10話 親戚の集まり
――1992年 12月31日 木曜日
あの脱走からニ週間。学校は冬休みになり、俺と先輩は少し疎遠になった。
俺はもうとっくに課題も終わり、年末を満喫している。明日は祖母の家に挨拶に行くことになっている。今年は割と満喫できた年末だったと、自分でも思う。
先輩からも、藤井からも、後ついでに白波先輩からも、何も接触はなく、平和な年末を送れている。
ちなみに今は19時。晩御飯の年越し蕎麦ももう食べ終わり、ついこの間出したこたつでゆっくりしている。
「明日も早いしもう寝ようかな……」
誰もいない家のリビングで一人呟く。
両親は家を今空けており、用事とやらについていかなかった俺だけが家に取り残されている。詳しく聞かなかったので両親の事情は何も知りはしないが、ろくな事ではない事だけは分かっていたので、ついて行かなかった。
何か心に取っ掛かりがある。ささくれのような、例えば血液の逆流を防ぐ、弁のような。
と言っても、心当たりなんて、先輩と最近あっていないことぐらいしかない。消去法で、先輩のことが気掛かりなんだろう。
俺は深く息を吐いた。
こたつから嫌々足を出し、リビングの電気とテレビも消し、寝る準備を始める。2階へと上がり、疲れが足を引っ掛けたかのように、自室のベッドへと俺は飛び込んだ。
――1993年 1月1日 金曜日
俺はあのまま眠っており、気がつけば新年を迎えていた。新年にそれほど特別感も感じていないし、いいんだけど。
起きてリビングに行けば、両親は帰ってきており、机にはおせちが広がっていた。おせちのに入っているものはほとんど苦手だ。
だから、俺は伊達巻と餅くらいしか食べられない。
「おはよう」
両親に朝の挨拶をする。リビングに置いてある時計を見、今の時刻が7時頃であることを確認する。
40分ほどで、家族三人でおせちを平らげ、祖母の家へ行く準備を軽く始めた。準備と言っても、俺がするのは腕時計をつけるくらいのものだが。
一応本を肩掛けのバックに入れ、2階の自室へと戻る。なにせ、祖母の家へ行くのは正午頃なので、あまり焦る必要はない。
そう思い、またベッドへと飛び込むとまでは言わずとも、沈む。俺がまぶたは閉じた。
開けたときにはもう11時40分になっていた。窮地に追いやられ、むしろ逆に気持ちが落ち着き、ゆっくりと支度を始めていた。
支度は2分も経たずに終わり、俺は1階へと続く階段を降りる。玄関から外へ出て、両親とは特に会話もせず、欠伸をしながら車に乗る。
祖母の家へは、20分もかければ着くと言った距離で、たまに家族で顔を見せに行っている。
車窓から外を眺める。
刹那、女の人影が見えた――気がした。霊的なものではないが、少なくとも生気は感じないといった、生きながらに死んでいるような。そんな雰囲気を纏った女を見た気がした。
そんなことは基本杞憂にすぎない。年末年始の過度な疲れで幻覚でも見たんだろう。
それにしても、心做しか、先輩に似てた気がしないでもない。
やはり、どう考えても幻覚だろう。人は、見たいようにものを見る性質があると言うし。その性質を知らなかったとしても、俺が見た光景は、あまりにも現実から離れすぎていた。
「着いたよ」
俺が幻覚について考えている内に、いつの間にか祖母の家に着いていたらしく、母は心此処にあらずの状態の俺に声をかけてくれていた。
俺は祖母の家へ入り、新年の挨拶を済ませ、お年玉を受け取った。毎年、祖母の家でもおせちを食べることになっている。それでもやはり俺は、伊達巻と餅ぐらいしか食べられないので、大して腹は膨らまない。
少しすると、親戚も祖母の家へとやってきた。
「久しぶり、叔父さん」
喫茶店を経営している叔父さんも来たようなので、俺は挨拶を交わした。
「……どう?喫茶店の経営って」
「新年早々仕事の話なんて甥っ子にしたくねぇ〜」
純粋無垢な質問は適当に流されてしまった。今度飯でも食いに行くよ、となだめるための言葉を叔父さんにやり、本格的におせちを食べにかかる。
実はおせち以外にも料理は用意されており、例えば、お寿司だとか、適当な惣菜だとか。…多分俺のおせちの好き嫌いが激しいからだ。
長年、何故かおせちは食べにくいものが多い気がしている。まあそれはそれとして。
「……姉さん、俺の好きなもんを狙って取ってってるだろ?」
叔父さんが母さんに若干切れている。それに対して母さんは「……」と無言でさっさと取っている。なかなかにこすいことをしている。
母さんと叔父さんが喧嘩している中、父さんは飯も食わずに軽く本を読んでいる。こういうのを見れば、性格が出ていると思う。
「…父さんは何で姉弟喧嘩を前にして本を読んでられるの?」
「……昔から雑音があるほうが集中できるんだよ」
「ひ…どいな……」
姉弟喧嘩が続く中、俺は淡々と寿司をつつき続けた。
読んでいただきありがとうございます。




