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第十九話 正々堂々


「は……8組、記録……18秒っっ!!」


 会場が沈黙する。1組はこれから攻撃を仕掛けるところだったのに、8組がたった一撃で巨獣を討伐してしまった。その間、わずか一撃。石は粉々に砕けて、飛び散らずその場に崩れ落ちる。


「……は?」


 1組のリーダーがやっと正気に戻ったとき、彼はもう1体の巨獣に殴り飛ばされ、校舎の壁に叩きつけられていた。


「ぐ……グラムっ!!」


 生徒の誰かが叫んだ。そこでやっと全員が正気に戻る。ステレとデル、そしてフィールはそんなことは気にせず、こちらに戻ってくる。私は彼らとハイタッチをした。

 その後も勝負は続いたが、リーダーを欠いた1組の記録は12分ジャストと、2組に届かない結果になった。


「っし!」

「完璧でしたわ。後の者も続くように」

「任せてください!」


 うちの組の士気は高い。最高のスタートだ。最高記録が出たとか、他の組、客席に一目置かせるとかはどうでもいい。魔法を全力で楽しめ。それが強さに繋がるはずだ。



〜客席サイド〜


「ど……どういうことっスか、8組は雑魚の集まりなんじゃ」

「だから言ったろ、嫌な予感がするって。あのバウムとかいう教師が何を吹き込んだのか知らんが──」


 観客も生徒もいまだにザワついて止まない。無理もない。これまで見る価値もないと蔑んでいた8組。あの一撃で分かる。


「今年の八魔大祭、荒れるな」



 その後、会場はざわつき続けながらも競技は進行した。

 第2種目の50m魔法障害物競争は全8組から4人ずつが出場する。8人が並走し、レーン上の障害物を攻略していくレースだ。順位に応じて加点される形式で、これにはトロ、オルト、サラン、イノーラが出場する。


「なにあれ!」


 その障害物はただの障害物ではない。燃え盛る火の柱やスライムの池、向かい風に、飛び出す壁。愉快な障害物がそろい踏みだ。仕掛けについては、あらかじめそういう召喚魔法が用意されているらしい。


「レーンの線を横に出たら、即時失格!障害物を横に回避は出来ないということだ」

「へ〜……なんか楽しそう!」



「楽しそう、とは言ってくれますが」


 第一走者は私、トロ・マクロがお送りします。

 シスターである私は運動はあまり得意ではないのですが、50mくらいなら、と私は思っていました。こうなるまでは……。


「8組を潰せーーーッ!!」


 なんと隣のレーンの7組や、そのさらに隣の6組から妨害を受けていました。魔法が私に向けて飛んできます。おそらく他の組にも狙われていることでしょう。第1種目で得点にとんでもない差がついてしまったのは分かりますが、それで妨害を仕掛けるのはいかがなものでしょうか。おお、神よ。


「先生!あれルール違反じゃないんですか!?」

「うーん……違反、にならないらしいよ。むしろ、ルールには()()()()他の組への妨害が認められているんだ」


 後で聞いたことですが、この八魔大祭には正式なルールが決められていて、こういった妨害とそれにどう対応するかも評価点に入るそうです。なので私が卑怯だと言っても、ルール上では許されているのでどうにもなりません。


(先生!)


 私は助けを求めるようにバウム先生の方を向きました。すると先生は困ったような顔をして、やりすぎるなよ、と言ってくれました。では、最小限にしつつ、ささやかな仕返しをしましょう。神よ、お許しください!


(スライム達、水分、巨大化、7人、私を除く……捕縛!)

「メガスライム!!」


 ちょうど全員がスライムの池の直前に来ているので、それを利用してスライム達に魔法をかけます。すると、池の中に収まっていたスライムがもこもこと巨大化して、他のレーンの人達を絡め取っていきました。


「ぎゃあああああああ!!」

「な、なんだこのスライムー!?」

「や、やめろぉ!男のスライムプレイなんか需要ねーぞ!」


 阿鼻叫喚です。私は自分のレーンのスライムの上をすみませんと断りを入れて通りました。もちろん、私は1位でした。



(影、入る、動く)

影法師ステルスオブシャドウ


 我が導き出した答えは勝利のみ。このオルト・イクリプスは念願の暗黒魔法を覚えた。影を操り、影と同化し、影の中から刺すのだ。闇属性や邪属性といった魔術も覚えたかったが、先生から止められてしまった。無念。


 とはいえ、この影を操る魔法は非常に便利だ。影の中に溶け込むことで全ての攻撃を遮断し、高低差を無視して移動できる。さらに、他の影へと混ざることで自分の居場所を撹乱することもできるのだ。

 こうして影に身を隠した我は、誰からの妨害も受けず、いかなる障害も妨げにならず、ただただ圧倒的な勝利を収めた。我最強!我最強!



 他人への妨害もルールの内なら……そのルールで戦ったほうが楽じゃない?


(風、強風、吹き荒べ、嵐)

風神ふうじん


 ビュゴォォォ、と校庭全体に横向きの風を巻き起こす。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ふ、吹き飛ばされる!!」

「立っていられな……きゃあぁぁっ!!」


 急な突風が私以外の走者を吹き飛ばす。ほら、これであたし以外はコースアウトで脱落リタイア。あたしはひとり悠々と障害物を超えていく。先に仕掛けたのは、あっちだし。むしろ、このルールを教えてくれて感謝、ってところ?ゴブリン相手に油断したでしょ。


 あたし、サランは賢く振る舞う。人間がゴブリンを下に見ているのを知っているから。ぽんこつな赤お兄ちゃん(ステレ)も、かよわい青お兄ちゃん(モノラ)も頼りにならないから、あたしが頑張らなくちゃ。

 バウム先生、大精霊さま、アーシャさま。家族を守れる力をくれてありがとう。素直にはなれないから、心のなかでだけそう言っておくね。


 偶然の突風を装って、あたしはひとりゴールへと向かった。

 


〜1組視点〜


 冷や汗が垂れる。ここは1組のレーン。右から1番目のレーンだから、8組の一番左のレーンとは距離がある。それなのに、オレは今とんでもない重圧プレッシャーに押し潰されそうになっていた。


 原因はわかっている。8組の走者、緑色の、どこにでもいるゴブリン。だがアレはただのゴブリンじゃない。この校庭が今、アイツに支配されているのがわかる。禍々し過ぎるオーラが放たれていて、それに触れているだけで戦意を失いそうになる。何者だ、なんなんだアイツは。


 レースはもう始まっているのに、身動きが出来ない。他の組も全員がそうだ。まるで死神がのど元に鎌をあてがい、動けば殺す、喋れば殺す、魔法を使えば殺す、と耳元で囁き続けているかのようだ。このまま気を失うことができればどんなに楽だろうか。

 結局あのゴブリンは1人だけゴールして、オレを含む残りの7人は重圧から解放された後は走る気力がなくなり、棄権リタイアした。

 いったい、どんな魔法を使ったのか。いや、そもそもこれは魔法なのか?ただひとつ言えるのは、オレ達は地獄から生還できた。そうとしか言えない。



「他の奴らなんで動かないんだ?」

「レースもう始まってるぞ!」

「八百長かコラー!」


 そんなふうに観客席から野次が飛んでいた。傍から見れば突っ立っているようにしか見えないのは仕方ない。私はただ、この校庭にいる者に対して、私の思念を届けたに過ぎない。「動いたらどうなるか」と。

 だから動こうと思えば動けるし、それによって何かが発動するわけでもない、完全なハッタリ。バウム先生からは他の組の生徒を傷つけてはいけないと言われていたから、そこまでに留めておいた。

 私はただ1人ゴールして、先生の元へと帰る。


「イノーラ、ちゃんと言いつけを守れて偉いぞ〜」


 バウム先生の手が私の頭を撫でてくれる。あぁ、大きくて暖かい手。このお褒めの言葉をもらうためだけに生きてる。


「次も頑張りますね♪」


 第2種目でも、8組が全員1位を取った。他の組はリタイアが出たこともあって、点数的にはこの時点で圧倒的に差が開いてしまっている。この後逆転をするには、それこそ8組を最下位にし続けるくらいはしないといけないくらいに。

 バウム先生を喜ばせたい。そのためなら、私はなんでもやります。


「殺気が漏れてたぞ」


 そう指摘して来たのはオルト。私が苦手な人間だ。


「まだ完璧に、とはいかないみたい」

「クックックッ、その殺気がうっかり先生に届かないよう、努々精進することだ」


 闇魔法も支配魔法も使えないくせに。でも、それは真実だった。私が自分の手で先生を傷つけることだけはあってはならない。悔しいけれど、ちゃんと練習をしなくちゃね。

 次の種目は兄さん達と、あの亜人コンビが参加する。ちゃんと1位を取ってくれなくちゃ、私……どうなるかわかりませんよ?



■第十九話 終了

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