘と結婚する権利をやろうかのう、ホッホッホッ!」


 笑うべきかどうかすっご〜く困るコメントありがとうございました。フィール王女はキレかけていて、ここで笑おうものなら彼女に怒られてしまうだろう。なおトコル先生は大爆笑していた。


「では続いてお妃様」

「はぁ……。国王陛下は、娘の組が1位になっているのがとても嬉しいそうです。フィールは先月まで私も心配なほどにワガママ娘でしたが、最近は他人のように成長してしまって……これもひとえに、魔法学校での教育の賜物なのでしょう。先生方、そして娘と仲良くしてくださっているみなさん、ありがとうございます。これからも仲良くしてやってくださいね。そして、陛下の言葉は気にせず、各々頑張ってください」


 フォルダ女王陛下はそれに比べてなんと大人なことか。フィール王女は父親の血を濃く継いだらしいが、彼も若い頃はこんな感じだったんだろうか。


「では、最後に第一王子殿下、お願いします」

「そういう呼ばれ方、好きじゃないんだけどな……。第一王子のフェールです。この度は若輩者ながら魔法学校の魔法クラフト審査員にご招致いただき有難うございます。姉上がちゃんと魔法を使えるようになり、王家の自覚がやっと出てきたようで私も嬉しいです。そういう姉上ですから、どなたか彼女より良い魔道具を作っていただいて、もらってやってください。私からは以上です」


 よく出来た弟だ。暴れるフィール王女はトロとサランに抑えられていた。


「それでは制限時間一時間!よ〜い、スタートぉ!」



「気を取り直して、今回作るもののこと覚えてる?」

「はい、空気清浄石ですね!」


 空気清浄石。その名の通り周囲の空気を浄化する魔法具。あらゆる煙や、悪臭、負の気などを吸い込むもの。これと同じような魔法具が存在する話は聞いたことがない。


 それは私がゴブリン娘のイノーラと土魔法に対するイメージ練習をしていたときのこと。

 イノーラは「腐った土」に対するイメージをよくしていて、土を腐らせたり、反対に綺麗にしたりとを繰り返していた。子供の遊びかと思っていたけれども、実際にやるのは至難の業。


 何かを腐らせるというのは簡単に聞こえる。食べ物が腐るそれと理屈は同じ。ただし、それを意図的に引き起こそうとしたら、そのために必要なものは何か。そして、一度腐って溶けたものをもとに戻すのがいかに大変なことか。

 その際に発生する異臭悪臭をどうにかできないか、と思い立ったのが吉日。これを作りたい、という発想に至る。


「それでは、実際に作ってみましょう。まず私が媒体となる石を魔法で用意します。そのへんの土から不純物を取り除いて作ったクリスタルがこちら」

「そのクリスタルの内側をちょっとずつ削ります、この水のドリルでガリガリと」

「そしてクリスタルの内側に空気中の不浄な物質を吸収する魔法の液体を注入します」

「そして魔道具の要領で、魔法を解放できるようにして、出来上がり!ね、簡単でしょ!」


(((簡単なワケがあるか〜〜〜!)))


 開始数分で魔道具をひとつ作ってしまった8組に対して、周囲の心の声がひとつにまとまった気がしたけれど、私は気にしない。


「時間があまり余っていますから、ご実演。ここに目で見えるレベルの毒霧を出します。ポイズンクラウド!」


 私が地中に眠れる有毒の霧を呼び起こし。


「この空気清浄石の魔力を解放します。解放リリース!」


 トロがクリスタルを天高く掲げれば、毒の霧がたちまちクリスタルの中へと吸い込まれて霧が晴れていく。


「使ったあとのクリスタルは、地面に埋めておけばそのうち循環されるから安心だねっ」


 モノラによる解説が挟まれる。この魔法で作ったクリスタルは柔らかいので、埋めておけば数日のうちに大地に還元されて、中身もろとも作り変わる。


「毒に花粉に異臭・悪臭・加齢臭、一室一個欠かせないスグレモノ……ってワケ!でもお高いんでしょう?」


 サランによるセールストーク……この子こんなノリだったかしら。でも、ここは乗る雰囲気と見ましたわ。


「そうですわねぇ。私が作ったというブランド価値を付けても10000トークンにしたいところですが、このように量産は簡単ですから、5000トークンにします!」


「「もうひとこえ〜!」」


 トロとサランが息を合わせる。私はそこで周囲に向けて声を張り上げた。


「ですわよね、ですわよね!そういうと思って〜、今なら予約注文していただいた方には、2500トークンから!予約先はドヴェー魔法学校まで!本日限定ですわ!」


「「「おぉ〜っ!」」」


 自分でもノっておいてなんですが、わたくし何をやっているのかしら……。



 他の組もなんとか魔道具を作り終えた。普通は杖一本を作るのにはもっと時間がかかるところ、1時間という制限時間内では見た目が粗末になってしまうのは仕方ないだろう。現に1組でさえ、不格好な杖を一本作るのがやっとだ。


 一応他の組が何を作ったのかも見ておこう。7組から順に、レンガの壁を作る即席携帯ウォール、魔法を倍の威力で返す魔反射鏡、燃料不要の魔法のランプ、賢者の石のレプリカ、一瓶飲めば24時間分の睡眠時間を得られる魔法薬、どんな扉も開ける魔法の鍵、テレポートの杖……。

 思ったより便利そうなアイテムがズラリと並んでいる。どれも一回限りの使い捨てなのがなんとも勿体ないくらいの出来だ。


 対する8組はズラリと空気清浄石を並べて、商売でも始めるつもりだろうか。事実サランがあまりにも早く作り終えてしまったせいか、観客相手に注文票をいっぱい取っていた。空気清浄石はダンジョンにおける毒のトラップ対策だけでなく、日常の悪臭対策にも使えて、しかも安いので大人気のようだ。冒険者も主婦も、成人男性にも需要があるようだ。私もあとで一個買っておこうかな……。


「それでは、審査結果を発表する!」


 そんなことを思っていたら、王族一家の審査結果が出たようだ。


「今年の魔法クラフト競技もみな面白い物を作ってくれたと思う!ワシもレグルスの国王として、娘を贔屓せずに採点したつもりじゃ」

「けれども、見ての通りフィールの作品も面白い逸品。採点はとても大変なものでした」

「僕も姉上を嫁入りさせるために厳しく評価したつもりです」

「フェーールッ!!」


 仲のいい家族で何よりだ。私もかつては、あんなふうな暮らしをしていたな……。

 さて、結果が次々と出ていく。面白い魔道具が出揃っているとはいえ、中にはその辺の魔法店で売ってるような魔道具もある。壁やランプはその代表で、そういったものはあまり高得点が付かない。


 鍵と薬は傑作ではあるが、用途を考えると悪用に使われるイメージが付いてマイナス。薬も安全性の担保が出来ず、商品としての発売には認可が必要になるそうで実用化は不可とされてしまった。この王家、意外とシビアな評価をする。

 賢者の石のレプリカは一度は皆の目を引いたが、やはり見た目だけで実用性はゼロとのこと。それに私の知る星の記憶とは似ても似つかぬ代物だ。


 そして、1組が作ったテレポートの杖だが、そういう杖は既製品で、ある程度市販されているという。なぜ今さらそんなものを作ったのかというと……。


「ここの卒業生の超級魔法使いが発案した、広範囲指定集団転移魔法が使える杖だ!」


 ということらしい。どこかで聞いたことのある名だ。


「範囲を指定でき、複数人を、しかも目標が見えなくても転移させられる転移魔法テレポートとな!こんな魔法であれば、超級魔法使いは確かに間違いないのぉ!」


 それはすごい。そうだ、思い出した。


「あぁ、あれか。私が最初に名前を付けた魔法」

「バウム様、今それを言うのは」


 アーシャが止めた時には時すでに遅し。1組達の……いや、周囲の視線が私に注目していた。



■第二十四話 終了

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