番外編 それぞれの幸福①
遅くなりましたが番外編です!
①~③を予定しています。
短いですがお楽しみに!!
スローレン王国に春がやってきた。
厳しい冬の寒さが和らぎ、徐々に温かさが顔を出す。
草木は芽吹き、動物たちも冬眠から目覚めて活動を始める。
私たち人間も、季節の移り変わりに合わせて生活は変化する。
たとえば起床時間。
寒い日は朝起きるのが嫌になるけど、最近は少しだけ楽になった。
それでも眠っていたい人は多いと思う。
他にも仕事場所。
冬は寒さで外に出られなかった職業の人たちも、徐々に外での作業を増やしていく。
畑仕事もそうだ。
冬場と春では、育てる作物が変わってくる。
そして食事も。
食べるものが変わっていく。
採取できる作物や食材の変化だけじゃない。
暖かい日に食べたいものと、寒い日に食べたいもの。
そう、好みも違う。
最後に服装だ。
当たり前だけど、気温が変われば着る服も変えなくちゃいけない。
寒さに凍える時期は過ぎ去った。
袖をまくっても平気なくらいには、今日も温かい。
私は街の人たちや畑、空を見上げながら呟く。
「今日もいい一日になりそうだね」
「そうですね」
私の独り言を、一緒に畑仕事を手伝ってくれているシオンが拾ってくれた。
ちょっぴり恥ずかしい。
ただの独り言だったから、聞かれてしまって頬を赤くする。
「もう少し手伝ったら戻りましょう」
「はい」
私は恥ずかしさを誤魔化すように、平静を装う。
スパーク王国を離れ、スローレン王国にやってきて、今日で三年になる。
もうすっかり、この国の聖女として定着したと自分でも感じている。
もっとも、ほとんどの人は、聖女の力を頼ろうとしない。
逞しい人たちばかりだ。
自分たちでやれることは、自分たちで頑張ろう。
本当にどうしようもなくなって、困り果てた時は力を貸してほしい。
それ以外は、自分たちでなんとかできる。
聖女がいることが当たり前で、頼ることが常だったスパーク王国とは異なる考え方だ。
その考え方は、外からやってきた元スパーク王国の国民にも浸透しつつある。
おかげ様で、私が聖女として祈る機会は減っていた。
いいことだ。
だからこうして、私も畑仕事を手伝ったり、住民の悩みを聞いて回っている。
畑仕事を終えた後は一旦王城に戻る。
着替えたり、昼食を摂るために。
今日も騎士団の隊舎からは、元気な掛け声が聞こえてくる。
あれから志願者も増え、建物も増築して大きくなった。
「次! 全力で来い!」
「はい!」
指導しているのはもちろんジンさんだ。
国王補佐兼、スローレン王国騎士団長をしている。
私よりもずっと忙しそうだ。
「お、来てたのか」
訓練途中に私たちの存在に気づいたジンさんは、軽く相手をしていた騎士をあしらい一本取る。
そのまま休憩を指示して、私たちのほうへ歩み寄る。
「また畑仕事を手伝ってきたのか」
「はい。ジンさんは訓練、お疲れ様です」
私が労いの言葉を贈る一方で、シオンがタオルをジンさんに手渡していた。
「ありがとう。最近新人も増えたからな。基礎を一から教えるのは大変だ」
「新しい方も増えたのですね。いいことです」
「まぁな。そっちは? 忙しくて畑の様子が見に行けてないんだ」
「順調です。皆様も頑張って頂いております」
「そうか。ならいい」
ジンさんは嬉しそうに笑う。
昔はジンさんも畑仕事を手伝っていたけど、今は騎士団のほうが忙しくて難しい様子だ。
それでもよく心配してくれている。
これも一つの変化。
でも、彼らにとっては小さな変化だ。
もっと大きな変化が……私やアクト様にも衝撃を与えた出来事があったから。
「今日の帰りは?」
「いつもと一緒だ。毎日遅くなって悪いな」
「ちゃんと帰ってくるならそれでいい」
「ああ」
ジンさんとシオンが二人で話している。
二人の左手薬指には、シンプルな指輪がハマっていた。
おそろいの指輪だ。
そう――二人は結婚し、夫婦になっていた。






