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花の乙女  作者: 姫柊ほの
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桃の乙女編 8

 大学は主に4つの校舎に分かれている。

 皆が普段の講義を受けるのは本館である。ここには教授達の研究室や個室があり、構内では一番大きな校舎である。

 東館は特別プログラムを行う校舎であり、この校舎の上階には先ほどの四家当主専用ルームがある。その場所は許可を得た者だけが立ち入れる特別な場所である。

 また、乙女となった者及び四家に仕える者やその身体に痣が発現した男子生徒が特別講義を受ける場所でもある。

 南館が、主にクラブやサークル活動の部屋がある場所である。

 大学としては国内では最大の生徒を有するので、クラブやサークルは活動的であり、大勢の人数が出入りするので、一番にぎわっている校舎でもある。

 そして、西館。

 緑に囲まれ、少しひっそりと佇んでいるように思われるが、ここには図書館や研究室、また防音設備が整っているので、サークルで音楽活動をしている生徒が設備を使用して練習したり、音楽科もあるので楽器の試験のため個室を借りられるようになっている。

 また、静かに集中して研究を行いたいための生徒の為に解放された設備もあり、研究に没頭する教授の多くがこの西館に集っていた。

 クラブ活動等で集う南館もそれなりの設備や広さもあるが、西館は研究のための設備や資料が揃っていることもあり、校舎としては一番の広さと高さを有していた。

 暁月教授が居る部屋は、この西館の最上階。上階2階は教授たちの部屋が並んでいるが、最上階は2室しかなく、その両方とも暁月教授が専有していた。そして、そこには機密文書も多いため、教授に会いに行くには特別な許可証を通さなければ最上階には行けないようになっている。

 美櫻は一度本館の管理室に赴き、そこで予め暁月教授から送られてきた書類を渡し、西館最上階に入るための許可証(ICカード)を受け取った。

 体育館では入学式が始まっているらしく、廊下には人もまばらで静まり返っている。

 美櫻は本来なら入学式に出席するはずなのだが、暁月教授に時間指定されていることもあり、入学式への参加は免除されている。

 最上階に向かう唯一のエレベーターに乗り込み、ICカードをかざすと、静かに扉が閉まり、最上階へと直行で動き始めた。


 実は、これから会いに行く暁月教授の事を、美櫻はよく知らなかった。

 噂で聞きくには、「頭の固い学者」とか、研究に没頭する「狂人」とか、酷い言われ方をしているようだが、他人の言う事など当てにならないことを美櫻は知っている。

 だから多少の先入観はあるとしても、自分で確かめるまではその先入観で意識を固定しないように心掛けていた。

 最上階に到着し、エレベーターのドアが開くと、広い廊下を挟んで扉がある。

 その扉の横には、暁月教授の名前のプレートと共に「部外者入室禁止」という文字と、「邪研究所」という文字が書かれたプレートも張り付けてあった。

(まぁ、そううよね。邪研究の第一人者だし・・・。)と美櫻は思いつつ、少し遠慮がちにノックをした。


 (あれ・・・? 反応がない・・・。)


 ノックをしたものの、誰か出てきそうな雰囲気はなかった。


 (音が小さすぎたのかな・・・。)


 今度はもう少し大きな音でノックしてみようと思ったが、ふと横を見ると呼び鈴があった。


 (あぁ、これを押せばいいのね。)


 そういえば、この建物は防音が完璧だから、小さな音なら余計に聞こえないのだろうと、美櫻は呼び鈴を押した。

 少し待つと、内側から二箇所の鍵が開く音がして、慌てた様子で扉を軋ませながら横に開いた。

 現れたのは白衣を着た40代と思われる男性。身なりは整っているのに、天然パーマの長い髪を少しだらしなく束ねた姿がアンバランスに感じる。


 「ごめんごめん、ちょっと夢中になってしまってて、呼び鈴で驚いちゃって。」


 バツが悪そうに笑いながら、その男性は美櫻を部屋へと招き入れた。

 胸の職員証には「教授 曉月充幺」と書かれているから、本人で間違いないだろう。

 招き入れられた部屋は、きちんと整頓されてスッキリしているが、奥の机の周りには、書類が雪崩れ落ちた跡があった。

 さっきのバツが悪そうに笑っていたのは、防音設備が整っているのでノックでは聞こえなかったらしく、呼び鈴の音で美櫻が訪ねてくることを思い出したようで、それで慌ててしまい、机の角にしこたま自分の足を打ち付けた上に、どうやらこれらの書類を落としてしまったようだ。 

 その雪崩れた書類を横目に、美櫻は奥の来客用のテーブルに案内された。

 そして、暁月教授は「これ、片付けるの面倒くせ~。」とボヤキながら隣の部屋に入っていってしまったので、美櫻はその場で待たされることとなってしまった。

 最上階という事もあり、案内された場所は日当たりも良く、防音も整っているので静かな部屋だった。

 背中に日光を受けていたら、うたた寝してしまいそうなくらいに心地いい。

 このままだと本当に眠ってしまいそうなので、美櫻は立ち上がって窓から景色を眺めることにした。ここは最上階なのだ。きっと見晴らしも良いのだろうと思ったのだ。

 緑に囲まれているので、南館の様子は少しうかがえるが、人もまばらで閑散としていた。入学式ということもあり、今日は新入生の登校が殆どで、在校生の姿はまだ少ない。

 ただ、入学式後のイベントでもある、各クラブやサークルの勧誘のための準備に勤しむ上級生の姿も見られる。


 (そう言えば、入学式が行われる体育館の前に、かなりの数のテントが並んでたっけ・・・。)


 それには(巻き込まれたくはないなぁ)と思いながら、何かを指示しながら走って行く先輩達の姿を眺めていた。

 音こそ聞こえてはこないけれど、人間観察はおもしろく、慌てて走る姿をみてついつい笑みがこぼれる。


 「いやぁ~、おまたせ~。さぁ、座って座って~。」


 そう言いながら、お茶とお茶菓子を載せた盆を片手に曉月教授が戻ってきた。


 「あぁ、気になるだろうけど、あの書類の山はおいといてね~。後で片付けるから~。」


  「教授」というからお堅いイメージをしていたけれど、思っていたよりも雰囲気が柔らかくて親しみやすい感じがする。

 少し鼻歌を歌いながら、ぎこちない手つきでテーブルの上にお茶のセットが並べられていく。

 美櫻はまた日当たりの良い椅子に戻った。

ブクマ第1号、ありがとうございます。

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