消滅
メイフェザーはすべてが消えたその場にたたずんでいた。
周囲を見回しても何もない。足元を見ても濃いもやがかかり地面すら見えない。
先ほどまでの男女もいない。デイジーも見えない。後ろをふりかえった。そして先ほどまでいたアリスも見えない。
何が起こったのか、しばらく考えていたが思い出せない。確か何かを探していた。その手掛かりがあってそれを。
彼はしばらく考えていた。先ほどまで覚えていたはずの名前が出てこない。
目の前にかざした手すら見えない。
とにかくどこかに行かなければ、メイフェザーはとにかく前に、前だと思う方向に進んだ。
徐々に彼はその気持ちすら薄れていく。
思考すらぼやけていく。それでも何かを求めていた。それだけが残る。そして彼は進み続ける。
アリスは丘に座り込んでいるところを村民に保護された。
丘の遺跡は完全に破壊されていた。すべて根元からへし折れた柱が転がっているだけの丘になっていた。
その轟音に気づいた村人が駆けつけてきてその場に座り込んでいたアリスを見つけたのだ。
森に逃げ込んだはずのアリスがなぜ遺跡の丘にいたのかはアリスも覚えていないとしか言わなかった。
アリスが家に連れ帰られると家族から質問攻めにされたが全くアリスは答えることができなかった。
「アリス、メイフェザー氏はどうしたんだ」
アリスの父親は二番目に重要なことを聞いた。すでに一番重要なアリスの生存は確かめられたのでどうあっても聞かなければならない。
「わからない、追いかけてきたけど、消えちゃった」
アリスはとつとつと答えた。だがそれ以上のことを口にする気力は内容だった。
アリスは見たとおりに言ったのだが、その言葉だけでは事実は理解できなかったらしい大人たちは想像を膨らませた。
「アリスを見失って森で遭難したんじゃないか」
庭師の言葉に全員頷く。
「しかし困ったな、もう夜遅い、こんなに暗くなってから森の奥に向かうのは」
「今村で人手を割くことは難しいだろう。急に地面が揺れたので家の中がめちゃくちゃになっているようだ。自分たちのことで手いっぱいだよ」
「遺跡の丘ではあの柱がすべて倒れてしまった。あれはどうなるんだろうな」
メイフェザーを救いになど誰も行きたくないようだ。森の奥に行けば行くほど危険だという。ましてや小さな女の子を追い掛け回すような変質者だ。
「隣村に行けば役人が駐屯している。そこに知らせるだけならできるだろう」
今後の話をしている大人たちの傍らに座り込みアリスは視線だけでその姿を探す。
だけどデイジーはどこにもいない。
母親のスカートをつかんでいたエイミーはアリスにとことこと近づいてきた。
「エイミー、デイジーはどこ」
アリスがそう尋ねてもエイミーは目を丸くして周囲を見回す。エイミーもデイジーを見つけることができないでいた。
翌日、倒れた柱の下から大量の白骨が見つかったと知らされた。