招待状
『あなたは好きなスキルを1つゲームの世界で使えるならどんなものを選びますか?』
「当たったー!!」
そう叫ぶ白沢祐人のスマホには当選おめでとうの文字が並んでいる。先日応募したVRMMORPGのβ版テストの抽選の結果だ。
「うるさいぞ祐人」
そう隣で不機嫌そうな顔をするのは祐人の向かいの家に住む4つ上の幼馴染み、俊だ。耳にかかるくせっ毛を鬱陶しそうにかける。俊はちらりとだけ祐人に視線を向けるも、直ぐにパソコンのモニターに目を移す。
「俊さんはどうだった?!」
子犬さながらに黒い瞳を輝かせながら問いかける。
「俺も当選してる。」
「すげー!俺たち運良いな!」
更に祐人は目を輝かせて、今にも俊に飛びつかん勢いだ。
「ようやくスタートラインに立っただけだからな。お前何か対策考えたのか?」
そんな祐人に気だるそうに俊は聞く。
「何も考えてない!それより俺のスキルどんな風になるのかな?」
そうはしゃぐ祐人に、俊は頭を抱えながらゲームの公式サイトを開く。
画面いっぱいに王道RPGを彷彿とさせる広大な大地と、神秘的なエフェクトが表示されている。
(事前にこういう画面から色々考察したりするんだろうな…)俊はぼんやりとそう考えながら画面をスクロールする。
『リバースストーリー』
パートナーの学習するAIと共に年頃の男が1度は妄想した、好きなスキルでゲームをしてみたい!を叶えるのがコンセプトだ。もちろん祐人もその1人だ。
「そういえば俊さんスキル何にしたの?」
「読心術」
「ドクシンジュツ?」
子供のように小首を傾げながら聞く。
「相手の考えている事を読めるスキルな」
「ズルくない?!」
「だから何か対策考えたのかって聞いたんだよ。皆が皆これくらい、いやもっと強いスキルだろうからな」
好きなスキルを選べるということは戦略も大幅に増えるが、当然強スキル対策も必須になる。このスキルはテスト応募時に、ユーザー情報で事前に登録している。
「どうせならクリア報酬欲しいしな」
β版テストには珍しくクリア報酬が出るようだ。
「クリア条件も報酬も未公開だとよ」
「やっぱり正式リリース後に使えるアイテムとかかな?これでゲームのロゴ入りモバイルバッテリーとかだったら嫌だなー」
「ありがちだな。ただ、SOMY初めての試みらしいから俺は期待する。ひょっとしたら非売品のゲーム用アクセかも知れないし。」
「俊さんそういうの好きだよなー。」
祐人はそう興味なさげに返事をすると、SOMY製のゲームを始める。SOMYとは名前を知らない者はいない、国内最大手のゲーム会社だ。そんなSOMYの新作ゲームであるリバースストーリーは、初ジャンルのフルダイブ型のVRMMORPGだ。当然ファンからの期待は計り知れない。更に、SOMYはテスト当選者にはプレイに必要なVRもプレゼントしている。そんな中β版テストの参加抽選に2人揃って当選出来たのは奇跡ともいえる。
「ファンからの期待度が低いか、そもそもの応募した母数が小さいか?」
俊はそうつぶやくが、それはないと直ぐに首を横に振る。SNSには落選報告が散見する。
「俊さん何か言った?」
「…何でもない」
俊は妙な違和感を拭えないが、祐人の間の抜けた一言で考えるのをやめた。祐人はテレビ画面に映し出されたゲームから視線を離す気配は無い。
「お前本当にゲーム好きだな」
「当たり前だよ!物心ついた時からやってるからね!」
「で、そんなお前はゲーム内で使えるスキル何にしたんだ?」
「オプションだよ!」