6話 全身の穴という穴から出てくる疲れ
「……いなくなりました?」
「…うん。もう大丈夫、出てきていいよ」
そう先輩に言われ、俺は机の下から這い出た。藤井に追いかけ回され、辿り着いた先がここ、写真部の部室なのだ。なんで俺は藤井に追いかけられてたかは、走っている内に忘れてしまった。
「君はモテモテだね」先輩はそう言い、俺をからかってくる。変わらない調子に安心しつつも、あんなやつにモテても嬉しくない、という気持ちが漏れ出てくる。
藤井め。シャトルラン最下位の俺に苦行のような距離を走らせ、そして尚、俺に労働させようとする。生きる鬼畜だ。畜生め!
全身の穴という穴から出てきそうな疲れを我慢しながら、今日はいつもの席ではなく、先輩の正面に座る。
「何だい?今日は正面に座る気分かい?」
「ええ、そうですね」と返し、自然と鞄の中から本を取り出す。今回の小説は、恋愛小説にした。
すると先輩が「ねえ」と声をかけてきた。俺は先輩の方に顔だけ向け、返事をする。
「今日は、本当の写真部の活動をしてみない?」
先輩はそう提案した。俺はまるで分からないという反応をしてみる。
「暇つぶしだよ、暇つぶし。……たまにはいいでしょ?」
「……そう、ですね。そうかもしれない」
俺と先輩はすぐに準備を始めた。準備といっても、部室のカメラを探すくらいのものだけど。
案外カメラはすぐ見つかった。すぐ見つかったけど、その代償のように真っ白な埃を被っていた。まあ、長い事使っていないだろうから、仕方はないとは思うけど。
被っていた埃を払い、そのカメラを持ち出し、俺と先輩は部活動をするべく、部室の外へと繰り出すのであった。
外と言っても、学校の外まで出るわけにはいかないかないので、学校の敷地内に限って撮影することになる。学校といえば、という所で、良い写真が撮れそうな場所などない。せいぜい花壇といったところだろう。
そう先輩と話し、俺と先輩は花壇へと向かった。
花壇には、パンジー、ビオラ、コニファー、ヒューケラと、多種多様、様々な花が植えられていた。
「写真を取るにはちょっと味気ないね」
「……ですね」
もう少し撮りがいがあるのだと思ったのだけれど。と先輩は言い、後ろを向いて歩き出した。「どこに行くんですか」と言うと「撮影スポットを探しに行くんだよ。言っとくけど、君にも手伝って貰うんだからな?」と返された。
「学校の敷地内に撮影スポットありませんよ。廊下は汚いし、外は土臭い、おまけに花壇は味気ない」
そう言うと「そうだね」とだけ俺の方を向いて返した。
「やっぱり、学校の外じゃないと…いい写真は撮れないと思います……むしろ学校が質素すぎるんすよ…」
ほら、諦めてブシツニ帰りましょう。先輩にそう言おうとすると、先輩はにやけ顔で「外ねぇ……」とこちらを向いて言う。続けて
「外に行けばいい写真が撮れる……じゃあ、外に行かない手はないね。ほらっ、外へ行くよ」
と無茶苦茶なことも言い出した。だが、こうなったらもう止められないことを俺は知っている。
潔く諦め、俺は外へ出て写真を撮る、という思考にシフトした。
「喫茶店でも撮りにいきますか?」
俺がそう提案すると、先輩は「喫茶店……」と呟いた後、何か思案し「いいね」と俺に返してくれた。
俺が言った喫茶店は、駅の道路の向かいに建設されている。最近出来た喫茶店らしく、平日でも割と人が来るらしい。絶え間なく、というと少し誇張しているらしいが。ちなみにこの情報を手に入れられたのは、俺が喫茶店の店長と親戚だからだ。
確か、細かく言うと母方の叔父だったと思う。
それから俺と先輩は喫茶店へと写真を撮るために足を進め、大体15分ほどで到着したのだった。明かりの点いていない真っ暗な喫茶店へと。
「ここだね」先輩が言うと「ここですね」と俺が言う。「ねえ」と先輩「はい」と俺。
「閉まっ、てるよ、ね?」
「閉まってますね」
そういや定休日だっけか。
「…先輩もしかして、営業してる様子を撮りたかった感じですか……?」
すると先輩は明らかに落胆した様子で「そう…だね………」と答えた。ちょっとまずったか?と俺は思いつつ、先輩のテンションを上げる方法を考える。どうしようか。
先輩のテンションの上げ方なんて、あいにく俺は知らないし、思いつく可能性もほとんどないだろう。
藤井から逃げ切ったはずなのに、あの時のような疲れがぶり返してきた気がしてくる。だらだらと穴から疲れがまた溢れ出てくる。またグラスに疲れが注がれたというか、ホースから疲れが出てきたというか。
「………帰りましょうか」俺がそう切り出すと先輩は「そうだね」と返し、俺と先輩はどちらからともなく歩き出したのだった。
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