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1話――天使のような君は

パステルピンクの甘い衣装。

ふわふわウェーブの紅茶色の髪。

天使のような蕩けそうな笑顔の君。


輝くスポットライトの光の中で歌い踊る、跳ねる。


人々からたくさんの喝采と歓声を浴びる。


そんな彼女は、今は黒い枠の写真の中で笑っている。




◇◇◇


「……」

過去の特番の配信を見終えた俺はスマホから顔を遠ざけため息を吐いた。

そして力なくオフィスの自分の机に突っ伏す。


「……はあ」

数十秒突っ伏すと今度は動画サイトを開き過去のライブ映像と歌番組での出演映像を交互に見る。ひたすら、見返す。


そんな会社での昼休みの過ごし方を続けて、はや六年。


俺、早乙女さおとめ琉太りゅうたは就職してから六年間、ずっとアイドル・羽角はすみ七菜子ななこを推している。


羽角七菜子。


一世を風靡したソロアイドル。


二十四年間生きてきて俺が唯一ハマった女性。

尚現在進行形。

今でも最愛の推しだ。



衝撃の出会いは俺が高校三年生、十八歳の頃。


大学への受験戦争でクラスメイトたちが殺気立ってる中、少数派である就職の道を選んだ俺は企業面接を受けては落ち、落ちては受けを延々と繰り返し心がすり減っていた。


磨耗した精神状態と死んだ魚のような乾いた目と心でなんとなくテレビをつけたのが転換期。


画面の中ではアイドル・羽角七菜子が歌っていた。


俺は彼女に夢中になった。その天使のような清らかな微笑み、砂糖菓子のように甘く優しい歌声は、先の見えない不安から俺を救ってくれた。


羽角七菜子は俺の救世主である。女神。天使!


推しなんて軽い言葉で言い表したくない。

羽角七菜子は俺の最推しなんだ!



「先輩……先輩! ちょっと聞いてるんすか!」


「はっ!」


「昼休みもうすぐ終わっちゃいますよ。チャイム聞こえなかったんすか」


楠木くすのき。もうそんな時間?」


「また羽角七菜子のライブ映像。よく何年も同じ映像見て飽きませんね先輩」

「良いものは何度見ても良いんだよ」


「そうっすかねぇ」


横から呆れたように俺のスマホを覗くのは会社の後輩の楠木。


今年新卒の後輩だがフランクな口調でたちまちオフィス内の人気者に……だがその正体は強火なアニメオタク。


「新しい推し見つけましょうよ~。推しのいた生活より推しのいる生活。未来を見守れる方が精神衛生上良いじゃないですか。グッズも続々と出るし」


アニメキャラのキーホルダーを見せてくる。


「見て見て。『魔法猟師ハンターズキン』のリンゴたんの新作アクリルチャーム! 可愛いでしょ!」

「お前リンゴたんが未来を見守ったあげく結婚したらどうする」


「相手を殺します」

「精神衛生上良くないだろ」


「でも不毛じゃないですか。もう彼女が更新・・されることなんてないのに」


「……」


羽角七菜子は六年前、二十四歳という若さでこの世を去った。

皮肉にも、俺が彼女に一目惚れした年での出来事だった。

ストーカー化したファンによって、彼女は背後から背中を刺され死んでしまった。


あれから六年。


彼女が生きてれば三十歳。

俺は今年で彼女と同じ二十四歳になる。

いつの間にか羽角七菜子の年齢に追いついてしまった。



「ていうか先輩最近クマやばくないすか。四六時中ライブの観すぎで不眠症ですか」


「んなわけあるか。まあ寝れるんだけど、疲れがとれないんだよ。最近頭痛腰痛胃痛とひどいし、肩こりはするし髪は抜けるし」


「それけっこうヤバいんじゃ……」

ドン引きの楠木。


「それに先輩少し痩せましたよね? 心なしか生気もないし……大丈夫すか。ライブの観すぎで羽角に命吸われてるんじゃ」


「んなアホな~」


しかし最近の不調の多さはさすがに不安になる。

俺、どこか悪いのではないかと。


「あ、そうだ先輩。俺の知り合いでいい治療する奴いるんですよ。なかなかの名医? で謎の不調もそいつの治療にかかれば治るとか」


楠木はメモに地図と住所を書いて渡してくる。


「とにかくそこ行ってください! 何か原因がわかるかも!」



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