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第十五話 Compression artifacts


 第三の関門は垂直の壁。掴むところがなく普通には登ることはできなさそうだ。魔法で空を飛ぶのが正解なのだろうが、有翼人のエスケは空を飛べるし、リザード族のラウザはそういう壁登りが大得意だ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ラウザの壁登りの速さは、エスケが飛ぶよりも速い。恐るべしリザード族。先に上がってもらうと仕掛けがあり、それに触れると壁から梯子が現れる。難なく全員が壁を登ることができた。


 第四の関門は薄氷の橋。そのまま渡れば橋は割れ落ちてしまうだろう。使えるものは、水たまりがひとつ。


「これを凍らせて〜」

「みんなで載ったら、シューッ!」


 氷の上を、氷で滑る。水たまりを凍らせて作った台座は、11人載っても大丈夫。つぃーっと面白いように滑って、橋を渡りきる。薄氷の橋にはヒビひとつ入っていない。帰り道も問題なさそうだ。


 そして、最後の関門が立ちはだかる。


「なーんにも、ないな」


 そこにはひとつの岩戸だけがあった。なんと仕掛けらしい仕掛けが何もないのだ。


「土の魔法でなんとかなんない?」

「……だめ。これ、ただの石じゃない。この入り口も、壁も、魔法を弾いてる」


 イノーラが魔法を使い土や岩を動かそうとしているようだが、この小部屋を覆う外殻は魔法を弾くそうだ。他の生徒も岩戸を開けようとしたり、魔法を壁にぶつけたりしているが、やはりどうにもならないようだ。


「ここまで来て詰みかぁ〜」

「今度こそなんのヒントもないのかなぁ」


「アーシャ、どう?開かなさそう?」

「はい、この部屋を魔力の膜が覆っているのがわかります。また、外殻は破壊・加工困難な剛理石(ごうりせき)で出来ており、現在の私達では掘削も不可能と判断できます」


 剛理石。この世界で最も硬い石と呼ばれている。その硬度たるや、ハンマーで砕こうとすればハンマーの方が砕け散ると言われるほどで、その加工技術は現存していない。王城や城壁の一部などに使われているそうだが、この石で守られているということはここには本当に重要なものが眠っているのだ。


「でも、押しても引いても、うんともすんとも言わないなぁ」

「せんせ、おてあげ?」


 ステレが残念そうな顔でこちらを見上げてくる。さて、どうしたものか。


「とんだ無駄足、ですわね」


 この声はフィールのものだった。


「遠足という名目で王家の遺跡を荒らそうとして、その結果がこれですわ。はぁ、もう進めないなら帰りましょう」


 やれやれ、という顔でフィールが踵を返そうとする。


「フィールはそれでいいのか?」


 私はそちらを向かずにそう尋ねた。


「仮にも王家の遺跡に、その王族がいるのに……そのお前でさえここを通れない。まるでフィールが王として認められていないようだな」

「なんですって?」


 フィールの声に怒気が混ざる。


「ここまでみんなの力でどうにかしてきた。フィールひとりじゃ、どのギミックも突破できなかっただろう。そして最後の最後まで、王女様には何もできないで終わる……それで、いいのかな?」


 これは賭けだ。フィールは私を嫌っているだろうから、こんな挑発に乗ってくれるかわからない。それでも、フィールに何かをさせたかった。


「わ……私が何もできない、ですってぇ……?」


 声が震えているのがわかる。ピリピリと空気も震え出す。生徒達が静かにフィールを見守った。


「無礼者!私を誰だと心得るの!私はフィール、フィール・グラ・レグルスよ!この国の王女なの!私は、私だって……王族なのよ!!」


 フィールが声を張り上げた。


「王族の遺跡が私を拒むはずがないでしょう!レグルス王族の遺跡なら、私のもの!私が、この扉を開けてみせますわ!」


「フィール様、私も手伝います」

「俺だってやるぜ!」

「ククク……王女様にも出番を用意しなくてはな」


「きっと開けられますよ、王女様」

「諦めたらそこでおしまいだからな」


「おれたち」「クラスメイト」「一緒に」「やりましょう!」


 我も我もと、生徒達がやる気を出し始める。諦めムードだった雰囲気が一気に変わり始めた。


「よし、それじゃあもう少し頑張ってみよう。制限時間は……今、もう夕方になった頃だから、あと1時間だ。馬車の人たちが待っている、いい知らせを持って帰ろう!」


「「「はい!!」」」


 私も、懸命に手がかりを探すことにした。風化して消えてしまった文字はないか?どこかの土や砂の下に文言が隠されていないか?

 アーシャに魔力を探知してもらいながら、どこか不自然な点が無いかも確認していく。すると、横手の岩をどかしたラウザが何かを見つけたようだ。


「お……?なぁ先生、これなんだろう?」


 そこには、文言のようなものが刻まれていた。かなり古く、今は使われていない言語に見える。


「うーむ……何語だろう。アーシャ、読めるかい?」


 アーシャにも聞いてみる。アーシャはすぐには返事をしてくれなかった。だが、しばらく待っているとやや自信の無さそうな返事が来た。


「私も未知の言語ですが、この文字は私達が大精霊と呼ぶ、あの石板に刻まれているものと一致しました」

「なんだって?」


 私はまず、驚いた。それがどういうことか理解するのに自分でも時間がかかった。アーシャは続ける。


「私は石板に刻まれた文字を記憶し、解読しようと試みましたが、どの言語体系にも当てはまらず解読は困難でした」

「ずっと解読しててくれたのかい?」

「はい。昨晩から試みていました。結局解読は進んでいませんでした。が……」


 アーシャの歯切れが悪い。AIであるアーシャが言葉に詰まることは私には珍しいことだった。


「文字は読めません。しかし、書かれている内容を理解することはできます。理由は不明ですが、私には書かれていることがわかるのです」

「読めないのに、わかる?」

「はい。私達が石板と交信するときと、同じ感覚です。書かれていることを読み上げます」


 アーシャが私から離れて石板に触れた、そんな気がした。


『王の言葉で命じよ、扉は王のしもべなり』


「フィールっ!!」


 私は声を張り上げた。後ろで立っていたフィールがビクリと肩をすくめる。


「フィール、お前の出番だ!お前の言葉で扉に命令してやれ!」

「扉に」「命令する?」


 トロとフィールが首を傾げる。魔法が通じない、しかも相手は生き物ではないのに、命令とはどういうことか、そう思っているのだろう。私はフィールの耳元で、扉を開く命令の言葉を伝えた。


「……はぁ?そんなことで開けば苦労はしませんわよ。試してみてもいいですが、何も起きなかったらお覚悟しなさいな」


 渋々といった表情でフィールが扉の前に立つ。ただ開けと命令すればいい。そのための言葉は私がさっきでっちあげて伝えた。アーシャが頭の中で怪訝な顔をしている気がするが、私はややわくわくしながらことを見守った。


「すぅ……。開け、()()!」


 フィールの声が祭壇の中で虚しくこだました。余計なことを言ってしまったか?生徒達もまるで時間が止まったように固まっていた。そんなとき。


 ゴゴゴゴゴ……という音を立てて、岩戸が開き始めた。岩戸の鍵は、まさに王族の言葉だったのだ。

 仕組みはわからないし、どうやってこんな仕掛けを作ったのかもわからない。だが、この地には1000年以上前に高度な文明があったのは間違いない。私達は、岩戸をくぐり抜けてその先に向かう。だが、その前に。


「フィール!よくやった!」

「さっすが〜!王女様ってちゃんと王女様だったんだ!」

「ここまでの努力は無駄になりませんでしたね!」

「あ、ありがとう……って、誰か無礼なこと言いませんでした?」


 フィールはみんなに囲まれて担がれていた。さぁ、時間は残りわずか。このダンジョンの一番奥に待つものと対面のときがきた。


 最後の部屋は外から見たのと同じような大きさで、四角い部屋をしている。とくに金銀に飾られたような内装でもなく、四方の柱が天井を支えていて、中心に何かが安置されていた。


 そこには、石板があった。



■第十五話 終了

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