番外編 それぞれの幸福②
「「――え?」」
報告を受けたアクト様と私は、揃って同じ反応をした。
突然のことで驚いた。
というより、まったく予想していなくて困惑した。
「い、今なんて……」
「だから、結婚するんだよ」
「誰が?」
「私と――」
「俺が」
ジンさんとシオンが、互いの顔を指さしている。
結婚するらしい。
二人が。
「……お、お前たち、そういう関係だったのか?」
「ああ」
「やはり気づいていなかったのですね」
「だと思った」
二人して大きくため息をこぼす。
私が驚くのは当然ではある。
知り合って数年、二人が幼馴染だとは知っていても、出会う前のことは知る由もない。
仲がいいなと思っていたら、まさかそこまで発展したとは驚きだ。
ただ……。
「アクト様もご存じなかったんですね」
「……まったく気づかなかった」
この人は気づいてもよかったと思うけど……。
アクト様は驚きすぎて目を丸くして、表情が驚き状態で固定化されてしまっていた。
誰よりも近くで、長い時間を共にし、家臣を越えて友人として接する三人。
その関係性の深さと長さは、後から来た私にもわかるほどだった。
「アクトは鈍感だから仕方がないが、その反応はまったく予想もしてなかったみたいだな」
「そのようですね。予想通りではありますが」
「だな」
「い、いつから?」
「もうずっと前から。具体的な年は忘れたな」
「少なくとも、イリアス様がいらっしゃるより前なのは確かですね。驚かせてしまい申し訳ありません」
「い、いえいえ、その……おめでとうございます」
驚きは大きかったけど、それ以上に嬉しかった。
なんとなくだけど、二人はお似合いだと思っていたから。
「ありがとうございます」
「ありがとな。俺たちが結婚できるのは、イリアスのおかげだ」
「え? 私?」
何かしたかな?
身に覚えがないのだけど……。
二人は顔を合わせて微笑み、私に向かって言う。
「本当はもっと前から結婚は考えてたんだよ。けど、幼馴染三人の中で俺たちだけそういう関係になると、一人寂しがる奴がいると思ってな」
「……ジン、まさか俺に気を遣って黙ってたのか?」
「そういうことだな」
「有難迷惑だ!」
「はははっ!」
アクト様が拗ねて怒ってる姿を初めて見た。
まるで子供みたいだ。
ジンさんも楽しそうに笑っている。
彼らは昔から、こうやって過ごしたのだろう。
「アクトにも、イリアスっていう想い人ができた! もう俺たちが結婚してもいいだろってことで、な?」
「はい」
「そうだったのですね」
だから私のおかげ、と言ってくれたのか。
結局私は何もしていない。
ただ、アクト様を好きになって、想いを伝え合っただけ。
それが二人の幸福に繋がったのなら嬉しいし、これも一つの奇跡だろう。
◆◆◆
「また後でな」
「はい」
ジンさんは騎士団で訓練に残る。
私はシオンと一緒に王城の中に入り、廊下を進む。
「今日はここまでで平気です。シオンは休んでください」
「よろしいのですか?」
「はい。ポールのところに顔を出すだけです」
「わかりました。ありがとうございます」
シオンにはできるだけ、身体を労わってもらおう。
「いよいよですね」
「そうですね」
「私たちの時も盛大にお祝いして頂きました。今度はお二人の番です」
「……はい」
もうすぐ、私とアクト様の結婚式が開かれる。
婚約してから一年半、出会ってから三年の月日が流れた。
長かったようで、あっという間でもあって。
思い返せば、この三年間は人生でもっとも充実していたと断言できる。
「私も、精一杯祝福させていただきます」
「ありがとう。シオンにはずっと支えてもらいました」
「お互い様です。イリアス様のおかげで手に入れられた幸福も多い。皆、私も……それから……」
彼女は自分のお腹に優しく触れる。
いずれ生まれてくる、もう一人の家族のことを想う。
「元気な子が生まれるよう、私も心から祈っています」
「それなら安心ですね。聖女様に祈って頂けるなんて、私たちは幸福です」
私は首を振る。
それこそ、お互い様だ。
心から祈りたい相手が、こんなにもたくさんいるのだから。






