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第二十三話 昼休み


 ばてばて、ちーん。先の試合で全力を出したデルは地面にその身を投げ出していた。お前はよくやったよ、デル。


 王都一周マラソンは見事にデルが逆転1位を果たした。7組のセーバーはゴールとともに薬の効果が切れたのか、デルと同じく……いや、それ以上に酷かったらしく、救護室に運び込まれた。

 あの豹変の具合は普通の強化薬ではあり得ない。なにか非合法の薬を使用したのではないかと先生達の中でも騒ぎになっていた。そのため、怪しい人物がいないかどうか街では警戒態勢が敷かれたらしい。


 それはさておき、これにて午前の部は終了である。ここまで全競技でうちの8組が1位になっていることは大変素晴らしいことだ。各々がこれまでの成果を出せているといっても過言ではないだろう。


「みんな、ここまで全員1位だ!すごいぞ!このままの勢いで午後も楽しもう!」

「「「はい!」」」


 生徒達のやる気は十分だ。点差なんて関係ない。魔法を使う楽しさを覚えながら、全力を出し切らせよう。そのためにも、昼休みはみんなにしっかり食べてもらう。

 午後一番は魔法クラフト。これは競技というよりは工作系の種目で、制限時間以内に魔道具を作成。その効果と実用性などから評価点が入るそうで、観客の中にはこの種目だけを見に来る冒険者や商人もいるらしい。

 生徒の作ったもので商売とは、この学校も賢しいものだ。



〜1組サイド〜


「て、テクト先生……、今年の8組はどうなってるんですか!」

「あんなのインチキだ!」

「悪夢だ……これは何かの間違いだ……」


 私が受け持つ1組の生徒。魔法学校でも優秀な魔法使いが集まる成績優秀な生徒が集まる、生え抜きのクラス。この八魔大祭でも現在2位と健闘中。……1位に圧倒的な差をつけられていることに目を瞑れば。


「おやめなさい、彼らは正々堂々、ルールに則り戦っています。その上で、人数の差、成績の差、年季の差がありながら彼らに1組が負けているのは何故だと思いますか?」


 生徒達に沈黙が訪れる。そこに一人の生徒が手を挙げた。賢者首席のグラム君だ。


「魔法の使い方の差、でしょうか」

「正解です。彼らの魔法を見て分かったと思いますが、8組は魔法の爆発力と応用力が他と桁違いです。これまでの常識に当てはまらないと言ってもいい」

「常識……」


 第1種目では、討伐に数十分は要するであろうゴーレムを一撃のもとに粉砕し、第2種目では個々の魔法ひとつで他の組を出し抜いた。第3種目は人間と亜人の力の差を見せつけ、そして第4種目の大爆走。

 ひとりひとりの個性が突出していながらも、チームとしての和を乱さない。それが今年の8組。これに対抗するには、今の1組はそのスタートラインに並ぶのも大変でしょう。


「私の力不足か……」


 空を仰いでつぶやく私に、ひとりの男性が近づいてきた。



〜2組サイド〜


「いや〜、8組、ちょっと勝てないねぇ」

「トコル先せげほっ、諦めたらそこでぇほっ、おしまあ゛ぁっ……」

「リカバー、喋らなくていいよ。今日はもう動けないだろう君」


 バウム先生の後ろに大精霊……の、ようなものがくっついていたから、もしかしたらと思ったんだけどこれはやりすぎたな。あの遠足が、きっとみんなに相当いい経験になったんだろう。


 テクト先生は座学中心、パティ先生は実技中心、そして僕はイメージ中心の教育方針なのだけど、バウム先生の教育方針は僕達のそれとはまったく異なる。

 生徒達に基本丸投げで、みんなバラバラ、自由にしていると思っていたんだけど……そうじゃなかった。


 魔法学校に通う魔法使い見習い達は、他人より先に上の組を目指そうとするから組の中でも成長に個人差がある。うちのクラスもそう。この魔法学校の中では常に他人は競争相手、切磋琢磨して上を目指してほしい、それは魔法学校の方針。僕がここで先生になったときには、少なくともそうだった。


 だけど、あの8組はそうじゃない。見下してきた他の組の鼻を明かそうとか、上を目指そうとか、そういう気持ちで臨んでいない。

 ここまでの試合を見てきてわかった。彼らは競争がしたいんじゃない。いや、競争にすらなっていない。こんなことができるようになった、ってバウム先生に見せているだけだ。


「そんな相手には勝てないだろうけど……ただ負けるのは悔しいよねぇ。みんな、なんとか一矢報いてくれよ?」



〜3組サイド〜


「みんな!パティ先生を止めろォ!!」

「パティ先生!まだ!まだ祭り中ですから!」

「8組に勝負しに行こうとしないで〜〜〜!」


 ……3組全員で、興奮状態になったパティ先生を引き留めるので精いっぱいだった。結局全員、昼は休めなかったそうな。



「魔法クラフトには私も参加するんでしたわよね」


 フィール王女が確認する。この種目に出てもらうのは、フィール、トロ、モノラ、サランの4人だ。その次の種目が大綱引き。野郎どもにはそっちに出てもらうので、手先の器用な子達を選んだつもりだ。ちなみにモノラは男だ。


 ところで、ゴブリン四兄妹は成長するとともに髪が生えて、ゴブリンの耳が生えている以外は人間との違いは少なくなってきた。この世界のゴブリンはこういう成長をするのだろうか?モノラは青髪で、ポニーテールがよく似合う。サランは金髪のツインテールが気に入ったようだ。


「あぁ、作るものはもう考えたかな?」

「はい、私達で作れそうな、ちょっと面白いアイデアがあるんですのよ」

「僕達の属性を生かした魔法具、出来たら先生にもあげるね」

「感謝しなさいよね!」


 どこでツンデレ属性を覚えたんだろう?

 それはいいとして、彼女達にはもう考えがあるらしい。私が助言することはもう無いだろう。次の種目が始まるのが待ち遠しい。8組の活躍をもっと見ていたい。それはいつまで叶うのだろうか、そんなふうに思ってしまっていた。



「今年の八魔大祭はどうなっているのかね、テクト先生」

「は……」

「8組が良い成果を出していて、代わりに他の組はまるで駄目なようだが」

「返す言葉もございません」


 私の前の、腹の出た人物は、窓を見て大きなため息をつきながら私に問いかけてくる。


「1組がこんなことでは、魔法学校の信用に関わるのではないかね?」

「そうかもしれません。しかし、彼が8組をまとめ上げたのは事実、とくに問題児だった王女を更生させたのは……」

「そんな事は聞いていないのだよ、テクト先生」


 窓を見ていた彼が踵を返して続ける。


「これ以上1組を、いや、この魔法学校を恥に晒すな。底辺(8組)は潰せ。どんな手を使っても構わん」

「しかし……8組にはフィール王女がいますよ」

「そこをどうにかするのが君の仕事だろう」


 彼は信じられないことを言いだした。いや、私は彼がこんなことを言う人間であることはとっくに知っていたのに、その上で従っているのだ。


「事故を装えばいい。その為の工作員も用意してある。午後の部では8組を潰せ。いいな?」

「……わかりました」


 私は頭を下げつつも、内心腹立たしかった。8組に後れを取っているのは事実だが、第三者がこんな干渉をしてくるとは。

 確かに8組は不出来な者の流刑地ではあったが、それはここたった十数年での出来事。本当は組の格差など、無い。この八魔大祭は八人の魔法使いによる魔法勝負が、やがて組別の対抗戦へと形を変えたもの。魔法学校が8組に分かれているのもそれにあやかってのことであり、上位下位などという出来レースではなかったのだ。


 私が教職についてから20年。あのころの魔法学校を知る人間には、この格差はどう見えているだろうか。1組という高みを目指して努力してきた生徒も少なくない。切磋琢磨、強き者が勝ち弱き者は負ける。それが、今の時代なのだ。


 だが、この階級の格差を利用しようとする者達がいる。この組別の格差が彼らのために生まれたことを私は知っている。


 それでも、私は1組を導かねばならない。


 私は1人、その場を後にした。


■第二十三話 終了

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