12話 夢現
大雨がタップダンスする、というより、地団駄を踏んでいるとも言えるほど激しく降っている。吐いた息は白く着色され、指先は赤く染まり悴んでいる。
荒れている海を横に、俺は歩いていた。海辺を通りかかってから10分弱、雨は弱るわけもなく、俺を嬉々として打ち続けているようにも感じられる。
まだ昼過ぎのはずなのに薄暗い。その暗さから街灯までもが点いてしまっている。水溜まりは、歩道のほとんどを埋め尽くしており、その不快さといっては、これ以上ないとも言えるだろう。
俺がそう思うほどの水溜まりは、濁りきっており、その不快さを更に加速させていた。
そんな中、俺はため息を吐きつつ、足を進めるが、無事に着く気がしない。靴の中身は間違いなく濡れている。そして、足首まわりのズボンも汚れてきている。
そもそも今の状況を無事と言っていいのかすら怪しいところだ。
気分が下がっていくのを感じながら歩いている内に、本屋まで着いてしまった。約20分といったところか。無事に着いたと言ってもいいのか、俺には分かりかねないが、そんなことはもう気にせず、本屋の店内を闊歩する。
小説コーナーに入ると、そこには白波 遠音がいた。
「げ」
と思いつつ、俺は一歩、二歩と確実にゆっくりと下がってゆく。そそくさとバレない内に逃走(店内で逃げるために走るのはよくない)しようとしたところで、その試みは潰えてしまうことになる。
「逃げようとしてるみたいだけど、声に出てたよ?げって」
と白波先輩に右肩を捕まれ、引き止められてしまった。力を入れても抜け出せないことに驚きながらも、会話が通じるのか試みる。「な、なな、何でここに……」と聞くと、ニヤついた顔で「何?もしかして小夜がいたほうがよかった?」と嫌なところをついてきた。
気が済んだのか、ケロッとした顔で
「いやね?警報かってくらい雨降ってるでしょ?こんなの、外に出ないわけには行かないでしょ!」
「……はあ」と納得のいかないような表情を浮かべると白波先輩は「かぁー、君も大概じゃあないか」と子供みたいなことを言い出してしまった。
「……何しに来たんですか」
「本屋なんだから本を見に来たに決まってるだろう」
俺は軽く会話しようと気の使った質問をしたのに、白波先輩はそれの意をまったく汲まずに、会話をぶった切ってしまった。
やっぱり気が合わない。会話してるだけで気分を害するなんて、凄い才能を持ち合わせた先輩だ。
「……じゃあ、何の本を見に来たんですか」
あからさまに嫌そうな顔を見せつけ、もう一度形を変えて質問をぶつける。
「それを聞いて君はどうするの?」と、どうしようもない事を聞き返される。こういうのを反りがあわないと言うんだろう。
「…………」
お互いが無言だからか、雨の音が鮮明に聞こえる。雨が地面に叩きつけられる音が。はためく布の音が。ザーザーと。バサバサと。
「ねえ」
「どうしてこの本屋は、警報級の雨でも開いてるんだろうね」
ハッと目を覚ました。どうやら俺は林檎を食べて、机に突っ伏したまま寝てしまっていたらしい。時計を見れば、15時を過ぎており、外の雨は気持ち弱くなっている。それでも両親はまだ帰ってきていないらしい。
なんとかしてこたつから抜け出し、林檎を盛り付けていた皿を片付ける。片付ける終わると身体がどっと重くなり、俺は二階へと颯爽と上がり、ベットへ飛び込んだ。
そこで俺の記憶は途絶えている。気が付けば22時をまわっていた。俺は喉が乾いている、というより枯れているということに気が付き、水を飲むために取り敢えず一階へと降りた。
すると、両親はもう帰ってきており、母さんは晩御飯で使ったであろう皿を洗っていた。
「おかえり」
「ただいま」
他愛もなく挨拶を交わした。
ふと、リビングの机に置かれていた手紙のようなものに気が付いた。俺はそれについて母さんに聞いた。母さんはそれは俺宛のものだと言った。
ビリビリと口を破き、中身を取り出せば、それはすぐに藤井のものだと理解できた。何故か、それはでかでかと真ん中に藤井と書いてあったからだ。鬱陶しいとも言えるほどの主張にふらつきながらも、俺はその中身を開いた。
その中身とは、やはり海姫関連のものであった。その内容とは、ざっくりと要約すると、冬休みももうすぐ終わるので資料を調べにでも行かないか、といったものだ。勿論俺は行く気はない。
と俺は今まで当たり前のようにスルーしていたことに気が付く。
「なんで藤井は俺の住所を知ってるんだ?」
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