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ゼルツの人間って血気盛んよねぇ(他人事)

※本日は二話投稿で完結となります。



 そんな舞踏会での一幕をゼルツの者達が知った場合、当然ながらその反応は一極化された。


「ククク……軟弱な凡人貴族共が、我がゼルツの救世主を罵倒だと? いい度胸だ小童共めが……!」

「ルドウィグ閣下は政務の革命者、あの方が居らねば立ちいかぬほどに困窮しているという事実を知らん阿呆共がぁ、万死に値するぞ!」

「ペンペン草一本も残さず毟り取ってやろうではないか」

「戦争の準備は出来ていますぞ」

「では、まずは周辺領地への圧力でも掛けましょうか。兵糧攻めは基本ですので」


 瞳に危ない光を宿す家臣達が、怪しい笑いを上げながら各所への手紙を書き連ねる光景は実に不気味であった。ゼルツの知能が駄目な方へ向いたようである。


「はぁ!? レオ姐さんの旦那をボロカスに扱き下ろしたぁ? いい度胸だ……てめぇら戦争の準備だあぁっ!!」

「ゼルツを舐めるとは恐れ知らずな唐変木共だ。良かろう、我らがゼルツ騎士の威容を奴らへ骨の髄にまで思い知らせてやろう」

「飛竜部隊を先行させましょう。先のドラゴン侵入騒動を名目に、哨戒という名目で飛び回らせれば、奴らも肝を冷やすかと」


「……君たち、もうちょっと理性というものを思い出してほしいのだが」


 そんな当人の呟きなど何のその、文官も武官も等しく怒りに燃えていた。そして本当に飛竜を飛び回らせて、イェレス領とルーヴェ領を騒がしくさせたのだ。条約とはいったい何なのか。

 結果、イェレス伯爵はゼルツを怒らせる事は得策ではないと考えたのか、愛人を囲っている妻と離婚して実家へ送り返し、ルーヴェ侯爵は今回の失態の責任を両親に問い、夫妻揃って領地の別荘に押し込まれる事になったらしい……というのが後日の謝罪の手紙に綴られていた。

 結果、それで手打ちということになり、騒動は幕を閉じる。

 ゼルツの不興を買うという事は、便利な最新の魔道具全般の入手難度が上がるということであり、生きるのに必要は無いが贅沢をする上では避けて通れない魔物産の素材が手に入らなくなる。それは体面を気にすべき貴族としては致命的である。

 両家の当主にとっては頭の痛い騒動ではあろうが、二度と、ルドウィグを貶した彼らが社交界に戻って来る事がないのは確かだった。


 後日の総合オフィスでジョアンからそんな経緯を聞きつつ、一種異様なゼルツのフットワークの軽さに、冷や汗混じりなルドウィグは思わず呟く。


「……何故、私の為に、ここまで怒るのだ?」

「ルドウィグ殿、我らにとって貴方も守るべき対象であり、政務という後方支援を主として行ってくれる貴重な人材。そんな貴重な人材を、しかも辺境伯の伴侶を、傷つけようとする相手はゼルツにとって等しく敵なのです」


 ジョアンの真面目な顔に、ルドウィグは竜の伴侶の話を思い出す。精神的な負傷すらも許さないその過保護さに、今までに感じたことのない擽ったさを感じて、困った顔をするしかない。

 ゼルツでは、戦えない者を見下す者はいないらしい。常在戦場であるこの地では、物資補給が途絶えたり傷を癒やす術が無かったりな事はザラであり、それによって命を落とすケースもあるのだ。実感しているからこそ、誰もそれを見下すことは無いのだろう。


 一方、レオが国王相手に啖呵を切った件で、流石にジェストーザに怒られるかと思っていたのだが、


「よーし、よくやった娘よ!! そこまで言ってやったのならお前を見縊る輩も減るだろうて、社交界への掴みはバッチリだな!」


 むしろ、呵々大笑して喜んでいた。

 それに面食らうルドウィグが尋ねれば、相手はニヤリと笑みを広げる。


「よいか、婿殿よ。ゼルツとは人類圏を守る最初で最後の砦、それを崩されるようなことがあってはならん。同じく、侮って利欲のために背後から刺してくる馬鹿どもを増やしてもならん。ゼルツは、獣でなくてはならんのだ」

「獣? しかしそれでは、人語を介さぬケダモノだと恐れられるのでは」

「恐れられて良いのだ。文字通りのドラゴンだと、歯向かうことすら出来ない強大な化け物だと思ってくれんとな。儂らは無敵で最強の怪物で、そして今は、自分たちを守ってくれている盾なのだと、理解してくれねばならんのだよ」


 人類の共通の敵が存在する内は、ゼルツとは平穏の象徴で居られる。魔族が居なければあっという間に討伐すべき悪しきドラゴンに堕ちるだろうが、当面はその心配はない。

 人間の社会に紛れてはならない、化け物の力を振るうのは、人類の社会を崩壊させてしまうからだ。だから、ゼルツは人外の集う蛮族の地であり、人間の社会に興味を持たない戦闘狂であり、利害関係が一致しているからこそ共闘している間柄なのだということを、互いに心がけねばならない。

 さもなくば、人類はドラゴンに支配される奴隷に逆戻りするか、種として滅ぶしか道が無くなるだろう。


「人の理が通じぬドラゴン、故に何をしでかすかわからんから、下手な手出しが出来ない……まあレオは本気で国すらも滅ぼすだろうが、ゼルツを刺激する敵など少ない方が良い。代替わりをしたとしても、そんな理解の出来ない存在だと知らしめておく必要があった。レオは情緒が独特で後先を考えんからな、伴侶であるお主が出来るまで社交界にすら出さなかったのは、レオがやりすぎないよう止める人間が必要だったからだ」


 怒れるドラゴンを宥めるのは、伴侶の仕事だ。その竜の理性であるべき伴侶は、実に心労が絶えない存在だろう。


「では、あの生誕祭の晩、たまたまドラゴンが人類圏に逃れたのは、偶然ですか?」

「おお、偶然だとも。辺境伯を強制的に王都へ連れ出したから、ドラゴンが辺境から逃げてしまった、とな」

「そして、それを一晩で辺境伯が討伐して国王へ献上した事も?」

「レオなら容易かろう、同じく儂もな」


 レオノーラと違って、ジェストーザは策を弄する事を知っているようだ。その結果、他領の無辜の民が死ぬことになろうとも頓着はしない。

 その気になれば人命を軽視し、争いに発展させる事すら良しとするジェストーザもまた、竜らしく暴君に近い気質なのかもしれない。


 ともあれ、ドラゴンという最高級肉を献上し、それを単身で殺せる辺境伯の実力はほとんどの貴族達の間に広まっただろう。ついでに、辺境伯を辺境から引っ張り出すことの恐ろしさも、身に染みて理解しただろう。平和ボケしてきた連中には良いお灸になったに違いないが、国王は半笑いで頭を抱えているかも知れない。

 レオノーラの言動は気まぐれで、王へ傅かず、国への敬意も執着すらもない。

 その姿はまさに、ドラゴンのように奔放な怪物として映ったに違いない。実際、ドラゴン討伐後のレオの言葉は、既に社交会での噂の的だとか。


「アタシを満足させるのなら、このドラゴン以上の化け物が欲しいところねぇ。陛下、これくらいの力を持った国とかない?」

「あいにくと、聞いた覚えがないな」

「あら残念」


 死したドラゴンを飛竜で吊り下げてきたレオノーラは、そう言い放ち、周囲の人間を凍り付かせたとか。


 血に飢えたゼルツ辺境伯は、人間なぞ眼中に無いかのように前線へと戻っていく。その姿を眺め、人々は内心で胸を撫でおろした。手の付けられない化け物ではあろうが、今は唯一無二の利用価値があるから、ゼルツへ手出しはしない。そう思わせることには成功した。

 それを続けていく事こそが、ゼルツ辺境伯に課された宿命でもある。


 業の深い役割だ、と、ルドウィグは先に待つ苦労を思い、隣でケーキを楽しげに食べる伴侶を見つめつつ、人知れずため息を吐いたのである。


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