表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

祝福

 意外にも、シバタへ詰め寄っているのは女神だった。


「あんた、本当にやるの?」

「もちろん。”同種のデバフは重ならない”それなら僕にも『知識の帽子』は効かない可能性が高いです。何より、僕はこの仕様を組んだ人を信じますよ」


Allon(アロン)』のチェアに腰を下ろして手を組むシバタに迷いは見えない。

 そんな姿へ女神はさらに噛みついた。


「仕様……。仕様、仕様ってあんた! 今のあんたはまだどの勢力にも属していない。この意味がわかるの?!」

「……いいえ?」


 当然ながら、シバタは過去に死んだ経験などない。

 ゆえに、この状況――”自分が死んでフラフラしている”ことへの知見などなかった。


「死者は天使か女神、死神に導かれる運命なのだ。もしそこから外れたら、どこにも行き場はないのだ。行き場のない死者ってことだよね。人間はそれを幽霊と呼ぶのだ」

「え。僕いま、幽霊なんですか?」


 ――知らなかった。 シバタの脳裏には死亡後のフローチャートに新たな状態遷移が追加されている。


「地上に戻ったら、だがな」

「ここではまだ、霊ですらない?」


 シバタの問いかけに死神は顔をそむけた。


「目を輝かせるほど、違いはない」


 シバタは顎に手をやって整理する。

 現状の自身はおそらく、システムのメモリリーク内に存在しているのだろう。

 適切なプログラム――つまりは天使、女神、死神に引き渡されなければ、ただただ行き場もなく蓄積されるだけ。


「やはり、何とかしないといけないですね」


 チェアからすっと立ち上がり、シバタは天使から銀のとんがり帽子――『知識の帽子』を受け取る。


「待って! その帽子は危ない。それなら私がどんな手を使ってもあんたを異世界に送るわ」

「……あらゆる勢力から睨まれるぞ」


 氷のように冷たい死神の目は、女神を射るように鋭い。


「幽霊を産むよりマシよ。だいたい、ジャンルがホラーになったらどうすんのよ!」

「め、め、めめめめ、メタめた……になるのだ」


 天使が泡を吹いて白目を剥いた。森羅万象を知る苦痛。それはもう、描写にも耐えない。

 そんな天使の様子もシバタは涼しい顔で受け流し、全てを受け入れるように言った。


「僕は気にしませんよ。例外を排除する、システム的なセーフティな仕様があるのは、むしろ歓迎します」

「こ、このクソバグギーク……! もう知らないわ。好きにすればいいのよ。でも……」


 女神はシバタの前に膝をつき大きく十字を切った。そのまま、両手を組んで祈りを捧げた。


「あなたの旅路に……。四葉の加護がありますように」

「あ、ありがとう……ございます」


 旅人を送り出す儀式、女神がシバタを祈っている傍らで、天使は死神の隣で俯いていた。


「死神……本当に良いのか、のだ。だって君の妹も……なのだ」

「ユイのことは関係ない」

「でも、シバタも同じ目に遭うよね」

「……」


 死神は応えない。応えられないのだろう。

 強い意志をたたえた瞳はかすかに揺らいでいた。


 女神から祈りを受けたシバタが振り返る。


「とりあえず、何が起こるかわからないので先に礼だけ言っておきます。皆さんお世話になりました」


「……任務だった」

「のだ」

「ふん。さっさと行きな!」


 それぞれの言葉を受け取ったシバタは、ふっとちいさく微笑むと、銀色の帽子を掲げ――、


「いきます!」


 己の頭に被せた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ