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ログイン1日目


リバースストーリーβ版テストの当選発表から2週間、テスト開始時間が近づいていた。


祐人は目の前に置かれた真っ白のフルフェイス型ヘッドセットを期待の眼差しで見つめていた。時計とヘッドセットを交互に眺めながら落ち着かない様子でスマホを手に取リ、俊に電話をかけ始める。


「俊さん!俊さん!いよいよゲーム開始だね!」


「あぁ、そうだな。祐人のことだから電話してくると思ったよ」


俊の目の前にも同じヘッドセットが置かれている。


「事前にリークされていた物よりもずっとかっこいいな」


「事前にリークされてたの!?」


「最近は多いからな。おまけにSOMYの新製品だからな、皆んなこぞって調べていただろうしな」


「さすが俊さん!俺全然知らなかった!」


俊は呆れたように笑う。


「Twiiterでも上がってたくらいだぞ。いい加減祐人も始めたらどうだ?」


「いや、俺には俊さんがいるから大丈夫!」


俊は大きくため息を吐きながら時計に目をやる。


「他力本願を絵に描いたようなやつだよな。多少早いがそろそろ起動させて時間に備えたらどうだ?」


「そうだね、ありがとう!ではゲームの世界で会おう!さらばだ!」


そう言うと勢いそのままに電話を切リ、ヘッドセットに向き直る。手に取るとズシリと重さを感じた祐人はベッドに横になりヘッドセットを装着する。真っ暗な視界の中、さわさわとヘッドセットの側面に指を這わせて電源ボタンを押す。カチリ、と乾いた音がたつ。


『SOMY』


真っ暗な画面に機械的な音声と共に文字が浮かび上がる。


『HELLO WORLD』


その音声と共に画面を埋め尽くしていた真っ暗な世に徐々に明るい光が広がる。それと共に体がふわふわと浮くような感覚になる。足元を見ると地面は見えないが地についている感覚がある。再び顔を上げると目の前に光を放つ玉が目の前に浮かんでいる。


『初めまして旅の人。ここは未完成な世界。誰かの世界なようで、誰の世界でもない世界』


耳触りのいい音声が光の玉から聞こえる。


『せめてもの力添えに力を一つ授けます』


一際光が強くなる。思わず祐人は目を閉じ、再び開くと文字が浮かび上がっている。


『あなたに授ける力はオプションです』


祐人が応募の際希望していたスキルだった。


『この力はこの世界で貴方だけが使える力です。ただし、この力はあなた1人では使えません』


「え?」


祐人は間の抜けた声を上げる。


『貴方にはAIと旅を共にしてもらいます。そのAIがいることによって力が使えます。』


なるほど、そういうシステムか。と祐人は呟く。


『一つ、貴方にお願いがあります。旅を共にするAIは生まれたばかりの赤子のようなもの。この子に色々な世界を人を見せてあげてください。そして沢山の感情を教えてあげてください。この子の成長が貴方の成長に、そして力になります。』


「AIを育成するってことか!」


うんうんと祐人は首を縦に振る。


『忘れないで下さい。この子が良きパートナーのなるのも悪しきパートナーになるのも、貴方次第であることを』


祐人はきょとんとしながら光の玉の言葉に耳を傾ける。


『ところで旅の人、貴方の名前は?』


「俺の名前は祐人!」


『かしこまりました。ユートさんですね』


「あ、はい!もしかしてこれゲーム名?」


『それでは旅を共にするAIを形作りましょう』


戸惑うユートを置いて光の玉はそう続けた。ぱっ、と目の前にゲームのような半透明の画面が出る。画面には『女・男』と表示されている。簡単にAIの設定を選べるようだ。ユートは迷わず女を選んだ。次いで画面には『ようき・れいせい』と表示された。またしてもユートは迷うことなくようきを選んだ。その後も次々とニ択の質問が続いた。


『最後に、貴方と共に旅するAIの名前を教えてください』


「うーん〜ううん…何にしようかぁ…命名って重いよなぁ…」


ユートはああでもないこうでもないと声にならない声をあげている。


『かしこまりました。ミュウですね。』


呻き声に反応したのであろう光の玉がそう問いかける。


「ミュウか…うん!ミュウで!」


『旅の人、お疲れ様でした。それではパートナーAIと共に新しい世界へ』


すると景色がどんどん渦巻いていき、先ほどまで輝いていた光の玉が霞み始める。


「え、待って待って!俺まだAIのキャラデザやってない!」


『大丈夫です。その子の見かけは愛着を持ってもらえるように貴方の理想とする姿になります』


「理想…?」


ユートは戸惑いを隠せない。それもそのはずだ、今まで18年間女性とは無縁の生活を送っていたのだから。理想と言われても全くピンとこない。


『それでは旅人達の行く末に幸の多からんことを』


その言葉を最後に光の玉は消えた。すると体が吸い込まれる様な感覚に襲われる。


「うわっ!」


先程まで光の玉が佇んでいた方向へ引き込まれ、真っ白い空間は様々な色へと変化しユートの体を何所かへ誘う。


「これはワープじゃないか!?俺じゃなきゃワープ酔いしてるとこだったな」


ふふんと得意気に鼻を鳴らすも、光の波を抜けた瞬間その顔から余裕は消え去る。頭上には本物と見紛うような太陽、遥か下方には青々と茂る草原。ユートは広大な草原の上空に投げ出されたのである。


「まじか…」


息を飲む暇もなく地面に引っ張られる感覚に襲われる。ゲームの世界でも重力があるんだな、などと考えているとどんどん地面が近づく。


「うわあぁぁぁ!!!」


ぶつかる、そう思った瞬間両腕で頭を覆う。ゴンッ、という鈍い音を立ててユートの体は地面へ投げ出された。


「いっ!…たくない?」


体が地面に叩きつけられた衝撃はあったが不思議なことに痛みは感じなかった。ユートはゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。突き抜けるように青い空と背の低い草原がどこまでも広がっている。ふと地面の土を触ると少しだけ冷たさを感じる。


「草の匂いもする…。こんなの現実と変わらないじゃないか…」


そう感嘆の声を漏らす顔は期待と興奮が表れている。


「うわっ!!」


ユートが振り向くとそこには女性が立っていた。黒い髪は肩で切り揃えらえ、小ぶりな鼻と口は幼さも感じられる。眉にかかる前髪から覗く黒い瞳は、ユートを映していた。少し力強さを感じる瞳にユートはたじろぐ。


「き、君は?」


人見知りを思い切リ発揮しながら問いかける。


「私は〈ミュウ〉です。貴方のパートナーAIです。」


目の前の光景ですっかり忘れていたユートはハッとした。そういえばそうであったと。


「そっかそっか!君が俺のパートナーAIなんだね!それにしてもこの子の姿が俺の理想かぁ…」


ふむふむと呟きながらユートは ミュウの周りをぐるぐると回る。もちろん不躾な視線と共にだ。


「うんうん!なかなか良いじゃないか!」


そう明るい表情で言うが鼻の下は伸びきっている。


「これからよろしくなミュウ!」


そう言いながら手を差し伸べる。


「すみません。よくわかりませんでした」


「生まれたばっかりって、そこからかよ!」



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