表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海姫  作者: 乱 乱太郎
3/14

3話 デート

 あの日は、午後からひどい雨が降った。小夜(さよ)と僕は、近くにあったコンビニに駆け込み、傘を買った。


 傘を打ち付ける雨。雨が降ったからなのか、少し肌寒く、息を吐くと、白くなるほどだった。

 あんなにいた人混みも、今では半分以下ほどしかいない。


 午前はファミレスで食事をとり、街中を散策していた。そんな中降った雨だった。

 晴れますかね。と僕。晴れないだろうね。しばらくは。と小夜。

 自然と会話は少なくなり、ただ、どこに向かうかも分からぬまま歩いていた。


「先輩は、雨、嫌いですか?」何気なく僕は聞いた。


「いや。むしろ好きだよ」


 小夜はそういった。どんな意味が含まれていたかだなんて、その時は考えなかった。でも、今なら分かる。


 雨が降っていたら、何か、何故か気分が暗く、嫌になる。気が滅入る。

 でも小夜の本質(こころ)は、ずっと暗くて嫌で、気が滅入っていた。雨なんて関係なく。

 だからそんな、人と()()になれる雨が好きだったんだろう。人と違うのはとても怖いから。違うのが怖くない、そんなことを言う人も、どこかでは同じ人と談笑している。


 でも小夜は、小夜だけは違った。小夜の深淵(こころ)だけは、同じ人なんていなかった。


「先輩、海、見に行きます?」


「…うん」


 微笑だった。子猫や子犬に向けるような。それも僕に向かってではなく、地面に。何か、憂いを帯びた表情だった。


 それから僕は、ただ黙々と歩き続けた。ただの一度も歩みは止めなかった。


パラパラ、パラパラ、パラパラ、パラパラ、パラパラ


 傘を打ち付ける雨の音だけが耳に残っている。喧嘩をしたわけでもないし、何かがあったわけでもない。何もなかったのだ。何も。

 だからこその、沈黙。

 沈黙と静寂は違う。沈黙は意図的であり、能動的と言って良い。静寂は自然に生まれるもの。例えば、木々のゆらめき、鳥の声。そういった自然の声だけが聞こえている状況を、静寂というのだと僕は思う。


 海が見えてきた。大雨の割には海は荒れていない。目の前までとはいかないだろうが、少し近寄る程度なら出来るだろう。その程度だった。

 辺りはどんどん寒くなっている。さっきよりも吐いた息が白い。


 小夜のほうを見ると、眼を濡らしていた。少し悲しそうな顔をした小夜は、一歩、また一歩、着実に確実に前に歩いていく。

 頬は朱に染まっており、鼻も耳も朱く染まっている。首に巻いているマフラーも赤く、際立っている。


「どう、ですか?先輩が初めて海に来た感想は」


「このまま、飲み込まれてしまいたいな」ぼそっと、何かに呟くようにそう言った。


 小夜はそのまま何かを待っているかのように、海の前に立ち尽くしている。


「……先輩?」


 疲れ切った。そんな言葉が似合う声で、話しかけた。消えかかっているような声で。

 返事はない。


「―――っ。帰ろうか」突然小夜は僕の方を向き、一言だけそう言った。



―――月曜日 放課後 写真部の部室にて。

「先輩、土曜、どうでした?」


「んー?どうって?」


「楽しかったですか?ってことです」


「ん。まあね」


 曖昧であやふやな返しをされてしまった。まあいい。俺はいつものように雜誌を広げる。

 この雑誌には、秋料理の簡単レシピが書いてあった。今の季節は冬であり、雑誌も昔のものだから、役に立つことは今のところないだろう。


(しん)君」


「はい」急に呼ばれたから驚きはしたが、俺は態度を崩すことなく、返事をした。


「…また、行こうね、海。今度こそ、晴れの日に」


 ついこの間地面に向けられていた微笑が、今は俺に向けられている。この微笑が何を意味しているのか。俺にはさっぱり分からなかった。


「……はい」


 何かの力に引っ張られたかのように、気づけば返事をしていた。

 はたして()()は魅力か、妖力か。


 また誘ってくれるってことは、楽しかったってことになるのだろうか。でもそれは俺の理想だし、全く別のことが目的で、先輩は俺を誘ったのかもしれない。

 俺のことを良く思ってくれているのは間違いないだろう。



 季節で言えば、俺は春が一番好きだ。新しい出会いとか、そんな下世話な話じゃなく。桜は春にしか咲かないから。

 桜の樹の下には、その妖艶な美しさから、死体が埋まっている。という話がある。その死体は、猫なり、犬なり、蟲なり、人なり。

 生命(いのち)を吸って生えているから、人を惑わせるような美しさがあるのだと。


 桜が()()なら、人の美しさも、なにかの生命(いのち)を吸っているのだろうか。先輩も、そうなのだろうか。


 なんて、幻覚じみたことを最近よく考える。何か、精神にストレスがかかっているのだろうか。無意識の内に。

 この間の先輩とのデートからだ。プレッシャーがかかっていたから、そこからだろうか。


 あのデートはまるで、そうまるで、


鬱の結晶体のようだった。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ