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作者: 高虎

お父さんはその日病院にいたんだ。

お母さんのお腹に君ができて、そしてお腹がどんどん大きくなって、もうすぐ初めて君と会えると思うとドキドキしていたんだ。

本当はね、お父さんは男の子が欲しいと思った事があったんだ。

でもね、その日のお父さんはそんなことはどうでもよくなっていたよ。

君が元気に産まれてきてくれたらどっちだっていい。


そう、君が元気に産まれてきてさえくれればそれだけでいいんだ。


君が一歳になったときに仔犬を飼ったんだ。

大人になったら大きくなるゴールデンリトリバーも仔犬の頃は赤ちゃんの君より小さくてとても可愛かった。

「元気」って名前にしたんだ。

まだ赤ちゃんの君がいるのに犬を飼うなんてダメだって言う人もいたけど、そんなことはどうでもいいんだ。


そう、君と一緒に元気に大きくなって、仲良しになれる犬を飼いたかったんだ。


君が寂しいときはいつも犬小屋に入っていたね。

君と同じくらいになった仔犬を抱きしめてスヤスヤ眠っている姿をお母さんと一緒に見ていたよ。

まだ小さい君は元気を家族の一人だと本当に思っていたよね。


そう、君にそんな気持ちになって欲しかったんだ。


どこに行くときもいつも元気と一緒だったね。

散歩のときはいつも君は元気と寄添って歩いたね。

君は元気をとても可愛がって、そして元気も君のことが大好きだった。


そう、愛することの意味を少しだけわかって欲しかったんだ。


スクスク育っていく君は友達がいっぱいできたね。

元気を家に残して外に遊びに行くことが多くなってきたね。

お父さんは元気が少し寂しそうにしているのを知っていたよ。

でも君は、帰ってきたら一番に元気をなでて可愛がったね。

そのときの元気がとても嬉しそうだったのも知っているよ。


そう、そのような、居てるのが当たり前の家族になって欲しかったんだ。


君が中学生になった頃、どんどん大人になっていく君とは逆に元気はもうおじいちゃんになってしまったね。

今まで一緒に走り回っていた元気は、動く事さえつらくなってきたね。

君はそんな元気が受け入れられなくて、わざと元気を無視するようになったね。

でもお父さんは知っているよ。

誰も見ていないところで君が元気に何度も話しかけていたことを。


そう、君にそんな思いやりをもって欲しかったんだ。


ある日君が学校から帰ってきて、もう二度と動かなくなった元気を見て驚いていたね。

そして大声で泣いたね。

何日も泣いたね。

君が声を出して泣いたのをお父さんは久しぶりに見たよ。

つらかったね。

君がはじめて家族が亡くなる悲しみを感じたときだね。


そう、大人になっていく君に、家族の一人が亡くなる悲しみを知って欲しかったんだ。


君はとても素晴らしい大人になったね。

お父さんはとても嬉しいよ。

これからも君の人生を元気に生きて欲しい。

もうお父さんが居なくても君は大丈夫だよね。

だからお父さんもそろそろ天国に行くね。

お父さんが居なくなっても泣くのはその日だけにしてね。


悲しみを乗り越える方法は元気が教えてくれたから大丈夫だよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ〜、お父さん視点のものでしたか。 最初は子供が生まれるときのことは書かなくてもいいんじゃないかと思ったんですが、お父さんの視点で物語が成り立ってるなら必要ですね。 結論がそのようなものに…
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