13話 海月
――1993年 1月4日 月曜日
翌日10時。藤井は俺の家に来た。確かに手紙に4日に来るとは書いてあったが、本当に来るとは思っていなかった。それほど藤井の海姫熱(?)が熱いと言うことなのだろう。
だが俺にはどうしようという意思もない。興味はないし、春休みくらいゆっくりしたい。そう藤井にはっきりと伝えると、藤井は俺達ならできるの一点張り。これはどうしようもないと諦める訳にもいかず。
どうにもならないとお互い(多分俺だけ)が諦めそうになったその時、先輩は現れた。「何してんのさ」という一言で。
藤井の後ろから現れた先輩は冬休みが終わりそうだから遊びに来たという、気持ち藤井と似たような理由で来ていた。そして俺は藤井に住所を教えた覚えはない。
類は友を呼ぶというやつで言えば、俺もその類という事になるのだろう。非常に不本意ではあるが、受け入れるしかない。
それは兎も角、俺は咄嗟に先に先輩と約束していたと適当な嘘を吐き、藤井を撒いた(この表現は適切ではない)のであった。
藤井と関わると碌なことが起こらないことは、これまでの経験上、理解しているつもりだ。あいつは好奇心に正直すぎる。
「良かったの?友達でしょ?」
「……住所を教えてもいないのに家に来る時点でお察しです!」
そう言うと、先輩は顔ごと目を逸らした。俺は先輩にも住所は教えた覚えはない。と言うか間違いなく教えていない。
部活でも、そこまで踏み込んだ問答はしないし、無理に踏み込もうとも思わない。
何か訳があるんだろうと俺はそう思い込むことにした。
ふぅと息を吐けば、まだ真冬なんだと感じられる白が口から出てくる。手と手を擦り合わせ、手を暖める。
「まだ寒いね……」「ですね」なんてベタな話をしながら俺達は行く先も決まらず、歩き続けている。
どちらからともなく、気づけば俺達は海へと向かっていた。
少しずつ海のさざ波の音が大きくなる。やがて、海が直ぐ目の前までに迫る。もしくは俺が海に迫ったのかもしれない。
「昨日はあんな大雨だったのに…綺麗なものですね…」
「……そうだね」
噛み締めるように、微笑むように先輩はそう言った。屈んで海水に触れれば、やはり真冬だから、とても冷たい。
「海の満ち引きが、月があるから起こるなんて、ロマンチックだよね」
いつもの悪戯っぽい顔で、そう言う先輩に俺は「急になんです?」と微笑しながら言った。
「ま、そう言う私も、あんまりよく分かってないんだけどね。恋人みたいで素敵だねって話。」
先輩は、くしゃっと笑った。
「海と月がですか」
「うん」
「へえ…そりゃ、ロマンチックですね」
俺は海へと歩み寄る。そして、深呼吸をして座り込む。
「……冬の海って、寒いし冷たいし…良いとこないですよね」
俯きがちに先輩は言う。
「そうかな…私はそうは思わないな。ほら、何ていうか、神社で正月を迎えた時みたいな気持ちにならない?冬の海って」
「…寒いけど達成感があって、新年に何となくワクワクするあの感じですか?」
「そうそれ」
「……ふっ、ふはははは!先輩っ、やっぱり変わってますね!先輩のそういうところ、良いと思いますよ」
笑いながら俺がそう言うと、先輩は段々と顔を赤くさせて、悔しそうな、としか言えないような顔をしながら無言で俺を睨み続けていた。
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