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私のいる場所①

 考える時間がほしい。

 そう告げると、お義父様はまた日を空けてくることを約束し、王城を去っていった。

 もっと食い下がると思っていたけど、意外とあっさりしていた。

 私の意志を尊重したいと、別れ際の会話で言っていたけど……。


「イリアス」

「……申し訳ありません、アクト様」

「どうして君が謝るんだ?」

「いえ、私のことでご迷惑を……」

「迷惑なんてかけられていない。それより、あれが本当に君の父親なのか?」

「……はい。ノーマン家の当主で、私の義理の父になります」


 あんな人ではなかった。

 私も深く関わっていないから断言はできないけど、もっと冷たい人だった。

 少なくとも私には……。


「君に謝るために一人で来た。ポールと同じ理由だな」

「はい。ですが……信じられません」

「無理に信じなくてもいいと、俺は思うぞ」

「アクト様……」

「ゆっくり考えればいい。君の決断を俺は尊重する。もし君が戻りたいと思うなら、それでも構わない。寂しくはあるがな」

「……」


 戻りたいかどうか。

 その問いに対する答えは、もうとっくに決まっていた。

 私の気持ちを優先するなら、戻りたくはない。

 たとえ環境が変わろうとも、私の居場所は……あの国にはなかったから。

 

 ただ、引っかかっていることがある。

 それは帰り際、お義父様に言われた一言だ。


  ◆◆◆


「では私は一度戻る。ここにイリアスがいることは誰にも伝えていないから安心しなさい」

「はい……」

「よく考えておくんだ。一人の問題ではない。お前がここにいることは、いずれスパーク王国にも伝わる。私が伝えずとも、人の噂は簡単に広まってしまうからだ」

「……」

「そうなった時、お前のことで多くの国が動く。自分の存在意義、立場のことも考えておきなさい」

「……わかりました」


 重ねてお義父様は私にこう言った。

 聖女という立場に立った以上、簡単には逃げられない。

 人々が求める限り、聖女の役割を果たし続ける義務がある、と。


  ◆◆◆


 お義父様と会った日の夜。

 私は眠れず、ベッドで横になりながら考えごとをしていた。


「私は……この国にいてもいいのかな?」


 私がいることで、この国に迷惑がかかるかもしれない。

 私の存在が、他国を動かす理由になるなら……。

 もし、奪い合いの戦争にでもなったら?

 そう考えると、スパーク王国に戻ったほうが、スローレンは平和でいられる気がしてきた。

 考えるほどに、私がいないほうがいい理由が浮かぶ。

 

「……アクト様は……」


 きっと、ここにいていいと言ってくれる。

 あの人は優しい。

 アクト様だけじゃない。

 この国で私が関わった人たちは、みんな優しくて暖かい心を持っている。

 出て行けなんて絶対に言わないだろう。

 自分の幸せよりも他人の幸せのために、汗を流して苦しむことをいとわない人たちだ。

 そんな人たちだからこそ……迷惑をかけたくない。


 私は――


 どこで生きることが、幸せなのだろう?


  ◇◇◇


 時間は過ぎ去って、一週間後。

 再びお義父様はやってきた。

 応接室に案内されたお義父様と向かい、ソファーに腰を下ろす。

 私の隣にはアクト様も一緒だ。


「イリアス、考えはまとまったかな?」

「……」

「まだ悩んでいるのかい? この国は、お前にとってそれだけ居心地がよかったのだろうな」

「はい。素晴らしい国です」


 そこは誇って言える。

 私にとっては、スパーク王国よりも好きな場所だ。

 願わくは、このまま安らかにこの国で暮らしていたいと思っている。

 ただ、私は普通の人間ではない。

 聖女として生まれてしまった私には、普通の幸せは掴めないのだろう。


「そんな国だからこそ、迷惑をかけたくはないだろう?」

「……」


 その通りだから、私は悩んでいる。

 心の中の想いに従うなら、ここにいたい。

 だけど迷惑をかけたくない気持ちも本物で、どうすればいいのかわからない。

 この国にくる以前の私ならば、迷惑がかかると少しでも思ったら、自分の気持ちを優先することはなかっただろう。

 それだけ、この国にいたいという気持ちが――


「そう焦って結論を出すこともないでしょう」


 沈黙を続けていたアクト様が、ついに口を開いた。

 お義父様がアクト様に視線を向ける。


「スローレン国王としては、この国に残ってほしいのでしょうか?」

「もちろんです。ただ私は、彼女の気持ちを尊重したい。気持ちの整理がつかないまま、流されるように行動しても、後悔するだけです」


 アクト様は扉に視線を向ける。

 すると、合図でもしたかのようにシオンがやってきた。

 紅茶の入ったカップを人数分用意して。


「これはありがとうございます」


 礼儀として、出されたものは頂く。

 私もノーマン家で教わった。

 お義父様は自然に、出された紅茶に口をつける。

 少し渋い顔をした。

 予想よりも苦かったのだろうか?

 私も紅茶に口をつけたけど、苦みはあまり感じなかった。


「ところで、ノーマン公爵は、彼女を連れ戻して何をさせたいのですか?」


 唐突な質問に、私とお義父様は驚く。

 お義父様は笑いながら言う。


「何をとは、それはもちろん――聖女として上手く利用するだけですよ」

「――え?」

「……!? わ、私は何を……」


 困惑する私とお父様を横目に、アクト様はニヤリと笑みを浮かべた。


「利用ですか。娘を利用するなんてひどい父親ですね」

「い、いや――娘ではない。聖女の力を持っているから養子にしただけだ。マリィに聖女の力があればと何度思ったか」

「お義父様?」

「ち、違うこんなことは……」


 明らかに様子がおかしかった。

 お父様も混乱している。


「アクト様?」

「今、彼は嘘がつけない状態なんだよ。ある液体を飲んだからな」

「液体……!」


 思い浮かんだのは、彼の言葉だった。

 嘘をつけなくする液体……。

 作ったのは――


「僕ですよ」

「――! ポール・マット! 失踪したと聞いたが、ここにいたのか!」


 ポールが部屋に姿を現した。

 ジンさんも一緒にいる。


「お久しぶりです。先に言っておきますけど……僕、あなたの言葉は全部嘘だって思ってましたから」

「き、貴様が何かしたのか?」

「はい。アクト様、今なら何を聞いても本心を答えます」

「くっ、私はこれで失礼する!」


 逃げようとしたお義父様を、ジンさんが捕まえた。


「は、離せ! 無礼だぞ!」

「悪いけど逃がさないぞ。ちゃんと全部話すまでな?」

「隠していることを全て話してもらいましょうか? ノーマン公爵」


 アクト様が詰め寄る。

 私だけが、置いてきぼりになっていた。

 そこへシオンが小声で教えてくれる。


「皆さんで協力して、イリアス様を守ろうと話していたんです」

「そう……だったんですか」


 シオンが微笑む。

 私が知らない間に、彼らは準備していた。


「彼女に隠していることをこの場で話してください。たとえば、どうして彼女が聖女だったのか。ノーマン家から生まれるはずだったのではありませんか?」

「それは――」


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