表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海姫  作者: 乱 乱太郎
11/14

11話 いつかのあなたへ

 ―――茂みの中をただ歩き続ける。服には、枝やらなんやらが引っかかって穴だらけになっている。服と同様、肌も傷つけられている。精神も摩耗しており、とてもじゃないが、正常とは言い難い。

 息が切れても、精神が擦り切れても、たとえ肌を切り裂かれようとも、歩みを止めることは出来ない。遠い過去へと想いを馳せ、それでも、それだからこそ、歩みを止めることはない。


 その瞳は明後日の方向を向いている。全てを投げやったような、そんな失望感を感じる生気のない瞳。ただただ前を向いている。失望感に上書きするように。口の中は乾いており、ろくに食べ物も口にしていない。

 きっと、どんな風が吹いても、雨が降っても、雪がちらついても、何も変わりはしないのだろう。

 ずっと一人で、失望感を背負って歩き続けるのだろう。彼は地獄に生きている。


 何があっても満足しなさそうな、薄気味悪い、表情を張り付けたようなその顔は、ピクリとも動かず、燦々とした過去へと想いを馳せていた―――



――1993年 1月3日 日曜日


 窓の雨粒の中にある景色を眺める。今日は警報並の大雨が降っている。昨日までの晴れ晴れとした空が嘘かのように、雨は空からゴウゴウと音を鳴らして落ちてきている。


「後1週間もすれば、冬休みも終わりか……」


 ふと思い、誰もいないリビングで呟いた。両親は同じ職場で働いており、今日、両親は雨で来れない同僚だかなんだかの分の仕事もするために、会社へと赴いているらしい。両親が呼ばれたのは、多分家から会社への距離が短いからだろう。


 俺の冬休みの課題はもう終わっている。だからこそというか、時間がすり減っていくのをひしひしと感じる。リビングには時計の秒針が進む音が鳴り響いている。

 親戚の集まりもなんとか無事終わり、一日たった。生憎予定は何一つない。することと言えば、学業の予習復習といったところだろうか。改めて止まりそうもない雨が振り続ける外を眺める。

 ふと立ち上がり、キッチンにある冷蔵庫の冷凍庫を開け、林檎を取り出す。乙女の頬の如く赤い色をしている林檎は、いまにも齧りつきたくなるほどだ。


 件の林檎を一口サイズにひし形切りにし、皿に軽く盛り付け、テレビの前にあるこたつの上に置く。誰かが見ているわけでもなく、誰かに振る舞うわけでもないが、形というのは大事である。

 シャリシャリと音をたて、林檎を食べる。こたつの温かさをじんわりと感じながら、雨は良いものだ、と思う。


 雨が好きだ。梅雨とか時雨とか秋雨とか。特に夏の雨には何か心にくるものがある。俗に青春と言われるものを感じているのかもしれない。


 林檎を食べ終わったところで、机に突っ伏す。液体のようにとろりと身体が溶けて、窓の隙間から外へ出て雨と混じる。そんな妄想をする。したところで本当にそうなるわけではないし、意味があるわけでもない。

 それでも、俺は意味のないことにも、意味があると思う。矛盾している話だが、心からそう思っている。明日の話、友人との会話、他愛もないと言われることにこそ、大切なものがつまっているのだと思う。

 それと俺の妄想に因果関係があるかと言われれば、なんとも言えないが。


 ため息を吐き、リモコンを手に取り、テレビを点けた。うちのテレビは36型と言うやつで、それなりに大きく、面積体積をともにとってしまう。だから俺はあまり好きではないが、最近のものではあるらしい。


 ふと気になってテレビを点けたはいいものの、日頃からテレビを見ないため、どの番組にすればいいかが分からない。色々と迷い始めたところで俺はテレビを消した。


 雨はまだ止まない。


 何を思ったのか、俺は上着を軽く羽織って、外へ出る準備をした。リビングの電気は点けたまんまで、玄関に置いてある傘を取り出す。鍵を開けて出たそこは、普通にめちゃくちゃ大雨だった。まあ窓から見てたから理解はしていたけど。

 眺めるのと実際体験するのとでは、大きな差があると改めて実感できた。


 軽く息を吐いただけで、息が白く染色されるほど寒い。俺はそんな寒い外へ傘をさし、歩みだした。

 バシャバシャと音を立てて歩く。スニーカーしか持っていないため、すぐに靴に水が入ることを予測し、一応タオルはバックに詰めて持ってきている。


 単なる好奇心だけで外へ出てしまったために、目的地が定まっていない。足をゆっくりと進め、どこに行くか、選択肢を絞る。

 喫茶店、駅前、海辺、本屋、この四つまで絞ったところで、道の分岐点へと辿り着いてしまった。右は喫茶店と駅。左は海辺と本屋。俺は日頃からあまり行かない左を選んだ。


 その後、大雨のため海辺は立入禁止と書かれている看板を見かけたため、俺は本屋へ行くことにした。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ