表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/37

私のいる場所③

 スパーク王国王城、ライゼンの自室。

 彼は密偵からの報告を受け取り、目を通していた。


「また失敗か」


 イリアスを誘拐するため男たちを向かわせたのは、スパーク王国の王子ライゼンだった。

 ポールが辞職し、疑似聖女の調整ができなくなったことで、マリィの聖女としての活動時間はさらに減少している。

 現在は長期休養という形で、数日大聖堂を閉じていた。

 人々の不満は溜まっている。

 その声は、王城にまで届いていた。

 解決策は大きく二つ。

 魔導具師ポールか、聖女イリアスを連れ戻すこと。

 居場所はわからなかったが、スローレン王国から戻ったノーマン公爵から、二人が隣国にいることを知ったライゼンは、まずイリアスを攫う算段を立てた。

 だが、三度の誘拐失敗。

 方法、時間、タイミングを変更しても阻まれてしまう。

 

「意外と侮れないのかな。小国の癖に」


 彼は聖人の存在を知らない。

 聖女を守るために誕生する聖人は、聖女の危機を必ず察知する。

 不意な暗殺や誘拐も、事前に気配を察することができる。

 聖人アクトールがいる中、聖女イリアスを誘拐することはほぼ不可能だった。

 三度の失敗を経て、ライゼン王子は重い腰をあげる。


「……仕方ない。直接行くしかないか」

 

 ノーマン公爵から得た情報。

 そして三度の失敗から学んだ経験。

 手札はすでに揃っていた。

 彼は動き出す。

 自らが追放した聖女を、連れもどすために。


  ◇◇◇


 最後の襲撃から五日が経過した。

 あれから、私を攫おうとする人は現れていない。

 諦めたのだろうか?

 そんなことはないと、頭の中で理解している。

 胸騒ぎがしていた。


「食欲がないのか? イリアス」

「――申し訳ありません」

「謝ることじゃない。体調が優れないなら、今日は休むといい」

「……」


 朝食があまり喉を通らなかった。

 それを見たアクト様に心配をかけてしまって、申し訳なさがこみ上げる。

 最近は、不安で夜も眠れない。

 疲れは蓄積されていた。

 人々の前で、自然に笑えなくなりつつある。

 このままじゃいけない。

 聖女としても、スローレン王国にとっても。


 私はここにいるべきじゃないのだろうか?


「アクト!」

「――ジンか。どうかしたか?」

 

 朝食を食べ終えた部屋に、ジンさんが少し慌てた様子で入ってきた。


「客人だ。スパーク王国から二名」

「――!」


 スパーク王国……二人。

 脳裏に過ったのは、私が王城で最後に言葉を交わした人たち……。

 私を追放した張本人。


「ライゼン王子と……聖女イリアスと名乗っている」

「……」

「……ついにきたか」


 アクト様も険しい表情を見せる。

 彼は私に視線を向ける。


「会うかどうかは、君の意志を尊重するよ」

「……会います」

「いいんだね?」

「はい……これも……」


 私が抱える問題だ。

 これ以上、アクト様やこの国に迷惑をかけられない。

 今日、ハッキリと決断しよう。

 私がこの先すべきことを、選ぶべき道を。


 私たちは朝食の席を立ち、応接室へと向かった。

 過去最大に緊張している。

 第一声は?

 彼らはどんな顔で、私と話すのだろうか。


 部屋にたどり着き、アクト様を先頭にして中に入る。


「待たせて申し訳ない」

「これはこれは、スローレン新国王、アクトール様。初めまして、ライゼン・スパークロンです」


 入ってすぐ、ライゼン様が挨拶をした。

 その隣には、彼女がいる。

 視線が合った。


「……マリィさん」

「久しぶりね、()()()()


 ジンさんには聖女イリアスと名乗っておきながら、私の呼び方に否定もしない。

 隠す気がないのだろう。

 いいや、隠す意味がないからか。

 この場の全員が、本物と偽物を区別できる。


 私たちは対面のソファーに座る。


「急な訪問に対応して頂き感謝します。お忙しいと思いますので、用件を端的に。イリアスを我が国に返していただきたい」

「……返す?」

「はい。イリアスは我が国の聖女です」


 予想はしていたけど、よくも堂々と言える。

 私だけじゃなく、アクト様や部屋の中で待機しているジンさん、シオンも呆れている。

 アクト様はため息交じりに言う。


「その彼女を、不当な方法で追い出したのは誰ですか?」

「やはりご存じでしたか。ならば話が早い」

 

 ライゼン王子はニヤリと笑みを浮かべた。


「彼女を引き渡してくれたら、我々スパーク王国がスローレン王国を支援しましょう」

「支援?」

「ええ、具体的には必要な物資を優遇します。代金も必要ありません」

「……」

「知っていますよ。スローレン王国はつねに人手も資源も不足しているそうですね? 私たちがそれを補ってさしあげます。いかに優秀な魔導具師がいても、素材がなければ何も作れません」


 アクト様がピクリと反応する。

 予想通りではある。

 彼らはすでに、ポールがこの国にいることも知っている。

 教えたのはお義父様だろう。


「それだけではありません。彼女の存在は大きい。聖女がここにいると知れば、多くの勢力が狙うでしょう。彼女の身にも危険が及ぶ」

「……」


 よくもぬけぬけと。

 その刺客を送ったのは、どう考えても彼らだ。

 現れたタイミング的にも、誘拐が連続で失敗したから、直接交渉に移っただけ。

 どれだけ図太い精神をしているのか。

 ただし、ライゼン王子の言うことも一理ある。

 彼だけじゃない。

 聖女の力を欲している国は多い。

 スパーク王国という大国が保有していたから、周辺諸国も下手に手出しできなかった。

 

「スローレンは小さい。この小さく弱い国では、彼女の力は大きすぎるでしょう」

「何がいいたいのですか?」

「わかっているはずですよ、スローレン国王。この国に必要なのは聖女ではなく、資源です」

「……」


 私もそう思う。

 この国に来てもうすぐ二か月が経過する。

 いつだって人手不足で、魔導具を作りたくても素材が足りない。

 食事だってそうだ。

 今朝の食事も、王城で食べるものにしては質素だった。

 私がいくら祈ろうと、資源は増えないし、お金も貰えない。

 ライゼン殿下のおっしゃる通り、この国に必要なのは私じゃなくて……。


「話は以上ですか? ではお帰りください」

「――! なにを……」

「アクト様?」

「彼女を引き渡す気は最初からありません。そんなことは、この国の誰も望んでいませんから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[一言] このぶんだとポールなら簡単に攫えそうだな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ