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第十八話 八魔大祭


「王国の伝統に則り、第297回ドヴェー魔法学校、八魔大祭の開催をここに宣言しよう!」


 ジェクター校長の声が、この広い校庭に響き渡った。



 八魔(やま)大祭(たいさい)。ドヴェー魔法学校の全8組による、魔法とスポーツを組み合わせた祭典である。この組別の対抗戦は市井に開かれており、毎年多くの町人や冒険者達が観戦に来る。

 この学校行事はただの運動会みたいなものではなく、ここで活躍を示せば冒険者やギルドなどからスカウトを受けたり、賢者席に就くこともできるという。


 賢者席。それは、全国各地の魔法学校における成績優秀な上位魔法使いが就くことが出来る特別な称号。学生魔法使い達は、この席を目指して日々勉学に励んでいる。そして、私の……いや、8組の目的は、フィール王女を実力でその席に就かせることにある。


「先生、俺たちのクラスってたったの10人だけど、この組別対抗戦って競技が8種目もあるんだろ」

「個人戦はあんまり無いから、みんな複数の種目に何度か出る形になるね。みんな休憩が挟めるような形にはしたけど」


 八魔大祭は以下の種目を1日通して行う。


1.巨獣討伐競争

2.50m魔法障害物競走

3.大鉄球転がし

4.10km王都マラソン

5.魔法クラフト

6.綱引き

7.10km飛行リレー

8.大魔法一番勝負


 巨獣討伐競争はその名の通り、魔法で造られた訓練用の巨獣を放ち、組別でいかに早く倒せるかを競う種目だ。魔法学校を出た冒険者の中には、この討伐競争でどんな戦い方をするのかを見に来る者もいるらしい。

 第1種目から派手な討伐戦を用意することで、そういう観客を集める効果もあるそうだ。学校側も商売上手なことで。


 アーシャと私で各種目に対して誰をどの種目に入れるかをだいたい決めてみた。その後で、生徒の意見を聞いてみたが自分に合った競技で問題ないということだったので、時間をかけることなく決まったのは良いことだ。

 とはいえ、他の組が15人〜30人は居る中で、確かにうちの8組は人数が少ない。こういう場面でもきっと、歴代の8組は苦労してきたのだろう。そして魔法使いへの道を諦めた者もいた、と聞く。その悪しき伝統に終わりを告げる日だ。 



〜客席サイド〜


「8組の……アレだろ、王女様がいるクラス」

「8組ってどういうクラスなんスか?」

「あ?あぁ、8組なぁ。魔法が使える見込みの無い連中や、成績不振のやつ、魔法を使う資格のない連中が落とされる、落第生の集まりだよ」


「じゃあ、8組は大したことないッスね!」

「そう思うだろ。確かに問題児の王女とかゴブリンだとか苦労しているだろうが……あの、魔法が使えないバウムとかいうやつが担任になってから、8組の連中の様子が変だ。嫌な予感がするぜ」

「嫌な予感って?」

「例えば……」


「1組が負ける、とかな」



 「第1種目、巨獣討伐競争の出場選手は、校庭中央に集まるように」


 魔法の拡声器で校庭中に声が届く。この魔法学校の敷地は非常に広い。横幅300mほどもある敷地差、全校生徒が揃ってなお余りある。

 第1種目に出るのは、デル、ステレ、そしてフィール王女だ。トップバッターから王女を入れるのは、賢者席に就かせるために活躍の場を増やすためでもある。


「おれだけで倒しちゃダメなんだよな」

「でも戦うのは俺達に任せてくださいよ」

「私だけでも十分でしょうに。けれど、ここは息を合わせますわよ」


 3人で陣を組み、手を重ねて声を張り上げた。フィール王女も2人を信頼しているようだ。デルとステレは炎属性の専門同士で、授業では幾度も同じ系統の練習を積み重ねてきた。2人の息はバッチリだ。そこに、フィール王女が自分から息を合わせようとしている。私はここに敵は居ない、と確信した。


 8組からは3人が出場する中、他の組は5人ないし、10人が出場する。普通、パーティーを組む際は5人前後くらいにまとまるのが良いが、こういう巨大な相手をするときは人数は多いに越したことはない。

 けれども、この八魔大祭は複数種目から成るので、8組としてはここで一気に大人数を出すわけにもいかない。そういう意味でも、本来8組は不利なのだ。

 他の組が8組の3人を見て、いやらしい笑みを浮かべている。しかしデルもステレも他人の顔を気にする性格ではないし、フィール王女も澄ました顔のままだ。


 そして、競技は開始された。


 一気に8組全員でやり始めると観客が全部の組の様子を見られないので、2組ずつ討伐戦は行われる。

 組み合わせはくじ引きで決まり、8組は最後の組み合わせになった。特に相手の組より早く倒せば勝ち、というものではなく、倒すのにかかった時間や協調性などが評価点だ。もちろん、組み合わせの相手より先に倒すことにも意義はある。組み合わせの相手は、1組だ。

 

「うぉぉぉぉーーーー!!やれぇーーーー!!」

「そこだーーーー!いけーーー!」

「あぁ、危ない!」

「3組に賭けてんだからなぁー!負けんなよー!」


 試合が始まると、生徒も観客も大盛り上がりだ。だが、学校行事で賭け事をするな。

 巨獣は造り物で訓練用だが、建物4階ぶんの高さはある。この巨獣はテクト先生とトコル先生が共同で作り上げたらしい。


 巨獣の名前はゴーレムビースト。その名の通り、石で出来ている二足歩行の怪獣だ。見た目に反して鈍重ではなく、その腕から繰り出されるパンチを喰らえば、校庭の外まで吹き飛ばされてしまうだろう。さらに、その肉体はすべて石で出来ているため耐久性も高い。武器や格闘、生半可な魔法では攻撃を通すのは難しい。


 八魔大祭のこの巨獣戦は冒険者達にとって、良い戦闘データになる。魔法学校を通らなかった新米冒険者達も参考にすべく見物に来るのだそうだ。


 10人同士で挑んだ3組と5組による対戦カードは、3組が15分25秒。5組は18分37秒という結果で終わった。3組のほうが練度が高いとはいえ、どちらの組も選手はみなボロボロだ。力尽き地面に倒れ込んでいる生徒もいる。

 この戦いは競技でありながらも遊びではない。下手をすれば命を落とす可能性がある、そういう戦いが繰り広げられていた。


 順当に競技は進み、ついに1組と8組の番が来た。最高記録は2組の11分12秒。あと1秒早ければミラクルだったが、そんなことを考える余裕はないだろう。

 1組の選抜された5人と、8組の3人が校庭で対峙する。デルとステレは、この戦い用に準備したウォーハンマーを装備した。


「3人だけ、とはね。生徒が少ないのは仕方ないが、こちらにもっと戦力を回すべきじゃなかったのか?」


 1組のリーダーであろう生徒がこちらに話しかけてきた。金の長い髪を持ち、背は高く色白で、耳が長い。彼の言う事はある意味もっともだ。あらかじめ敵が巨大なことはわかっているのだから、人数をここに多く割きたい、どの組もそう思うだろう。


「あなた達はそうお思いかもしれませんわね。私達はこの人数で十分ですの。ご心配、ありがた〜く受け取っておきますわ」


 8組のリーダー、フィール王女は微笑をたたえながらそう返した。そういえば1組のリーダーといえば。


「ドヴェー魔法学校の賢者席首席、グラムですね。エルフにして、この3年賢者席にずっと就いているとのことです」


 アーシャはそう教えてくれた。フィール王女と同じ賢者席。そして、紛うことなき真のトップ。それが相手だとフィール王女も知っているのだろう。グラムは黙って踵を返すと、位置に着いた。審判のパティ先生が開始の合図をする。


「位置に着いて。よ〜い」


 巨獣が唸りをあげる。


「始め!」


 ゴォーンと銅鑼(どら)が鳴り、討伐戦が始まった。



 巨獣。いかにも硬くてタフそうな相手。私達に比べて何倍もの背丈を誇る怪物。これだけの相手を前に、まともな戦闘訓練など積んでない私達。以前までの私なら、己の力を過信して届きもしない命令をかけた挙句、地に伏すことになっていたでしょう。けれど、今は違う。


(魔力回路、接続)


 私の体内を巡る魔力を、回路を作り、魔法の根源たる()()()()に繋ぐ。そして、繋いだ回路は私を通じて、デルとステレにも繋がり合う。


 私が今日までして来た訓練は、()()()使()()ことじゃなく、()()()()()()こと。私が遠足で見た光景と、受けた啓示は私を理解の領域に押し上げた。私達の魔力の回路は今、接続されている。

 それはつまり、3人分の魔力量を、全員で使うことができる状態になっている。いきなり大技、というのもどうかとは思うけれど、あの石の身体に攻撃するには相応しい。


 デルとステレが息を合わせている。2人のイメージが私に共有される。龍の牙では通らない。ならば、虎。野を駆け抜ける虎の、電光石火の速さで。そして砕くのは一点ではない。叩いた衝撃を全身へ届かせる。銅鑼を鳴らすが如く。イメージは私たちの中で完全に一致した。


「ステレッ!行くぞッ!」

「応ッ!!」


「な、なんだぁ!?あの三人光ってるぞ!」

「ま、眩しすぎる……!」


 私にはバウム先生のように誰かの魔法に手を加えて、完璧なものには出来ないけれど。私は、私のやり方で皆を助ける。


双牙(そうが)よ白熱せよ、貫き、打ち砕きなさい!」

「「虎焼打(タイガー・ブレイク)!!」」


 私の手から、2人のハンマーへと魔力が流れる。2人はそこから駆け出して、発熱して白く輝くハンマーが巨獣の腹部に吸い込まれた。衝撃は音を置き去りにして、大気を震わせる。遅れて音が響き渡り、巨獣の体は次の瞬間には粉々に割れていた。



■第十八話 終了

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