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4話――君とチェキ

俺と菜七の同居生活が続き季節は夏へと変わっていった。

ずっと続くと思ってた同居生活。


しかし、


終わらせたいと言い出したのは菜七の方だった。



「どうして」

『琉太くん痩せたでしょ。顔色も前より悪い。このまま私が憑いてたら命が危ない』

「別にこれくらい」

『私やっぱり悪霊なんだね。側にいたい人が弱ってくのは辛いよ』

「それは」

『琉太くんだって私が辛いの本望じゃないでしょ』


「……」


『ね、私のお願い聞いてくれる?』


◇◇◇



夕方六時。

お願いと聞いてやって来たのはお祓いの時に来た神社だった。


閑散としてたあの時と違って今日は人で賑わっている。


『お祭りやるんだって。この時期』


そういう菜七の手にはりんご飴。

『屋台もたくさん出るし花火も打ち上げるらしいよ。やるねあの神主』


菜七のお願いとは俺から離れる前に一緒に二人で夏祭りをまわることだった。


『親が厳しくてさ。あんま友達と出かけること出来なかったんだよね。青春ゼロ!』


「芸能活動だって立派な青春でしょう」

『まあねえ……』


うなずく菜七。

『でも恋くらいしたかったな……胸キュン的な。今でいうエモい体験』


エモい体験ね。


「これくらいしか出来なくて恐縮ですけど」


そう言って俺は手にしたスマホをカメラモードに切り替え、隣にいる菜七の肩を引き寄せる。


『ちょっ!?』

「出来なかったんなら今出来ることをやろうかと」


『無理無理、私、今バッチリメイクしてない!』

「? 別に可愛いですけど」


『馬鹿! 準備がいるの! アイドルは写真一枚でも最高に可愛いく写りたい生きものなの! これ常識な!』


「そうなんですか」

『そうなんです! でも、まあ、いいか……そもそも私死んでるし誰に見られるでもないし』

「……」


引き寄せる力を強くする。


カメラの中心に二人収まるように間の距離を埋める。


『琉太くん?』

「俺、撮った写真はアルバムに貼る主義なんです。アルバムめくってその時のこと楽しく話したいから。だから菜七さん俺とアルバム見ながら今日のこと振り返らせますよ。俺がアルバム見る度に」

『それじゃ私君から離れられないじゃん』

「そばにいればいいよ。俺の側にずっといればいい」


我ながら似合わないことを言って。


何だかこそばゆい。


――カシャッ

シャッターが鳴った。

時を刻む音は祭りの賑わいに溶けてしまいそうに小さく儚い。

不確かなそれは、俺と菜七の関係のようだった。

「よく考えたらこれって心霊写真か」

『どんなにエモく撮ったって私は背後霊ゆえね。夏の風物詩心霊写真の完成だ』

ああー……

「そういや最近心霊写真って見ないですね」

『デジタルカメラになってから解像度が上がりすぎて撮れなくなったみたいだよ』

「精密さで消えるなんてやらせじゃないですか」

『よかったねこれ本物』

「……」

『エモいよエモい』

「エモいしか勝たん。キュンです心友チョベリグー! ですね」

「無理して使うな琉太くんだいぶ古いのまじってる」


……ぴえん。



◇◇◇


二人で花火を見終わった後、アパートまでつくといよいよ菜七が離れる時がやって来た。


『今まで世話になったね』

横に歩いていた菜七は顔を見られたくないのかうつむきながらそっと俺の背後に周り、背中に手を添えた。


『本当に楽しかった』

小さな手はかすかに震えていた。

呟く彼女の声は消えてしまいそうなくらいか細く儚くて、本当にお別れなんだなとやっと実感した。

「背中、いつでも空けときますから」

『ふふっ変なの』


言っといて自分も笑ったし背中から笑う振動が伝わった。


最後にかけた言葉は再会を誓う言葉だなんて。背後霊に対してなんたる言葉だ。


『ありがとう』


背中から聞こえてきて。


その瞬間から身体の重みが消えていった。


やたら軽くなった身体に寂しさを覚えてしまう自分がいた。

この世から推しが本当にいなくなってしまった瞬間だった。


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