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海姫  作者: 乱 乱太郎
10/14

10話 親戚の集まり

――1992年 12月31日 木曜日


 あの脱走からニ週間。学校は冬休みになり、俺と先輩は少し疎遠になった。

 俺はもうとっくに課題も終わり、年末を満喫している。明日は祖母の家に挨拶に行くことになっている。今年は割と満喫できた年末だったと、自分でも思う。


 先輩からも、藤井(ふじい)からも、後ついでに白波(しらなみ)先輩からも、何も接触はなく、平和な年末を送れている。


 ちなみに今は19時。晩御飯の年越し蕎麦ももう食べ終わり、ついこの間出したこたつでゆっくりしている。


「明日も早いしもう寝ようかな……」


誰もいない家のリビングで一人呟く。

 両親は家を今空けており、用事とやらについていかなかった俺だけが家に取り残されている。詳しく聞かなかったので両親の事情は何も知りはしないが、ろくな事ではない事だけは分かっていたので、ついて行かなかった。


 何か心に取っ掛かりがある。ささくれのような、例えば血液の逆流を防ぐ、弁のような。

 と言っても、心当たりなんて、先輩と最近あっていないことぐらいしかない。消去法で、先輩のことが気掛かりなんだろう。


 俺は深く息を吐いた。


こたつから嫌々足を出し、リビングの電気とテレビも消し、寝る準備を始める。2階へと上がり、疲れが足を引っ掛けたかのように、自室のベッドへと俺は飛び込んだ。



――1993年 1月1日 金曜日


 俺はあのまま眠っており、気がつけば新年を迎えていた。新年にそれほど特別感も感じていないし、いいんだけど。


 起きてリビングに行けば、両親は帰ってきており、机にはおせちが広がっていた。おせちのに入っているものはほとんど苦手だ。

 だから、俺は伊達巻と餅くらいしか食べられない。


「おはよう」


 両親に朝の挨拶をする。リビングに置いてある時計を見、今の時刻が7時頃であることを確認する。


 40分ほどで、家族三人でおせちを平らげ、祖母の家へ行く準備を軽く始めた。準備と言っても、俺がするのは腕時計をつけるくらいのものだが。

 一応本を肩掛けのバックに入れ、2階の自室へと戻る。なにせ、祖母の家へ行くのは正午頃なので、あまり焦る必要はない。


 そう思い、またベッドへと飛び込むとまでは言わずとも、沈む。俺がまぶたは閉じた。

 開けたときにはもう11時40分になっていた。窮地に追いやられ、むしろ逆に気持ちが落ち着き、ゆっくりと支度を始めていた。


 支度は2分も経たずに終わり、俺は1階へと続く階段を降りる。玄関から外へ出て、両親とは特に会話もせず、欠伸をしながら車に乗る。

 祖母の家へは、20分もかければ着くと言った距離で、たまに家族で顔を見せに行っている。


 車窓から外を眺める。


刹那、女の人影が見えた――気がした。霊的なものではないが、少なくとも生気は感じないといった、生きながらに死んでいるような。そんな雰囲気を纏った女を見た気がした。


 そんなことは基本杞憂にすぎない。年末年始の過度な疲れで幻覚でも見たんだろう。


 それにしても、心做しか、先輩に似てた気がしないでもない。

 やはり、どう考えても幻覚だろう。人は、見たいようにものを見る性質があると言うし。その性質を知らなかったとしても、俺が見た光景は、あまりにも現実から離れすぎていた。


「着いたよ」


 俺が幻覚について考えている内に、いつの間にか祖母の家に着いていたらしく、母は心此処にあらずの状態の俺に声をかけてくれていた。


 俺は祖母の家へ入り、新年の挨拶を済ませ、お年玉を受け取った。毎年、祖母の家でもおせちを食べることになっている。それでもやはり俺は、伊達巻と餅ぐらいしか食べられないので、大して腹は膨らまない。


 少しすると、親戚も祖母の家へとやってきた。


「久しぶり、叔父さん」


 喫茶店を経営している叔父さんも来たようなので、俺は挨拶を交わした。


「……どう?喫茶店の経営って」


「新年早々仕事の話なんて甥っ子にしたくねぇ〜」


 純粋無垢な質問は適当に流されてしまった。今度飯でも食いに行くよ、となだめるための言葉を叔父さんにやり、本格的におせちを食べにかかる。

 実はおせち以外にも料理は用意されており、例えば、お寿司だとか、適当な惣菜だとか。…多分俺のおせちの好き嫌いが激しいからだ。


 長年、何故かおせちは食べにくいものが多い気がしている。まあそれはそれとして。


「……姉さん、俺の好きなもんを狙って取ってってるだろ?」


 叔父さんが母さんに若干切れている。それに対して母さんは「……」と無言でさっさと取っている。なかなかにこすいことをしている。


 母さんと叔父さんが喧嘩している中、父さんは飯も食わずに軽く本を読んでいる。こういうのを見れば、性格が出ていると思う。


「…父さんは何で姉弟喧嘩を前にして本を読んでられるの?」


「……昔から雑音があるほうが集中できるんだよ」


「ひ…どいな……」


 姉弟喧嘩が続く中、俺は淡々と寿司をつつき続けた。

読んでいただきありがとうございます。

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