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2話――お祓い、のち背後霊

紹介先は神社だった。

「神社あっ!?」

なぜ神社?

医者ですらないじゃないか!

「ま、まあ行くか」

ここで考えても仕方ない。


◇◇◇


「よう~こそ、おいでなすった」


鳥居をくぐると胡散臭げな微笑みをたたえた神主らしき男が出てきた。


「あの、原因不明の不調を治してくれると聞いて会社の後輩から紹介されたのですが……」

「なるほど。楠木の奴からですか」

マジで知り合いなのか……


「本当にここであってます? ここ病院じゃなくて神社ですよね」


真っ赤な鳥居を見上げながら聞く。


「ほほほ、あってますよ。あなたの不調は“霊にとり憑かれて”出ているものですから」



「は……?」



霊……?


じゃあ、俺の体調不良はウイルス的なものでなくゴースト的なものからくるものなの?


「ほほう背後霊・・・ですな。だいぶ生気を吸われています。さあさ本殿へどうぞ。お祓い致しますので」


すすすーっと神主が先導するよう先を歩く。


真っ直ぐ見据えた先に本殿があった。石畳を進み靴を脱いで本殿に続く木造の階段を上る。

本殿へ入ると、さっそくお香の匂い漂う室内でお祓いの儀式が行われた。


なんたーらかんた~ら。


何だか仰々しい雰囲気で神主が呪文らしき言葉を唱える。

だが三十分以上お祓いを受けるも身体はどっすり重いまま。


「なかなかしぶといお嬢さんだな」


「お嬢さん? 女の子なんですか?」


「ええ。でもお嬢さんとはいえ背後霊・・・。霊は霊なので成仏させます。あ、これ引っ張ったらいけそう」

「え!? 背中から出てる感じですか!!」


どうやら背後霊の一部が俺の背中から出かかってるらしい。

神主が俺の背後にまわり、「オーエスオーエス!」と綱引きを始め出した。


『ぐぬぬぬ、させるかーっ!』


凄い勢いで後方に神主が吹っ飛んでった。


「かか神主さん!?」

振り返ると障子を突き抜けた先に神主の足だけが痺れるように震え立っていた。

どっかの家の一族でこういう死に方した人いたな。


『レディのおみ足引っ張りやがって! 気安く触らないでよ!!』


「ええ!? 誰!?」


すぐ後ろから声が聞こえた。


『後ろだよすぐ後ろ!』


遥か遠くへ飛ばされた神主より手前の後ろに少女がいた。


『せっかく居心地いい背中見つけたのに! 勝手にお祓いなんてしないでくれる?』


少女、というより女性か。

声色がどこか大人っぽい。


縁取る睫毛も切れ長な瞳も少女よりかは童顔の女性に近く、薄めの化粧が施されている。紅茶色のウェーブがかった長い髪を後ろでゆるく束ねている。


この人が俺に憑いてた背後霊?


「たしかに可愛い」

『ええ本当?』


思わず呟くと、背後霊は俺の前に来てにっこり笑う。


『坊や見る目あるねー。素直でいいこいいこ』

「背後霊って前に来てもいいんですか」

『背後霊だって横や前に来たい時だってあるよ。人間だもの。あ、違った、幽霊だったワハハ』

「……」


少女みたいな見た目に反しておっさんみたいな中身だった。


『むわッ!?』

「ゼエゼエ……捕まえましたよお嬢さん」

いつの間にか駆けつけた神主が背後から彼女を羽交い締めにした。


「悪いが今度こそ祓わせてもらう……!」

『離せ離せーッ! この変態神主! 変態変態! ポンコツ! ヤブ医者まがいの副業ペテン師野郎』

「この娘地獄送りにしてくれる」


神主の目が私怨まみれの鬼みたいでこのままでは成仏どころか粒子ごと粉砕させそうだったので仲裁に入った。


「あの、彼女嫌がってるんで。俺なら大丈夫なので、一旦お祓いは中止してもらえますか」


「ええ持ち帰るんですか!? 今ならその場で祓えるんですよ!」

「そうなんですけど……なんか無理やり祓うのも可哀想だし……テイクアウトで」

『ファストフード店みたいに言わないでくれる……っていうか、坊や、君はそれでいいの』


背後霊は俺に聞く。

『私幽霊だよ。宿主の君の生気とか吸っちゃうし、本当にいいの?』


「背後霊さんさっき言ってましたよね。『せっかくいい背中見つけたのに!』って。あの言葉、きっと幽霊になってから居場所を探すのに苦労したんですよね。無下に祓うなんて気の毒ですよ」


『君、お人好しすぎだよ』

「そうだよなぁ……自分でもそう思います」

『そういう人好きだけどさ……って顔色悪っ!』


結局具合が悪いまま背後霊の彼女と共に神社を出た。



◇◇◇



「それで、このまま俺は家に帰るんだけど、背後霊さんも俺の家に帰るでいいんですか」


『背後霊が背後から離れてどうすんのよ』

その通りでございました。

『どうせ自分の家に帰っても家族は私のこと見えないしね。あそこにいても虚しいだけだし』


そうか。

俺以外の人間には見えないのか。


あるいは、先程の神主のような霊感の強い人くらいか。


『知ってる? 君ね、数日前に私が落としたハンカチ拾ってくれたんだよ。私が幽霊と知らずに』


「え、マジですか」


『話しかけても認識しない人間ばかりの中で嬉しかったな』

「もしかしてそれで俺に憑いたんですか」

切れ長な瞳がにっこり三日月をつくった。

マジか。


『気心知れた奴にはかたっぱしから声かけたんだけどダメだった。やっぱ堪えるよ。本当に死んじゃったんだなって』


どんなに自分が声をかけてもその声は人には届かない。

自分の大切な人から自分を認識されないのはとても辛いだろう。


「……」

『ねえ名前なんていうの?』

「俺ですか」

『若いよね。学生?』

「まさか。二十四歳ですよ。会社員。そういうお嬢さんは?」

『人の年齢を聞くのはよくない文化だよね』

「躊躇う年齢じゃないでしょう」

『私ずっと坊やより年上だよ』

「え」

『生きてれば今年三十歳。三十路の大台だね』


このヒト俺より六つも年上なのか!?


『亡くなったのは六年前。坊やと同じ二十四歳の時だからね。見た目は当時のままだからピチピチギャルなのさ』

(あんまり今ピチピチと表現しないような……)

ジェネレーションギャップを感じてしまうあたり本当にその世代の人物なのだろう。


しかし六年前……俺が羽角七菜子に出会った高校三年生の時か。


偶然やらなんやら。


◇◇◇


一人暮らしのアパートは一人だからちょうどいいのであって二人だと少々狭く感じる。


『お邪魔しまーす』

玄関で靴を揃えるところで急に緊張感が上がっていた。

(これっていわゆる同居だよな)

幽霊といっても相手は女性。

ずっと羽角七菜子ひとすじだった俺は交際経験は皆無だった。

『ねえお風呂入りたいんだけど』

「いきなり風呂!?」

背後の彼女がそう言うのでドギマギしながら風呂を沸かす。

幽霊が風呂入る必要あるのかなどという疑問より女性が自分ちの風呂を使うことが初めての経験で頭が追いつかない。

(平常心平常心)

なんとか湯を入れ終えよくわからん汗を拭うと、「お疲れ~」と彼女はご機嫌で風呂場に走っていった。

「し、心臓が持たない……」


背後霊といえ同居をなめていた。


「ていうか背後から普通に離れてるし」

一応身体は重いから憑いてることになってるのか。なんてアバウトな。


~♪


風呂場から鼻歌が聴こえてくる。

どうやらご機嫌のようだ。

まあ彼女が居心地好さそうなのでそれは良しとするか。


~♪


あれ……?


この曲。

どこかで聞いたことあるような……


「凄く聞き覚えのある曲のような……」


ていうかつい最近聞いたばかりな気がする。例えば、数時間前とかに。


今日も聞いた。

動画で。


動画で?


「まさか」

脳内に時代年表を広げる。

背後霊に聞いた年齢と彼女・・の年齢を照らし合わせる。六年前・二十四歳・生きてたら今年三十路、検索。

検索したワードがある答えに一致した瞬間、俺は風呂場のドアを思いっきり開けていた。


「もしかして“羽角七菜子”ーーッッ!!!?」


『きゃーっ!? 何!?』

風呂場に飛び込む俺の顔面に彼女が投げた洗面器がヒットした。



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