エピローグ②
「ちゃんと寝てるといいですね」
「後で私も確認します」
「ありがとうございます。それじゃ、私たちも戻りましょう」
「はい」
畑でのお手伝いを終わらせて、私たちは王城へと戻った。
王城に戻るとすぐ、気合の入った男性の声がいくつも聞こえてくる。
「あと素振り百回! それが終わったら見回りに行くぞ!」
「はい!」
「こんにちは、ジンさん」
「ん? イリアスとシオンか! こんにちは」
人口と国土が増えたことで、様々なトラブルも増える。
それに対応するため、王国では新たに騎士団を結成した。
ジンさんが騎士団長に任命されて、若い騎士たちの指導に当たっている。
騎士団の人数も増えていて、もうすぐ百人を超えるそうだ。
「泥がついてるってことは、畑仕事の手伝いでもしてたか」
「はい。正解です」
「ははっ、畑の奴らも喜んでるだろ!」
「とても喜んでいましたよ」
シオンがジンさんに教える。
ジンさんは嬉しそうに笑っていた。
彼らはこの後、街でトラブルが起きていないか見回りをしてくれる。
元からこの国で暮らしていた人たちが不安にならないように。
「あーそうだ。アクトが会いたがってたぞ」
「アクト様が?」
「おう、話があるんだと。泥だけしっかり落としとけよ」
「はい」
話って何だろう?
アクト様とは毎日お話をしている。
今朝はタイミングが合わなくて、朝食も別々だった。
彼も忙しい身だ。
国王として国民のため、日々汗を流して働いている。
その姿をずっと見てきたからこそ、私も頑張ろうと思える。
彼を支えたい。
そして……一緒にいられたら。
服を着替え、私はアクト様がいる執務室へ足を運んだ。
シオンは屋敷で別の仕事があるからと、席を外している。
「アクト様、イリアスです」
「入ってくれ」
なんだか示し合わせたように、私たちは二人きりになった。
「お話があると聞きました」
「ああ、大事な話があるんだが……ちょっと待ってくれ。この資料だけ終わらせたい」
「ふふっ、お手伝いします」
アクト様は仕事の山と格闘していた。
手伝うために隣へ。
「今朝からずっとここでお仕事をされているんですか?」
「ああ、昨日は外回りだったから、その分が残っているんだよ」
「お忙しいならおっしゃってください。私もお手伝いします」
「君だって忙しいだろ? お互い様だ」
私はかなり楽になったほうだ。
この国の人たちは、困ったらすぐ聖女の力に頼ろうとはしない。
自分たちの力で解決しようと努力する。
難しい時は相談したり、手を貸したりもするだけだ。
「――! これ……」
作業途中、一枚の紙に目が行く。
そこには縁談の話が書かれていた。
「ああ、縁談の話がいくつも来てるんだよ」
「そう……ですか」
「もちろん全部断ってるけどな」
「え? よろしいのですか?」
「俺にその気はないんだよ」
それを聞いて、ホッとしている。
アクト様が誰かと結婚する……いつかは来る未来に、私は少し怯えていた。
「俺には心に決めた人がいるからな」
「え――!」
手を、握られた。
驚いた私は、アクト様の顔を見る。
彼は優しい目で私を見ていた。
「イリアス、俺の婚約者になってくれないか?」
「――! 私が……」
「ああ、それを伝えたかった。君のことを心から愛していると」
「……そのために……」
「ジンとシオンには先に伝えた。この場を設けたかったからな」
二人きりになれる時間を、彼らと一緒に計画していた。
この人たちはいつも、私に内緒でいろいろ計画して、嬉しい驚きをくれる。
「ずっと前から決めていたんだ。結婚するなら……君がいい」
「それは……私が聖女だからですか?」
「関係ないよ。聖女だろうとなかろうと、俺が好きなのは君だ。イリアスという、一人の女性に惹かれている」
わかりきった質問だった。
彼ならそう言うと、分かった上で聞いた。
直接聞きたかったから。
自分の気持ちを確かめるために。
私は胸に手を当てる。
「私は……」
聖女としての自分を求められているだけで、私じゃなくてもよかった。
代わりがいれば、私はいらない。
誰も、私個人を必要とはしていない。
初めては彼だった。
アクト様が、聖女ではなく、私自身の存在を肯定してくれた。
君が必要だと言ってくれた。
あの日からずっと――
「アクト様を愛しています」
一年半という時間が、私の中で想いを育ててくれた。
私は彼のことが好きだ。
そして彼も、私のことを好きでいてくれる。
こんなに幸せでいいのだろうか?
夢みたいだ。
「ありがとう。君と出会えてよかった。心からそう思うよ」
「私もです」
運命に導かれ、私たちは出会い、絆を深め合った。
悪いことをすれば天罰が下る。
よいことを続ければ、いつか必ず――幸福な時間はやってくる。
神様は今も、私たちを見守ってくれている。
出会いに感謝し、運命に感謝する。
そして、未来を共に――
「改めて、これからも一緒に生きよう。この国で」
「はい。いつまでも」
歩んでいく。
二人で。
みんなで。
【作者からのお願い】
これにて本編は完結となります!
短期集中連載でしたが、最後まで読んで頂きありがとうございます!
楽しんで頂けたでしょうか?
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本編は完結ですが、番外編は11月中に投稿しますので、ブクマはそのままにして頂けると嬉しいです!
※追記
11/23に番外編投稿予定です!
お楽しみに!!






