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探偵助手、渡村真実

遺言書の暗号

作者: 白酒軍曹

時間のある方は、登場人物と一緒にお楽しみ下さいませ。

 私は渡村真実(とむらまみ)23歳、探偵助手です。私達は今、事務所でテレビを見ているところです。

 私の他には、この新家探偵事務所の迷探偵、新家宗次(にいやそうじ)先生45歳と、先生の元後輩、と言うより、先生が元先輩の公安の警察官、秋久保芳香(あきくぼほのか)さん年齢は先生以下私以上の、お二人が居ます。


 今はお昼時で、私と先生が宅配を頼んだピザが届いたタイミングで、芳香さんが勝手に監査にいらっしゃいました。決してきっとサボリではありません。


 今テレビでは、お昼のワイドショーをやっており、番組の内容は今話題の“暗号”についてで、コメンテーターが「あーでもないこーでもない」と喋っているところです。

「まったく面倒な事を。資産家の遺産相続なんて揉める要素しか無いのに、敢えてこんな暗号を遺すなんて」

 芳香さんが仰いました。揉めるかどうかは知りませんが、確かにもっと素直な遺言書を残して置いてあげれば良いのにと思います。

「先生、この暗号解けませんか?」

 私は先生に聞きます。先生は腕を組み、首を傾げて仰いました。

「ワトソン君、そもそも俺はこの話詳しくないんだ」

 呆れます。全く呆れます。ネットではバンバン推理が飛び交っていますよ。

「先輩、テレビ見て下さい。フリップに出ています」

 私の方を向いていた先生に、芳香さんがテレビを見るように言い。スマホで画面を撮影しました。

「何だ、チョロチョロ画面切り替えやがって! 良く見えないじゃないか!」

 コメンテーターの発言に合わせてカメラを切り替え、暗号ではなくコメンテーターの顔ばかりを映す番組に、先生はお怒りの様です。

「先輩、どうぞ」

 芳香さんが、先程スマホで撮影した画像を先生に見せました。

「でかしたコロンボ!」

 先生曰く、芳香(コロン)と秋久保の保で芳香保(コロンボ)だそうです。



 芳香さんのスマホの画面の暗号はこの様になっています。


 とbはc”ろaぬaほb

 ちeぬe0へc0ろe”

 ほaほaほaほaろe”0へaにb


 番組のフリップは見易い様に3行になっていますが、遺言書の実物が映った映像では、1行で書かれていました。


 今番組では、この暗号が公開された経緯を話しています。先生はそれに耳を傾けてから仰いました。

「ふ~ん、遺族が頭を捻っても解けなかったから、こうして公開して、解いた奴と山分けするって事か。······これさ、皆カネの在り処で話を進めてるけど、本当にカネなのか?」

 私と芳香さんは顔を見合わせました。遺言書に書かれていたら、そりゃあお金の事だと思うじゃないですか。

「悪い悪い、俺が決め打ちが嫌いなだけだ。まあ、無難にカネで間違い無いだろうけど。流石にこの時代に、字面通りの埋蔵金の在り処は無いかな」

 私はその線だと思っていたのですが、時代錯誤ですか、とほほ。



 先生はテレビを消して、机の引き出しからメモ用紙とペンを3本取り出し、スマホの画面を覗き込みます。芳香さんも私も、暗号を解いてやろうと、紙とペンを取りました。

「平仮名とアルファベットと記号と······(これ)はアルファベットの大文字じゃなくて、数字のゼロかな?」

 先生は紙に平仮名とアルファベット、記号、数字と、文字の種類に分けて書き出しました。

「なんだか『ほ』と『a』がめっちゃ多いですねぇ?」 

 平仮名もアルファベットも、其々を並べて読んでみても、全く意味の分からない呪文にしかなりません。おっ、呪文ですよ。

「レトロゲームのパスワードでしょうか?」

 芳香さんが驚いた様な顔をして、先生は冷めた目で見てきます。

「ワトソン君、それはそのゲームでしか通用しないだろう」

 お恥ずかしい限りで御座います。


 ですが、私はめげません。

「ではでは、これはアレですよ! アナグラムです!」

 これは有力でしょう。しかし、お二方の表情は余りよろしくありません。

「平仮名とアルファベットの数は同じだから、その2つはその組み合わせで使うんだろう」

 先生の仰る通りで御座います。


 組み合わせの線で行くとして、しかしながら、そこには例外があるのです。

「数字は『0』だけで、記号は『”』だけ。句読点の代わり······ではないか、連続しているところがある」

 芳香さんが指摘してくれました。これには先生も悩んでおられる様で、良い気味です。



 それから私達は、様々な組み合わせで暗号を並べ、メモ用紙を消費しました。

「アルファベットは、dが抜けて、aからe。何故dが無い?」

 芳香さんはメモ用紙にaからeを書き、dにバツを付けます。それを見た私は、

「dだけ要らない子みたいですね」

 私の言葉に、お二人の眉がピクッと動きました。

「そうだワトソン君! dは要らない、この暗号には使われなかったんだ! それでaからeの5文字、すなわちコレは母音だ!」

 透かさず芳香さんが、その5文字をメモ用紙の右端に縦書きで書き、abcdeに、あいうえおを充てました。助手は私なのに、息がぴったりなのが妬けてしまいます。


 これで“あいうえお”の母音が決まりました。そうなると子音なのですが、

「······平仮名ってそもそも、あいうえおの50音だな。とぃ、はぅ······そのままは使えないか。何か法則が······」

 先生は腕を組んで目を瞑ってしまいました。

「別の言語? アルファベットを母音に充てる考えも間違いなの? ······もうこんな時間か」

 芳香さんはちょっと高級な腕時計を気にしました。一応仕事をする気があって良かったです。



 先生は煮詰まり、芳香さんは綺麗なペン回しを披露してくれています。私は、何も思いつきませんので、アナグラムで遊ぶ事にしました。

 ろ、ほ、に、と···

 ろ、は、ち、ぬ···

 ろ、は、に、ほ···

「······」

 いやいや、まさか。

「······『いろはにほへと』っスか?」

 先生の目がカッと見開き、芳香さんがペンを落としました。

「コロンボ!」

「はい! 先輩!」

 先生が芳香さんにペンをパスし、キャッチした芳香さんは、先程書いた母音の表の上側に、右からスラスラと『いろはにほへと』を書き、『あいうえお』の50音表を埋めていきます。

「『とb』が『み』で、『はc』は『す』か。そうなると、(コイツ)は濁点に使えって事か?」

 表に対応させて、もう少し読み進めます。

「『みずかわ』······みずかわ銀行の事?」

 芳香さんが仰ったみずかわ銀行は有名な大手銀行です。と言う事は、

「じゃあじゃあ、この暗号って口座番号じゃあないですか!?」

 先生が暗号を読み上げ、芳香さんが表から音を拾い、私が書き記し、遂に私達は暗号を解読したのです。



 私達は連絡先を知りません。なので、番組で確認を取るため、先生がテレビのリモコンの電源ボタンを押しました。

『───た方が現れた様です! 暗号の正体は口座番号で、みずかわ240ふ0577508です! 繰り返します! ───』


 誰も何も言えませんでした。

どこで解けました?

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