魔王と勇者
勇者フレア・ドルティノに転生した俺は魔王の問いを断り、魔王様をいただく事に……。
「これで終わりだ! 魔王マディナ!」
勇者の剣が魔王の肩に下ろされ……
「ちょっと待ったーーー!!」
すんでの所で振り下ろされた剣の動きを止める。
(危なかった〜 マジで何をやってるんだよ勇者は……いや、もう俺なのか)
どうやら俺は異世界転生をしてしまったみたいだ。
遡る事、5時間前(前世の時間)
今、巷で流行りに流行っている大人気ゲーム
「エンゼスクエスト」
可愛いヒロインのサーシャ・サクラダ
長髪イケメン騎士のノエル・プリスト
銀髪クールな武闘家ナッシュ・ウルフ
勇者フレア・ドルティノ
この四人の力を共にして、魔王マディナ・ソルナークを打ち倒すというシナリオだ。
しかし、俺、清田義隆はそうはいかない。
可愛いヒロイン? そんなの人気があって当然だ!
長髪イケメン騎士? そんないかにも人気がありそうな騎士様は人気があって当然だろ!
銀髪クールな武闘家? あー、はいはい出ましたよ、クールイケメン枠ね。
現実じゃクールでも見向きもされないっつうの!
まぁ、イケメンなら話なんだろうな……。
いやいや!落ち込んでる場合じゃないぞ! 俺!
俺の推しはヒロインでもなければ、イケメンでもない。
俺の推しは、
魔王マディナ・ソルナークなのだ。
え? 魔王は怖いじゃないかって?
いやいや、このゲームの魔王は女性なのだ。
心落ち着く声、綺麗なロン毛の髪、俺好みの落ち着いた性格。
ふぅ、語り過ぎか……。
そんな考え事をしていると、
「おい! 危ないぞクソガキ!」
野太いおっさんの声。
右に振り向くと、目の前にはトラック。
「おいおい、お決まりのパターンじゃんかよ」
俺はトラックに衝突して死んでしまった。
現在に戻り、
今何故か魔王に剣を振り下ろそうとしている自分。
(シナリオ通りにはいかせないぞ)
「なっ、何故攻撃をしないのだ? 剣を振り下ろせば世は致命傷だったのだぞ」
そんな事言われなくても分かっている。
「俺は魔王を倒したい訳じゃない、世界を平和にしたいだけだ! だから争うつもりは全く無い!」
本当は推しを殺すのは嫌だからという単純な理由なんだが……後ろに勇者のお仲間さん御一行がいるからそんなふざけた理由でも言ったら確実にボコボコにされる。
「そんなの駄目だよっ! 村の人々も魔王軍に滅ぼされたってフレアも知っているでしょう?」
(なんかヒロイン枠のサーシャ様が言ってるけど、俺にはそんな酷い事出来ないんでね)
「お前の仲間の言う通りだぞ、世を倒さなければこれからもあちこちを滅ぼすつもりだが」
魔王様も気乗りな事に少し不満だが、風格がある事は推しとして嬉しいに越したことはない。
「ならば俺が魔王軍の一員になり、共に行動をするというのはどうですか?」
「 ちょっと何言ってるの! フレアは勇者なんだよ?魔王を倒さないで仲間になるってどういうつもりなの!」
サーシャは怒り狂ってるそう口にした。
「同感だ! 魔王を倒さないなんて勇者としての威厳がないよ、それに魔王軍の一員になるなんて冗談でも口にしてはいけない!」
ノエルも同様に怒っている。口調がいつもよりもやや荒いのがその証拠だ。
「………………。」
おいおい、この場面で無言を貫き通すお前のクールキャラっぷりには尊敬しかないぞ、ナッシュ。
「貴様は何を言っているのだ? それは仲間を裏切るという事になるが?」
こちらを睨みながら魔王は警戒している。
(まぁ、そうなるよな〜)
「俺は仲間を裏切るつもりはありませんが?」
「ほう……仲間を魔王軍の一員になるというのに裏切り行為にはならないと?」
「はい、俺が魔王軍の一員になります。そして、大きな土地、人望、財宝なんかも奪わずに物にしてみせます」
「ふむ……そこまで言うのならばお手並み拝見といこうか」
「仰せのままに……。」
俺は数々の成果を出し、見事に地位を魔王側近まで上り詰めた。
「まさか本当に成果を出すとは思わなかったぞ、貴様も中々やるのだな」
「はっ! ありがたきお言葉で御座います!」
( 推しにここまで褒められ、さらにはこんなに近距離に会話を出来るなんて嬉し泣きしそうだ!)
「そういえば褒美がまだだったな、うーむ……そうだな、世界の半分をくれてやろう」
来た、この時を待っていた。
「世界の半分はいりませんので、代わりに魔王様をいただきます!」
「なっ!? 自分で何を言っているのか分かっているのか!」
「えぇ、分かっていますよ。美しく、誰よりも魔王様に親愛の情を抱いております。」
まぁ、自分でこんな事を言っておいてかなり恥ずかしい。
だけど、魔王、何故あなたはそんなに頬を赤らめているんだ!
本当に素人なので、アドバイスなどもいただけると大変ありがたいです。(もちろん感想も)
魔王に好意を寄せる主人公の物語が始まります。