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海姫  作者: 乱 乱太郎
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1話 悲恋の過ち

 過去は誰にも歪めることができない。故に綺麗なのだ。美化されることはあっても、汚れることは決してない。


 綺麗な過去だけを見ていたい。あぁ…くすんでしまう……。泥まみれのわだちは踏みたくない…。


 耳も鼻も真っ赤な君。真っ白な雪の中、赤いマフラーを巻いてずっと立っている、君。

 君はこちらを見つめている。いや、僕が見ているのかも。君が好きだ。汚れた過去よりも、美化された過去よりも。

 恋は盲目というけれど、愛はなんと言うのだろう。恋が愛になるのだろうか。好きの反対は無関心なのだろうか。


 ずっと君を見ていたい。これは恋、それとも愛。歪な形をしているのは間違いないし、君が答えてくれないことも知っている。



―――好きだよ。(しん)くんのその、ひねくれた性格も、考えも。



 いつかの君は、こう言った。嬉しかった。嬉しかったけど、愛や恋という好き、ではないと分かっていたから。

 だから、ずっと君を見ている。恨めしそうに。でも、このくすんでしまった目には何もうつらない。

 轍を踏んで歩く。その轍も、全く同じものはない。過去には戻りたくても、もう戻れない。それは過去を歪める行為であり、不可能だから。


 愛にも恋にも限りがある。時がたてばいつかは風化してしまう。これはどうしようもなく、仕方のないもの。


 彼岸と此岸を隔てている、その間に君はいるように感じる。どっちつかずな君にぴったりだと思うんだ。

 隔てているその川自身が、君なのだろう。


―――そんな君を懐かしんで、思い出す話。



―――朝明 晨(あさけ しん) 16歳 高校一年生の冬。

 11月になって高校にも慣れてきた頃、俺は写真部があるので、部室に向かっていた。


「ぎゃはは!なんじゃそりゃ!」


 後ろから声が聞こえてきた。少し小走りになる。遅れたら何を言われるか分からない。

 写真部の部員数は二人。俺と、もう一人の女の先輩。普通は部員数が二人では部活として活動できないが、写真部は伝統かなにからしく、潰れずに済んでいる。

 

 と言っても、先輩と俺も、特に成果を上げていない。ただ毎日、部室で駄弁(だべ)って時間を潰すだけ。

 俺と先輩の時間は潰れても、部活は潰れないらしい。


 上手いこといった気になって、調子よく歩いていると、目の前に先輩を見つけた。


 先輩の名前は、入方 小夜(いりがた さよ)。二年生で、趣味は読書。滅法美人で成績もそれなりに良いらしい。スタイルも良く、俺もたまに魅入(みい)ってしまう。

 ここまで凄い先輩にも、悪いところがある。

 彼女はとても――― 


「せんぱーい。こんちはーっす」


「こんにちは。部室の鍵は持ってきてくれたのかな?」


「あ」


「今日の鍵当番、晨くんじゃなかったっけ」


 忘れてた。完全に忘れてた。まずい。怒られるからとかではなく、本当に俺は焦っていた。先輩の()()が始まるから。


「そんなんじゃ、クラスでは彼女どころか友達もいないんじゃないのかな?約束くらい守ってよ。信用できると思ったから今日は任せたのに。はぁ〜あ」


 彼女は―――とても意地悪なのだ。よくない。非常によくない。容姿だけでも、色々妬まれているのに、中身も相まってさらに嫉妬が彼女に降り注いでいる。

 七つの大罪の内の二つも揃ってるじゃないか。ちなみに嫉妬のほかには、男子群からの色欲だ。


「先輩、意地悪しないでください。今、取ってきますから」


「ごめんね」そう言うと、彼女は舌を少し出し、テヘペロと言わんばかりの表情をした。

 その表情の中には、忘れた君も悪いんだからね、という本心も感じられる。


 俺は鍵を走って取りに行った。俺は運動ができる方ではなく、中学の頃のシャトルランは45回。男子の中ではぶっちぎりで最下位だった。

 取りに行くだけで、肩で息をし、部室に戻るので、また息をきらす。パシリもいいとこだった。


「っ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、っ鍵ですっ」


と渡すと、先輩は笑顔で「ありがとう」と返した。

 ()()が男子諸君を虜にしているのかもしれない。俺はそう思った。(多分間違いない。)


 先輩は鍵で部室を開けて、中に入った。と、その瞬間、積もりに積もったほこりが舞う。


「ほこりっぽいね」先輩はそう言った。「そうですね」と俺は同意した。

 息が整って来たところで、バッグを木製の古くさい床におき、いつもの席に座る。


 先輩と俺は対角の場所に座っている。部室は縦に長く、その長い部室に合わせてか、長机が置かれている。

 俺は部室の扉からみて左の奥、先輩は、右の手前に座っている。


 部室が細長いのは、部室の左右に棚があるからだろう。昔の写真部の賞状だとか、写真とかが置いてある。たが、今となってはこの部室は物置とかしている。

 棚には、案外雑誌とかがあったりするので、基本的にそれで時間を潰す。

 この、先輩との二人っきりの無言の静寂な時間が好きだ。何と言うか、落ち着いていられる。そういうのも、先輩の溢れ出る何かなのだろうか。


「なに?さっきからじぃーっとこっちを見て」


「いいえ。なんでも」


 バレてたか。実は俺が、雑誌を読むふりをしながら先輩の様子をちらちら伺っていたのを。じぃーっとは見ていない。じぃーっとは。いやまじで。

読んでいただきありがとうございます。

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