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狂気

「整理しましょう。僕が死んだのが――」


 シバタはホワイトボードに書かれた項目へペン先を向ける。


「階段を降りている最中から地面に激突する直前。そこまでなら女神の能力範囲内……」

「そうね。こうなると望みは薄いけど」


 うつむく女神は残念そうに拳を握る。


「そして、地面に激突したことで死んだのなら、死神さんの功績」

「あぁ、俺の任務はお前の殺害。方法は間接的だが緻密な計画だ。ミスはない」


 胸をはった死神に天使が口を挟む。


「どうだか、なのだ。落ちたのは三階からなのだ。助かる可能性は十分あるよね。きっと、シバタが死んだのはその後の事故なのだ」


 シバタは頷いて続けた。


「気絶したり、致命傷だったりはあるかもしれません。けれど、まだ息があって、轢かれた衝撃や爆発がトドメをさした可能性はあります。その場合、僕は天使さんの物です」


 四者四様に腕を組む。しかし、このままでは結論には至らない。シバタが問いかける。


「何か過去を見たり再現したりとか、そういう能力はないですか? ログチェック……要は記録でもないと確かなことが分かりません」


 バグや不具合の検証にログチェックは不可分だ。

 多くの人が自分の行いを詳細には覚えていなのに加え、ときには記憶すら書き換えてしまう。

 できるなら客観的なデータで検証した方が良い。


 女神は手のひらを天に向ける。


「私は無理よ。もしかしたら、そういう『異世界』はあるかもしれないけど、連れてはいけないわ」


 天使は銀色のとんがり帽子を脱ぐと、弄びながら口を開く。


「死神……なのだ。君は知ってると思うけど」

「あぁ、その帽子なら、あるいは。だが……」

「君の力があればコンボできるのだ。でも、君には君の任務があるよね。任務と真相、君はどっちを取るのだ?」


 天使は死神を探る様に見つめる。死神は首を横に振った。


「決まっている。任務だ」


 ――わかってたのだ。 天使はため息をつく。

 両者のやり取りを見ていたシバタが問いかける。


「どういうことです? もし方法があるなら……」

「君たちにこの帽子はどう見える、のだ?」


 銀色のとんがり帽子。天使はそれを被ると目を白黒させた。

 やがて恍惚にも似た笑みを浮かべると、彼方へ手を振り始める。当然だが、そこは何もない虚空だった。


 シバタの脳裏には、かつてどこかで見た薬物への注意を促す動画のシーンが浮かんでいた。


「中毒製造機?」

「いや、毒電波受信器よ」


 辛辣な女神とシバタの言葉を聞いて、我に返ったのか、天使は銀の帽子を頭から引っこ抜いた。


「言いたいことはわかるのだ。でもそれは、ただの副作用なのだ。天使の持ち物だからいかがわしい訳ないよね。この帽子は『知識の帽子』っていうのだ」

「知識? 脱法情報的な?」

「いや、陰謀情報じゃない?」


 まったく信用しない女神とシバタに死神が口を挟んだ。


「違う。『知識の帽子』は森羅万象を網羅した叡智を得る帽子だ。天使が天界へ人死者を導くとき、その人物を判断するために使われる」

「へえ。あんたが言うならそうなのかもしれないけど、」


 女神はそこで小首をかしげる。ふわっと揺れた髪の毛から可憐さが零れている。


「なんで天使はあんな言動になるのよ」

「森羅万象は複雑怪奇だ。目の前の悲劇が自業自得なことも、救命の行動が死の引き金となることもある。それらをすべてを知ると、狂いを生むんだ」


 あらゆる事象は、一面だけからは捉えられない。

 例えば『扉が開いた』その一文には、『扉が押された』と『扉が引かれた』が内包されている。

 しかしそれを『扉が押され引かれ開いた』と見せられても、かえって混乱をするだけと言えよう。


「つまり、インプットが膨大になりすぎて、受け止められない。だから、言動がおかしくなる。そういうことですか?」


 シバタの言に死神が首肯した。天使が付け加えてくる。


「でも、死神だけは違うのだ。死神の行動は『任務』が最優先されるのだ。だから、余計なことに惑わされるわけないよね」

「なるほど。装備のデバフをキャラ特性で無効化できると」

「いいじゃない。なら、死神が『知識の帽子』でシバタの死因を探れば……」


 天使が首を横に振った。死神が口を開く。


「死神は己の任務達成が最優先だ。なぜ自ら失敗の可能性を探る必要がある?」

「アンタねえ……」


 女神が呆れ半分、怒気半分の声を死神に向ける。

 ――デバフの無効化じゃないな。 シバタは内心で呟く。


 シバタが考えるところ、死神には『知識の帽子』が招くのとは異なる方向の狂いが潜んでいる。

 つまり、元から狂っているのだから、狂わないだけなのだろう。


 そこまで考えて、シバタは拳の強く握ると、強い目で天使を見つめた。


「僕がやります。貸してください」

「聞いてたのだ? 人間じゃ狂って終わりなのだ」

「大丈夫です、」


 シバタは自嘲気味に笑う。


「僕も十分、狂ってますから」


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