7話 海姫
俺は今、一人で学校の図書室にいる。何故か、それは、藤井の言っていた、海姫伝説を詳しく一人で調べるためだ。
喫茶店の撮影――結局せずに帰ったわけだが――の後、海姫伝説のことが気になってきたので、学校の図書室なら細かく記載されている書物があるだろうと思い、やってきたのだ。
のだが。まったく見つからなかったのだ。いや俺が見つけるのが下手とかではなく。
図書室にいる司書?にも聞いてみたのだが、そんなものは置いていない、と一言で済まされてしまった。
のに何故俺が今図書室にいるのかと言うと、海姫、つまり海の巫女という単語について調べているのだ。
残念ながら海の巫女という単語は出てこなかった。が、巫女という言葉については調べられた。
巫女とは、祭典の奉仕、神楽を行う童女。神楽とは、神に奉納するために演奏される、歌と舞。他にも、巫女が穢れを祓う効果があったりするらしい。
以上のことから考えると、海の巫女とは、海浜で歌と舞を"海"に披露し、"怒り"を抑えていただく役割があると考えて間違いなさそうだ。
後気になるのは"海"と"怒り"か……。"怒り"のほうは、津波だとか高潮だとか、海にまつわる自然災害のことを指していると予測できる。
だが、"海"というのが分からない。どうも"怒り"という言い方が、祀られているような言い回しなのが気になる点ではある。
「もうすぐ図書室閉めま〜す」
俺が"海"について考えているうちに、閉館時間が差し迫っていたようだ。
俺は急いで資料を元の棚に戻し、図書室から出た。
すると、目の前には目を血走らせた藤井がいた。
「お前、海姫伝説調べてるって聞いたけど、それは本当か?」
どこからそんな情報漏れたんだよ…。つい1時間前に調べ始めたばっかだってのに……。もしやあの司書か!?司書なのか!?あの司書…藤井に取り込まれて――もとい買収――たっていうのか!?
「いや、ちょろっとな……単語の意味を調べるくらいで…専門的なことは何にも分からんぞ」
「いいや、それでもいい!手伝ってくれ!!」
興奮したその様子に既視感を覚えながらも、今回も逃れる方法を考える。
「いや、ちょっと、部活が忙しくて……」
「土曜日も日曜日もある!!そのときにすればいい!!」
「い、いや〜」
と俺が困り果てていると、後ろから「や」という、なんとも形容しがたい美しい声が廊下に響いた。
「朝明 晨くん…だっけ、君に用があってね。話を遮らせてもらったよ。大切な話だったかな?」
知らない先輩がそう言うと、藤井は餌を求める金魚のように口を動かし、動かないでいた。
「……いえ、別に大切ではないです。…んじゃ、またな藤井」
それから俺と知らない先輩は少し図書室前の廊下から離れ、3階へと上がる階段に辿り着いた。
「困っていたみたいだったからね。助けさせてもらったよ。……余計なお世話だったかな?」
「あ……いえ、助かりました。……ところで先輩の名前は…?」
俺がそう言うと、知らない先輩は少し俺が名前を聞いたことに驚いたようで、軽く目を見開いていた。
「私も少し自惚れてたかな…。この高校に、私のことを知らない人はいないと思っていなかったのだけど………改めまして、私の名前は白波 遠音。二年生の人気者、入方 小夜の従姉妹だよ」
――写真部の部室
「ホントにこの人先輩の従姉妹なんすか?」
「…認めたくないけど、それは事実だ。彼女は確かに私の従姉妹にあたる親戚だよ」
俺の猜疑心にまみれた質問を、先輩はそう回答した。二年の白波 遠音は確かに入方 小夜の従姉妹だ。と確かにそういったのだ。にわかには信じ難いことだったが、彼女たちが纏っている雰囲気からなんとなく理解することは出来た。
「ほらねっ!私はちゃんと君に真実を告げたんだよっ!」
こういう子供っぽいところも、少し似ている気がする。
今こうして見てみても、二人はちっとも似ていない。従姉妹というのもあるのだろうけど、それにしても似ていない。両方継いだ血が違うのだろうか。
「…で、なんで遠音と晨くんが一緒に来たの?しかも部活の終わりごろに」
今度は先輩からの質問で、なんともまあ答えづらいものだった。その質問には先輩の従姉妹――遠音先輩――が堪えてくれた。
「いやね?彼が困り果てていたところを、私が間に入って、バシーン!とまるでヒーローのように救ってあげたんだよ。その後に私が、さーちゃんの従姉妹だーって言ったら、ヘビに噛まれたみたいなしかめっ面をしてたから、さーちゃんのもとへと連れてきて、それを証明しに来たのさ!……どう?さーちゃん、分かったかな?」
と早口気味に、先輩をまくし立てた。
「……分かった、分かったよ!!十分今の説明で、私には伝わったよ!!」
先輩は顔を軽く紅潮させながら、そう言った。すると遠音先輩が先輩の耳元に近づき、何か言葉を囁やいた。するとみるみる先輩の顔がさらに朱く染まっていった。遠音先輩がなんと言ったかは、俺に聞こえなかった。
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