9話 巫女かもしれない老婆
あれから30分ほど歩かされ、たどり着いたのは古ぼけた神社だった。
こんな森の最奥とも言える場所にあるなんて、どんな神を祀っているのか気になって先輩に聞いてみたが「ん?私も知んない」と返ってきた。鳥居の額束――所謂、鳥居にある、神社の名が書かれている板――も、苔が生えて掠れており、解読も出来ない状態になっている。
「先輩は、俺をここに連れてきたかったんですか?」
「……分からない、私にも。何でだろうねっ」
先輩は晴れやかで、それでも寂しそうに笑った。
俺と先輩は、鳥居をくぐり、境内に入った。ここの神社で何の神様を祀っているのかを調査するために。調査と言っても、そんな大した事は出来ない。何か、境内にあるヒントを探すぐらいしか出来ることはない。
そう思い、探してみても、特に何かが見つかることはなかった。
何と言っても、境内にあるのは、ボロボロの小屋――簡単に言うと、本殿を拝むための場所――だけ。これでは見つかるものも見つからない。
ボロボロの拝殿の扉は壊れており、何か書物――恐らく和綴じ本――らしきものが転がっていた。俺と先輩は好奇心を抑えられず、中に入ることにした。
ギシギシと、歩くたびに鳴るほど木は古くなっている。すると古ぼけた巫女服のようなものを纏った老婆が「くぅらあ!!!」と、活を入られたと勘違いをするほどの声量で叫んだ。
俺と先輩は身構えたが、この神社の管理人かなにかなのだろうと解釈し、素直に謝った。
老婆は案外悪い人ではないらしく、許してくれた。
「して、嬢ちゃんとそこの坊主、名はなんと申す?」
神社の階段を降りようとしたとき、いかにもババアと言った口調で話しかけてきた。
「私は入方 小夜。そこの彼は朝明 晨と申します」
すると巫女姿の婆さんは「朝明に入方……」と呟き、嫌な笑顔を作った。口角が軽く吊り上がり、何かおかしなことでもあったのか、眉も歪んでいる。
「ひっひっひっひっ……」と老婆は魔女のように笑いながら俺と先輩の肩にぽんと手を置き「頑張りな」と震えた声で一言だけ言った。
その後は「ほらっ!帰った帰った!!」と俺と先輩を神社から追い出した。
「あの婆さん、何だったんですかね」
「……昔から仕えてる巫女さんじゃない?」
俺の疑問に先輩はそう答えたが、俺は「そんなまさか!」と否定の言葉で返した。
「案外そうかもしれないよ?」
「ふーん………」とため息のようなものを返答として先輩に返した。
「……それで―――あそこの神社は何を、何の神様を祀ってたんですかね?」
「そうだね……―――海の神様とかだったりしてね」と先輩の冗談半分本音半分といった言い方をした。
「…ほら、海姫伝説ってこの地方であるじゃない?おとぎ話として語り継がれてる、本当に起こったことを元にしてる話」
海姫伝説―――という単語を聞いた瞬間、俺は少し身体に動揺が表れ、肩が揺れてしまった。
「ぇ…えぇ。聞いたことはあります」
「私、あの話に出てくる"海の怒り"って、海を神様として扱ってたって意味だと思うんだ」
そう先輩が言ったとき、図書館で調べていたときを思い出した。
なるほど、神様として扱っていたなんて考え方があったのか。……でもなんでその"巫女"なんかを、余所者なんかに任せる?尚更分からない。
「じゃあ、あそこの神社は、話に出てくる"海"を祀っているかもしれない、ってことですか?」
と俺が言うと、先輩は「そうなるね」と簡単に答えた。
「……帰ろうか」
先輩は宝石のようにキラキラと光る微笑みをこちらに向け、そう言った後、俺の手を引いていった。
そのまま俺と先輩は学校へと1時間30分ほどかけて戻り、危惧していた通り、担任と生活指導に叱られた後、日常へと戻っていった。
―――放課後 写真部の部室にて
「こっぴどく叱られましたね……」
「……そだね」
俺が言うと、先輩は悪びれる様子もなく、ペラペラと雜誌をめくりながら平然と言ってのけた。先輩のそういうところは痺れもしないし、憧れもしない。というより出来ない。
「1時間半ですよ……?」
「……うーん」
こちらを見もせず、適当に答えているようにも思えるその返事は、少し俺を苛つかせた。
俺はため息を付いたが、先輩との対話は諦めていない。
「先輩、冬休みが近いからってこんなこと……」
「……まあいいじゃない。いい思い出になったでしょ?二年の美人の先輩と、学校から脱走して山奥へ!なんて浪漫が溢れ出てお釣りが返ってくるよ」
いい思い出になったでしょ?という先輩の気持ちが、溢れ出、顔に表れていた。
何ていうか、こう、男としての浪漫がないよな……。まあ、先輩といられるなら別にいいんだけど。
「……まあ、はい」と、納得いかないといった気持ちが表れたのか、俺は不貞腐れたような声でそう言った。
読んでいただきありがとうございます。




